仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

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H.R.3 最強の不法侵入者と、境界の守護者

 

 それは、博麗霊夢が黒山に拠点を構え、自衛隊を追い返してから数日後のことだった。

 

 5月の昼下がり。

 

 霊夢は、社務所の縁側で茶を啜りながら、完成したばかりの防衛システムに満足げなため息をついていた。

 

「……完璧ね」

 

 神社の周囲には、二重三重の結界が張り巡らされている。

 

 外側には、物理的な侵入を拒む「博麗大結界・簡易版」。

 

 内側には、前世の島根と今世で培った神職知識を総動員した「八重垣(やえがき)の術式」。

 

 これにより、許可なき者は鳥居をくぐることすらできない。

 

 泥の怪異だろうが、重武装した軍隊だろうが、この聖域には指一本触れられないはずだった。

 

(これで安眠が確保できるわ。あとは参拝客さえ来れば……)

 

 ズズズ、と茶を飲み干した、その時だった。

 

 チャリン。

 

 硬貨が落ちる音がした。賽銭箱の方からだ。

 

「……は?」

 

 霊夢は湯呑みを持ったまま凍りついた。

 

 警報は? 鳴っていない。

 

 結界の破損は? どこにもない。

 

 なのに、「すでに境内に誰かいる」。

 

 霊夢は音もなく立ち上がり、気配を消して拝殿へと回り込んだ。

 

 そこにいたのは、あまりにも異質な「二人組」だった。

 

「へえ。これが噂の『博麗神社』か。案外ボロ……じゃなくて、趣があるね」

 

 賽銭箱の前で、長身の男がニヤニヤと笑っている。

 

 白髪。黒いサングラス。上質なシャツにスラックス。

 

 その立ち姿だけで、周囲の空間が彼を中心に歪んでいるような錯覚を覚える。

 

「んあ〜……おじさん、眠いよぉ……ここ、日当たり良すぎない……?」

 

 そして、その足元の石畳に、ピンク髪の少女が直接寝転がっていた。

 

 だらしない格好だが、その身体から漂う「神秘」の密度は、拝殿の神気すら凌駕している。

 

(……いつ入った? いや、違う)

 

 霊夢は戦慄した。

 

 男の方は、結界を「壊して」いない。「無限」の距離を操り、結界の座標をすり抜けて入ってきたのだ。

 

 そして少女の方は、結界が彼女を「異物と認識できずにスルーした」。あまりに自然体すぎる「神秘」の塊だからだ。

 

「……無銭参拝はお断りよ」(※無銭じゃないです)

 

 霊夢は静かに声をかけながら、袖の中から大麻(おおぬさ)を取り出した。

 

 瞬時に、空気が張り詰める。

 

 男――五条悟が、ゆっくりと振り返った。

 

 サングラス越しに、蒼い瞳が霊夢を射抜く。

 

「お、怖い怖い。挨拶に来ただけだって。……僕ら、ご近所さんだし?」

 

「挨拶なら鳥居から入り直しなさい。不法侵入者には、お祓い(物理)で返すのがウチの流儀よ」

 

 問答無用。

 

 霊夢は地面を蹴った。

 

 速い。

 

 常人なら視認すらできない速度で踏み込み、神気を込めた大麻で、男の脳天をカチ割る一撃を放つ。

 

 ガギィン!!

 

 硬質な音が響いた。

 

 大麻は、男の髪の毛一本触れることなく、その数センチ手前で「見えない壁」に阻まれて停止していた。

 

「おー、いい踏み込み。……でも、僕には当たらないよ」

 

 五条が余裕の笑みを浮かべる。

 

 「無限」。対象との間に無限の距離を作る、絶対不可侵の術式。

 

 霊夢の脳内で、前世のオタク知識が警鐘を鳴らす。

 

(やっぱりこいつ、五条悟だわ! 物理無効、術式無効のチートキャラ!)

