仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

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008 Reliquiae et Scientiae ex Futuro

 

【極秘提言書】特異領域『黒山』の恒久的処理に関する時空物理工学からのアプローチ

 

作成:J-GOC 未来戦略室・第7次元物理学班

日付:207X年 11月

分類:CLEARANCE-V(国家存亡に関わる事案)

 

1. 概要(Abstract)

 

 2013年の「博麗大結界」再構築以降、特異領域『黒山(Black Mountain)』は半世紀にわたり相対的な安定期にある。しかし、この安定は特定個人(博麗の巫女およびその継承者)の「観測」と「信仰」に依存する不安定なものである。

 本提言は、近年の時空物理工学の進歩――特に「局所的因果律操作」と「位相幾何学的切除(Topological Excision)」の技術を用い、黒山を物理宇宙から恒久的に隔離、あるいは消去する可能性について論じる。

 

2. 現状分析:黒山の物理的構造

 

 最新の「高次元レーダー(Hyper-dimensional Radar)」による解析の結果、黒山の正体が「3次元空間における物質の堆積」ではなく、「高次元空間(バルク)からの4次元時空への貫通創(Puncture wound)」であることが確定した。

 

構造:

 黒山は、我々の宇宙の「膜(ブレーン)」に開いた穴であり、そこから「負のエントロピー泥(Primordial Mud)」が流入し続けている。

 

塩の役割:

 周囲の塩害は、宇宙の自己修復機能(免疫反応)による「結晶化(かさぶた)」である。

 

結論:

 従来の「蓋をする」アプローチ(人柱や結界)は、出血を指で押さえているに過ぎない。根治には「外科手術」が必要である。

 

3. 提言:具体的処理プラン

 

【プランA:位相幾何学的閉鎖(Topological Closure)】

 

~「巾着袋」作戦~

 

理論:

 黒山を含む空間領域の周囲に「人工重力子(Artificial Graviton)」を配置し、空間の曲率を極限まで高める。

 空間を歪曲させ、黒山の入り口(イベントホライゾン)を物理的に閉じることで、我々の宇宙から切り離し、独立した「小宇宙(ポケット・ディメンション)」として隔離する。

 

メリット:

 周囲への物理的被害が最小限で済む。

 

リスク:

 閉鎖した小宇宙内部で泥の圧力が臨界点を超えた場合、「真空崩壊(Vacuum Decay)」を引き起こし、隔離壁を食い破って再出現する(リバウンド)可能性がある。

 

【プランB:因果律遡行による剪定(Causal Pruning)】

 

~「存在しなかったこと」にする~

 

理論:

 「閉鎖的時間曲線(CTC)」を利用し、微細な量子情報を過去へ送信する。

 神話時代(イザナギ・イザナミの国産み以前)の座標に干渉し、原初の泥が日本海(当時の北の海)に漂着する因果そのものを逸らす。

 

メリット:

 成功すれば、黒山は最初から存在しなかったことになり、過去の犠牲者(坂口氏ら)も生存する歴史に書き換わる。

 

リスク:

 「バタフライ効果」による予測不能な歴史改変。

 黒山が存在しなかった場合、鳥取県(あるいは日本列島そのもの)の形成プロセスが崩れ、現在の国土が消滅する恐れがある。リスクが高すぎるため、現段階では凍結推奨。

 

【プランC:エントロピー変換炉(Entropy Converter)】

 

~「毒をエネルギーに変える」~

 

理論:

 黒山を「ゴミ捨て場」ではなく「無限の油田」として再定義する。

 「次元フィルター」を設置し、湧き出る泥から「悪意」や「精神汚染成分」のみを濾過。純粋な高エネルギー体として抽出し、日本の総電力需要を賄う恒久機関とする。

 ※かつての「昭和のエネルギー転用計画」の完成形。

 

メリット:

 経済的利益が計り知れない。

 

リスク:

 炉心融解(メルトダウン)した場合、汚染物質が瞬時に大気中に拡散し、「日本全土の黒山化(精神的異界化)」を招く。いわゆる「第3次インパクト」級の災害リスク。

 

4. 21世紀後半の技術的課題

 

 最大の障害は、黒山が持つ「観測者依存性」である。

 どれほど高度な物理工学を用いても、人々の集合無意識が「あそこに不気味な山がある」と認識している限り、山は量子的に再構成され続ける。

 

【解決策:ミーム的忘却措置】

 

 物理的な除去と並行して、以下の措置が不可欠となる。

 

認識阻害フィールドの展開:

 境港市全域に、脳の視覚野へ直接干渉する電磁波を照射し、黒山を「見えていても認識できない」状態にする。

 (※第10話で佐藤蓮が行った「サングラスによる遮断」を、都市規模で行う)

 

歴史改竄:

 デジタルアーカイブおよび紙媒体から「黒山」の記述を完全に削除し、次世代の教育からその存在を抹消する。

 

