仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

45 / 59
028 大山地下壕の石仮面、あるいは深淵にて呼吸する者

 

 2015年、5月某日。深夜。鳥取県・大山の中腹。連日の雨により、地盤は緩み、空気は腐った土の匂いを孕んでいた。

 

「……おい、現場監督。こいつぁ妙だぞ」

 

 掘削機のオペレーターである田中が、無線で怒鳴った。先端のドリルが、硬い岩盤を砕いていた音が唐突に変わったのだ。ガガガガ……ゴウン。まるで、空洞に突き当たったような、頼りない感触。

 

「なんだ、地下水脈か?」

 

 現場監督の山崎は、タバコを揉み消し、数名の作業員と共に切羽(きりは)へ向かった。投光器の明かりが、掘削面を照らす。そこには、自然の洞窟ではなく、人工的な「コンクリートの壁」が露出していた。

 

「防空壕か……?」

 

 山崎が壁に触れる。冷たく、湿っている。コンクリートには、風化してはいるものの、旧日本軍の『旭日旗』のペイントが残っていた。

 

「お宝じゃねぇですか、監督!」

 

 田中が目を輝かせ、バールで壁をこじ開けようとする。

 

「軍の隠し倉庫かもしれねぇ! 金塊とか、未発見の物資とか!」

 

「よせ、田中! 調査が入るまで触るな!」

 

 山崎が止めるのも聞かず、田中は功名心に駆られて壁の一角を崩した。

 

 プシュゥゥゥ……。

 

 穴から、七十年前の空気が漏れ出した。それは鉄錆とカビ、そして……濃厚な「ホルマリン」のような刺激臭がした。

 

「うへぇ、臭ぇ……。でも、中は広そうだぞ」

 

 田中は懐中電灯を片手に、崩れた穴から中へと侵入していく。他の三名の作業員も、恐る恐る後に続いた。山崎は嫌な予感がした。背筋に冷たい何かが走る感覚。だが、部下を放っておくわけにもいかず、彼は舌打ちをして穴をくぐった。

 

          ◇

 

 中は、予想以上に広大な施設だった。壁には朽ち果てた配電盤。床には散乱した書類。そして通路の奥には、巨大な鉄扉が半開きになっていた。

 

「おい見ろよ! なんだこりゃ!」

 

 先頭を進んでいた田中が、実験室とおぼしき広間で声を上げた。山崎たちが追いつくと、そこには異様な光景が広がっていた。ガラスの割れた培養槽。手術台の上に放置された、干からびたミイラのような遺体。そして、部屋の中央にある祭壇には、一枚の「石仮面」が飾られていた。

 

「仮面……? なんだこりゃ、気味が悪ぃな」

 

 田中が祭壇に近づく。その時、彼は足元の瓦礫に躓き、転倒した。手のひらを、割れたガラス片で切ってしまう。

 

「痛ってぇ……。クソッ、ついてねぇな」

 

 田中は血の滲む手を振った。赤い飛沫が飛び散る。その数滴が、偶然にも――あるいは運命の引力によって――祭壇の奥、暗闇に鎮座していた「棺」のような箱に付着した。

 

 ジュッ。

 

 肉が焼けるような音がした。山崎は耳を疑った。血が、箱に吸い込まれた?

 

「……おい、田中。戻ろう。ここはヤバい」

 

 山崎が後退りを始める。だが、田中は止まらない。

 

「ビビりすぎですよ監督。こんなボロ小屋に何が……」

 

 ギィィィィ……。

 

 箱の蓋が、内側から開いた。

 

          ◇

 

 箱の中から現れたのは、軍服を着た男だった。肌は陶器のように白く、痩せこけているが、その眼光だけは異様に鋭い。鬼島少佐。彼は七十年の眠りから覚め、鼻をひくつかせた。

 

「……匂うぞ」

 

 その声は、錆びついた扉が擦れるような、不快な響きを持っていた。

 

