仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

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作中に出てきた『【非公式】よくわかる「境港市」ガイド(改訂版)』の全文です。


【非公式】よくわかる「境港市」ガイド(改訂版)

 

【非公式】よくわかる「境港市」ガイド(改訂版)

 もし貴方が「向こう側(現実世界)」の記憶を持っているなら、この街の地図を見た瞬間に強烈な目眩を覚えるはずだ。ここは鳥取県境港市。私の知っているそれとは、似て非なる「継ぎ接ぎだらけの港町」である。

 

1. 地理:ありえない「起伏」

 現実の境港市を知っている人間がまず驚愕するのは、その地形だ。

 本来、弓ヶ浜半島は「砂州」である。米子から境港の先端まで、平坦な松林と砂地が続く、のっぺりとした地形のはずだ。

 しかし、この世界の境港市には「山」がある。

 半島の南西部、中海に面した一角が、まるで腫れ物のように隆起している。通称「黒山(くろやま)」。植生が濃すぎて中の様子が伺えないこの丘陵地帯は、地図上では「市街化調整区域」や「保安林」となっているが、地元民は誰も近づかない。

 平坦なはずの砂州に突き刺さったこの異物が、街の景観に奇妙な圧迫感を与えている。

 

2. 経済:異常な「潤い」

 この街は、異常なほどに金持ちだ。

 人口は約6万人弱(現実世界では3万人強)だが、財政指数は都市規模に見合わない数値を叩き出している。理由は明白。岬の先端、そして黒山の向こう側に鎮座する「エネルギー関連施設(および原発)」からもたらされる巨額の交付金だ。

 おかげで、市内を走る県道は無駄に高規格で広く、市民会館や図書館などの「ハコモノ」は都内の私立大学並みに豪華絢爛だ。優美ささえある大型船と錆びついた小型漁船。ピカピカの公共施設。シャッター商店街になりかけた路地と、真新しい舗装道路。

 このアンバランスな「豊かさ」こそが、この街が何かの実験場であることを無言に語っている。

 

3. 観光:熱狂する「ロード」

 JR境港駅から続く「水木しげるロード」。

 向こう側でも人気の観光地だが、こっちの世界では熱気が違う。年間観光客数は300万人オーバー。週末になれば、狭いアーケードは原宿の竹下通りかと見紛うほどの過密状態になる。

 妖怪ブロンズ像の前で記念撮影をする観光客たちの笑顔は、どこか熱に浮かされたように明るい。彼らは知らないのだ。自分たちが踏みしめているその道が、ただの観光資源ではなく、何かを封じるための……いや、これ以上の推測は野暮というものだろう。

 

4. 交通:閉ざされた「陸の孤島」

 三方を海(日本海・中海・境水道)に囲まれたこの街からの脱出ルートは限られている。

 国道431号線

 南の米子市へ抜ける国道431号線は、常に渋滞で麻痺している。

 江島大橋(通称:ベタ踏み坂)

 北の島根県へ抜ける江島大橋は、現実よりもさらに勾配がきつく、もはや「壁」にしか見えない。しかも、冬場は強風で頻繁に通行止めになる。

 境水道大橋

 境水道を跨ぎ、島根半島の美保関(みほのせき)へと続く、巨大なアーチ橋だ。高さ40メートル。下を行き交う大型船のために極端に高く作られたこの橋は、江島大橋よりも歴史が古く、そして「暗い」。錆の浮いた鉄骨、低い欄干、常に橋の下から吹き上げてくる冷たい海風。

 何より、この橋が繋がっている先は、古い神話の力が色濃く残る「美保関(聖域)」だ。

「近代的な都市(米子・松江)」へ逃げたい者が、わざわざ「神と怪異の領域」へ足を踏み入れるべきではない。

 地元民は知っている。「ベタ踏み坂は風で止まるが、水道大橋は"出る"から通りたくない」と。

 

 入るのは簡単だが、出るのは難しい。一度住めば、鉛色の空と潮風に絡め取られ、一生をこの「砂糖菓子でできた檻」の中で過ごすことになる。

 

 総評

 魚は美味い。カニの水揚げも日本一。インフラも完璧。

 けれど、もし貴方がこの街に転生したのなら、悪いことは言わない。「黒山」の方角と、「曇りの日の海」だけは見てはいけない。そこにあるのは、貴方の知っている鳥取県ではないのだから。

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