5. 結論(Conclusion)

 

 現状の技術レベルでは、「プランA:位相幾何学的閉鎖」と「ミーム的忘却措置」の併用が最も現実的かつ安全な解である。

 

 しかし、忘れてはならない。

 我々が「手術」で患部を切り取ったとしても、その「切り取られた山」は、虚数空間の彼方で永遠に漂い続けることになる。

 いつか、遥か未来の、別の文明がそれを見つける日が来るかもしれない。

 

 その時、彼らがこの「日本の業(カルマ)」をどう扱うかは、我々の関知するところではない。

 

J-GOC 未来戦略室 室長代理:佐藤 六花(旧姓:小鳥遊)

技術顧問:五条 ■■

 

 

 

 

 

 

 黒山の一件から数週間。

 僕、佐藤蓮の日常は、ようやく平穏を取り戻しつつあった。漢字テストも近い。今日は真面目に勉強しようと、久しぶりに学習机の引き出しを開けた。

 

「……ん?」

 

 一番下の、参考書を入れている引き出しの奥。そこに、見慣れないものが入っていた。

 

 丸められた、古びた羊皮紙。

 

 端が焦げ、変色し、博物館に置いてあるような数千年前の質感。オカルトグッズ? いや、こんなもの買った覚えはない。

 

「なんだこれ……」

 

 恐る恐る紐を解き、広げてみる。

 その瞬間、僕は自分の目を疑った。

 

 羊皮紙の表面に印字されていたのは、手書きの古代文字ではない。驚くほど高精細な、現代の明朝体フォントだった。

 

【極秘提言書】特異領域『黒山』の恒久的処理に関する時空物理工学からのアプローチ

日付:207X年 11月

分類:CLEARANCE-V(国家存亡に関わる事案)

 

「……2070年?」

 

 未来の日付。

 なのに、紙は数千年前のもの。オカルトで言うところの「時代錯誤遺物(オーパーツ)」あるいは「因果律違反」の産物だ。

 

 そして、その末尾にある署名を見た瞬間、僕の思考は完全に停止した。

 

作成者:J-GOC 未来戦略室 室長代理:佐藤 六花(旧姓:小鳥遊)

 

「…………は?」

 

 佐藤、六花。旧姓、小鳥遊。

 つまり、未来の六花ちゃんが、僕(佐藤)と結婚して、この書類を書いた?

 

 顔から火が出るかと思った。なんだこれ。未来からのラブレターか? いや、内容は「国家存亡の危機」だけど。

 

 

2. 屋上の緊急会議

 

 翌日。

 僕は羊皮紙を鞄に隠し、学校の屋上へと走った。イチゴオレを飲んでいる六花を見つけ、無言でその紙を突きつける。

 

「……なにこれ、汚い紙」

 

「いいから読んで! 特に最後!」

 

 六花は怪訝な顔で羊皮紙を受け取り、読み進めた。

 最初は興味なさそうにしていたが、途中から眉をひそめ、最後に署名を見た瞬間――。

 

 ブフォッ!!

 

 彼女はイチゴオレを盛大に吹き出した。

 

「な、ななな、何よこれ!? さ、さささ、佐藤六花ぁ!?」

 

「僕が書いたんじゃない! いつの間にか引き出しに入ってたんだ!」

 

「悪戯だ! 悪質なコラだ! ……いや、でも」

 

 六花は顔を赤くして狼狽えていたが、すぐに深呼吸をして、紙面を凝視した。

 彼女の瞳(オッドアイ)が、書かれている数式や理論を追う。

 

「……この記述。『位相幾何学的閉鎖』とか『因果律遡行』とか書いてあるけど……」

 

「わかるの?」

 

「大学の一般教養レベルの物理なら分かるけど……この数式、変だよ。既存の物理法則を無視してるのに、計算式としては成立してる。……今の科学じゃありえない理論だ」

 

 彼女は羊皮紙の端を指で弾いた。

 

「それに、この紙。炭素年代測定したら数百年前の結果が出そうだけど、印字されてる文字はレーザー刻印みたいに精巧だ。……気持ち悪い」

 

 六花は身震いした。

 未来からの手紙、なんてロマンチックなものじゃない。存在してはいけないものが、物理法則を無視してそこに在るという「生理的な嫌悪感」。

 まさにSCP的な不気味さが漂っていた。

 

「……蓮くん。これ、私たちの手には負えない」

 

「じゃあ、五条さんに?」

 

「ううん。パパは『呪い』なら詳しいけど、これは明らかに『科学(物理)』の領分だ。……パパの知り合いに、もっと適任な『変人科学者』がいる。そっちに回そう」

 

 

3. 技術屋の憂鬱

 

 それから三日後。

 僕たちは骨董店『界』で、その人物の到着を待っていた。

 五条さんとホシノさんは、羊皮紙を見て「あはは! 佐藤六花だって! ウケる!」と爆笑し、六花はずっと不機嫌そうにクッションを殴っていた。

 