「な、なんだアンタ! 浮浪者か!?」

 

 田中が懐中電灯を向ける。光を浴びた男は、眩しそうに目を細めたが、次の瞬間には消えていた。

 

「え?」

 

 田中の視界が反転した。気づけば、彼は天井を見上げていた。いや、自分の体が宙に浮いている?違う。首を掴まれ、持ち上げられているのだ。

 

「ぐ、が……ッ!?」

 

 目の前に、鬼島の顔がある。その口元からは、鋭い牙が覗いていた。

 

「新鮮な……血だ」

 

 ズプッ!!鬼島の指先が、田中の首筋に突き刺さった。絶叫すら上げられなかった。田中はビクンと痙攣し、次の瞬間には全身の血液が掃除機で吸われるように搾り取られていく。プシュー、ズズズ……。生理的嫌悪感を催す水音が、静まり返った実験室に響き渡る。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

 

 後ろにいた作業員の一人が悲鳴を上げ、腰を抜かした。山崎は凍りついた。目の前で、部下の体がみるみる萎んでいく。ほんの数秒前まで生きていた田中が、今は枯れ木のようなミイラとなって床に投げ捨てられた。

 

「……足りん」

 

 鬼島が口元の血を舐め取る。その瞳が、赤く輝き始めた。彼はゆっくりと、山崎たちの方へ首を巡らせた。

 

「七十年分の渇き……貴様らで癒やすとしよう」

 

          ◇

 

「逃げろォォォォ!!」

 

 山崎の絶叫と共に、残りの四人は我先にと出口へ走った。だが、彼らが侵入してきた穴――トンネルへと続く唯一の脱出口に辿り着いた時、絶望が待っていた。

 

 ドォォォォン!!

 

 背後から何かが投げつけられた。それは、田中の干からびた死体だった。死体は砲弾のような速度で入り口の瓦礫に激突し、支柱を破壊した。ガラガラガラ……!土砂崩れが起き、出口が完全に塞がれてしまった。

 

「嘘だろ……閉じ込められた……!」

 

 若い作業員の佐藤が泣き叫ぶ。懐中電灯の光が、埃の舞う密室を頼りなく照らす。

 

「ククク……。逃げ場はない」

 

 暗闇の奥から、足音が響く。カツ、カツ、カツ……。軍靴の音。鬼島は走らない。獲物を追い詰める捕食者の余裕を持って、ゆっくりと近づいてくる。

 

「隠れろ! バラバラに逃げて隠れるんだ!」

 

 山崎が叫び、四人は複雑に入り組んだ地下施設の奥へと散開した。それが、間違いだったのかもしれない。映画『エイリアン』のノストロモ号のように、一人、また一人と闇に消えていく運命を決定づけた。

 

          ◇

 

 佐藤は、資材置き場の段ボールの陰に隠れていた。心臓の音がうるさい。自分の息遣いが、爆音のように聞こえる。

 

(助けてくれ……誰か……)

 

 スマホを取り出すが、圏外だ。地下数十メートル。電波など届くはずがない。

 

 その時。暗闇の向こうから、人の声がした。

 

「……おーい、佐藤ー」

 

 聞き覚えのある声。同僚の鈴木の声だ。彼も逃げていたはずだ。

 

「鈴木さん! ここです、ここ!」

 

 佐藤は安堵し、身を乗り出した。鈴木がふらふらと歩いてくる。懐中電灯を向ける。

 

「よかった、一人じゃ心細くて……」

 

 佐藤の言葉が止まった。光の中に浮かび上がった鈴木の顔。その首は、ありえない方向にねじ曲がっていた。目は虚ろで、口からはダラダラとよだれを垂らしている。

 

「あ……ぅ……あ……」

 

 鈴木ではない。屍生人(ゾンビ)だ。鬼島に血を吸われ、下僕として蘇った成れの果て。

 