 

 だが、今の霊夢は「ただのファン」ではない。博麗の巫女であり、明階の位を持っていた神職だ。

 

 この程度の理不尽、幻想郷(のシミュレーション)で飽きるほど見てきた。

 

「……当たらないなら、『当たる理屈』を無視するだけよ」

 

 霊夢の瞳が、暗い赤色に輝いた。

 

 ふわり、と彼女の体が重力から解き放たれる。

 

 いや、重力だけではない。摩擦、抵抗、距離、因果。あらゆる物理法則から、彼女の存在が「浮いた」。

 

 ――夢想天生(むそうてんせい)・片鱗。

 

 霊夢の大麻が、音もなく軌道を変えた。

 

 無限のバリア? 関係ない。

 

 彼女は今、現実の座標軸にいない。

 

 「そこにある」という事実だけを残し、干渉判定をすり抜けて、五条の懐へと「滑り込んだ」。

 

「……っ!?」

 

 五条の余裕が消えた。

 

 彼は反射的にバックステップを踏み、同時に強烈な呪力を掌に収束させる。

 

 ドォォォォォン!!

 

 二人の力が衝突……しなかった。

 

 衝突する寸前で、巨大な鋼鉄の壁が間に割って入ったのだ。

 

「うへぇ……おじさんの昼寝を邪魔する子は、お仕置きだよぉ……」

 

 寝ていたはずの少女――小鳥遊ホシノが、いつの間にか二人の間に立っていた。

 

 その手には、自身の身長ほどもある巨大な展開式盾(アイアン・ホルス)。

 

 霊夢の「夢想」の一撃と、五条の「無限」の余波を、彼女はあくび混じりに受け止めていた。

 

 三すくみ。

 

 境内が静寂に包まれる。

 

(……嘘でしょ)

 

 霊夢は冷や汗を流しながら、距離を取って着地した。

 

 五条悟の「無限」をすり抜けるつもりだったが、その攻撃をホシノの「神秘」が弾いた。

 

 相手は、ジャンプ最強とブルアカ最強。こっちは東方最強(自称)。

 

 これ、続けてたら境港の地図が書き換わるわよ。

 

「……やるねえ」

 

 五条が口笛を吹いた。

 

 その目は、もう霊夢を「ただの神社の娘」とは見ていない。

 

「空間干渉を無視して、因果ごと『浮く』能力か。……噂には聞いてたけど、これが『博麗』の力ってわけ?」

 

「あら、ウチのことご存知?」

 

 霊夢は大麻を下ろし、警戒を解かないまま問いかけた。

 

「そりゃね。この業界じゃ都市伝説だろ。『あらゆる境界を司る、幻想の社』。……まさか、この黒山に流れ着いてるとはね」

 

「おじさんも知ってるよぉ。……ここの神様、すっごく気難しいって。でも、巫女さんは意外と武闘派なんだねぇ」

 

 ホシノも盾を下ろし、のほほんとした笑みに戻る。

 

 どうやら、彼らはこの世界の住人として、「博麗神社」の知識を持っているらしい。

 

 そして、霊夢の実力が「対等(あるいはそれ以上)」であると認めたようだ。

 

(……助かった。これ以上やったら、神社の修繕費が億を超えるわ)

 

 霊夢は瞬時に計算した。

 

 この二人と敵対するコストと、仲良くする(利用する)メリット。

 

 答えは一つだ。

 

 彼女はスッと表情を緩め、完璧な「営業スマイル」を浮かべた。

 

「……失礼しました。最近、タチの悪い泥棒が多くて、つい過剰防衛してしまいまして」

 

「ははっ、泥棒扱いか。傷つくなあ」

 

「で、ご用件は? 賽銭箱の前にお立ちということは、参拝をご希望で?」

 

 霊夢は箒で賽銭箱をポンと叩く。

 

 「金を出せ」の合図だ。

 

 五条はニカっと笑い、懐から財布を取り出した。

 

「いいよ、気に入った。君みたいな強い術師が近くにいるなら、六花(娘)にとっても悪くないしね」

 

「おじさんも、ここの縁側気に入ったよぉ。……また寝に来ていい?」

 

「ええ、構いませんとも。『維持管理費(お賽銭)』さえ頂ければ、特等席をご用意しますわ」

 

 五条が放り込んだ万札が、賽銭箱の中で軽い音を立てた。

 

 こうして、最強の呪術師と、最強の神秘、そして博麗の巫女による、奇妙なご近所付き合いが始まった。

 

 霊夢は彼らを見送りながら、心の中で固く誓った。

 

(……絶対に関わらない。挨拶と集金だけして、徹底的に距離を置くわ。あんなの、混ぜるな危険の劇薬よ!)

 

 しかしその誓いが数ヶ月後、彼らの娘である六花と、転生者の少年・蓮によって破られることを、今の彼女はまだ知らない。

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