 カラン、コロン。

 ようやく店のドアが開いた。

 

「すまない、遅くなった」

 

 現れたのは、白衣を着た長身の男だった。目の下には濃い隈があり、髪も少し乱れている。手には分厚いファイルとタブレット端末。見るからに激務の最中を抜け出してきた様子だ。

 

「やあ、五条。面白い『未確認遺物』が手に入ったと聞いて飛んできたが……こっちは予算委員会との折衝で徹夜明けだ。手短に頼む」

 

 その声を聞いた瞬間、僕の「記憶」が反応した。落ち着いた低音。論理的で、少し機械的な口調。間違いない。

 

「紹介するよ。J-GOC技術開発局・特別顧問の真田志郎(さなだ しろう)だ」

 

 真田志郎。

 アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の技師長。

 あらゆるトラブルを「こんなこともあろうかと」で解決する、稀代の天才科学者。

 彼もまた、この世界への転生者だったのか。

 

「初めまして、君たちが発見者かな」

 

 真田さんは僕と六花を一瞥した。

 その鋭い視線が、僕たちの中にある「同類(転生者)」の気配を探るように細められる。だが、隣に五条さんがいる手前、彼は何も言わずに羊皮紙へと視線を移した。

 

 彼は懐から小型のスキャナーを取り出し、光を当てる。

 モニターに表示される波形を見ても、彼の眉一つ動かない。

 

「……ふむ。材質は紀元前の羊皮紙だが驚くほど保存状態がいい。そして、文字部分はナノレベルで炭化されている。……典型的なオーパーツ(時代錯誤遺物)だね」

 

「あの、真田さん。これ、未来から来たってことですか?」

 

 僕が尋ねると、真田さんは眼鏡の位置を直し、淡々と言った。

 

「断定はできない。高次元からの落とし物かもしれないし、並行世界からの漂流物かもしれない。……ただ一つ言えるのは、この物質は『現在の因果律に違反している』ということだけだ」

 

 彼は羊皮紙をつまみ上げた。

 

「これが未来の君たちからの警告なのか、あるいは誰かの悪質なシミュレーションなのかは不明だ。……だが、ここに書かれている理論――『黒山を物理的に除去する』というアプローチ自体は、非常に興味深い」

 

 

 真田さんはタブレットを操作し、羊皮紙のデータを解析し始めた。

 

「この提言書にある『プランA:位相幾何学的閉鎖』。……空間を湾曲させて黒山を隔離する案だが、これを実行するには莫大なエネルギーが必要だ。現代の科学では不可能に近い」

 

「じゃあ、無理なんですか?」

 

「『現代の』科学ではね」

 

 真田さんは僕と六花だけに聞こえるような声量で、ボソリと言った。

 

「……私の頭の中には、ある理論がある。空間からエネルギーを取り出す『波動』の理論だ。……まだ概念設計の段階だがね」

 

 波動エンジン。

 やはり、彼はその知識を持っている。

 

 彼は懐から、無骨な黒いデバイスを取り出した。計器類が剥き出しになった、試作品のような機械。

 

「『空間位相観測機・試作型』だ。……こんなこともあろうかと、理論検証用に作っておいたんだがね」

 

「へえ、面白そうなオモチャじゃん」

 

 五条さんが後ろから覗き込む。真田さんは咳払いをして、話を逸らした。

 

「こいつはまだ、空間の歪みを『観測』することしかできない。エネルギー出力なんて豆電球レベルだ。……だが、この羊皮紙に書かれている数式は、私の理論を補完している」

 

 彼はデバイスをテーブルに置いた。重厚な金属音が響く。

 

「この羊皮紙が本物かどうかは、もはや問題ではない。……重要なのは、これが我々に『黒山を消せる可能性』を提示したということだ」

 

 真田さんは僕たちを見回した。

 

「やるかね? この胡散臭い指示書に従って、神話の時代からある『デキモノ』を切除する手術の準備を」

 

 六花ちゃんが僕を見た。顔はまだ少し赤いが、その瞳には強い意志が宿っていた。羊皮紙に書かれた「佐藤六花」という名前。それが真実かどうかなんて分からない。

 でも、もし未来の彼女が助けを求めているなら。

 

「……やりましょう」

 

 僕は答えた。

 

「未来がどうなるか分からないけど……このまま黒山を放置しておくよりはマシです」

 

 真田さんは満足げに頷いた。

 

「よし。では作戦会議だ。……ターゲットは黒山。作戦名は『オペレーション・アルカディア』」

 

「成功確率は未知数。だが、やってみる価値はある」

 

 謎のオーパーツを中心に、最強の呪術師、物理最強の少女、多忙な天才科学者。

 そして一人のモブ。

 

 僕の机の引き出しから始まった、時空を超えた(かもしれない)ミステリーは、科学とオカルトが交差する新たな実験へと動き出した。

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