「ヒッ……!!」

 

 佐藤が後ずさる。だが、遅かった。鈴木が獣のような咆哮を上げ、佐藤に飛びかかった。

 

「ギャアアアアア!!」

 

 暗闇に、肉を食いちぎる音が響いた。

 

          ◇

 

 山崎監督は、発電室に立てこもっていた。鉄の扉を閉め、重い棚でバリケードを築いた。彼は震える手で、ポケットに入っていた家族の写真を握りしめていた。

 

(なんてことだ……ここは地獄だ……)

 

 外からは、部下たちの断末魔と、それを貪る怪物の咀嚼音が聞こえてくる。そして、静寂が訪れた。全員、やられたのか?俺一人か?

 

 コン、コン。

 

 鉄の扉が、軽くノックされた。丁寧な、礼儀正しいノックだった。

 

「……開けてくれませんか? 現場監督殿」

 

 鬼島の声だ。扉の向こう、すぐそこにいる。

 

「ふざけるな! 化け物め!」

 

 山崎は近くにあったスパナを構えた。

 

「入ってきたらぶっ殺してやる! 俺はここから生きて帰るんだ!」

 

「……威勢がいいな。だが、無駄だ」

 

 メリメリメリ……!分厚い鉄の扉が、まるで粘土のようにひしゃげ始めた。鍵がかかっているのではない。外から、素手で、扉そのものを引きちぎろうとしているのだ。

 

「ヒッ……嘘だろ……」

 

 鋼鉄が悲鳴を上げ、隙間ができる。そこから覗き込む、赤い瞳。

 

「貧弱、貧弱ゥ!」

 

 ガゴォォォォン!!扉が蝶番ごと外れ、部屋の中に吹き飛んだ。山崎は腰を抜かし、後退る。鬼島が、優雅に部屋へと入ってきた。その背後には、ゾンビと化した田中、鈴木、佐藤たちが、ゆらりと従っていた。

 

「……素晴らしい実験体だ」

 

 鬼島は山崎を見下ろし、口元を歪めた。

 

「貴様は殺さん。私の『食料庫』の管理人に任命してやろう」

 

「や、やめろ……来るな……!」

 

 山崎はスパナを投げつけたが、鬼島はそれを片手で受け止め、飴細工のようにねじ曲げてしまった。

 

「URYYYYY……」

 

 鬼島が覆いかぶさる。山崎の視界が暗転する。最後に見たのは、かつての部下たちが、飢えた獣の目で自分を見つめている光景だった。

 

 翌日。大山のトンネル工事現場から、作業員全員が行方不明になったとの通報が入った。警察の捜索隊も二次災害を恐れて深入りできず、事態は膠着。そして数日後。「特級案件」として、一人の男に依頼が舞い込むことになる。

 

          ◇

 

 2015年、6月上旬。鳥取県の名峰・大山(だいせん)。その中腹、放置された人工林を切り開いて進められていたトンネル工事現場は、梅雨入り前の重苦しい湿気に包まれていた。空は鉛色で、今にも泣き出しそうだ。

 

「……五条さん。一つ聞いていいですか」

 

 工事現場のプレハブ小屋の前で、ヘルメットを被らされた佐藤蓮は、死んだ魚のような目で隣の教師を見上げた。

 

「なんで僕、学校休んでこんな山奥にいるんでしょうか。今日は算数のテストがあったはずなんですけど」

 

「ん? 何言ってるの蓮くん。これは『総合的な学習の時間』だよ」

 

 同じくヘルメットを被った(が、アイマスクはそのままで怪しさ満点の)五条悟が、爽やかに笑う。

 

「ここ、最近『作業員が行方不明になる』って噂で工事が止まっててさ。僕に調査依頼が来たんだけど、一人じゃ寂しいし。蓮くんの『嫌な予感を察知する能力』と、六花の『現場対応力』に期待して連れてきたわけ」

 

「つまり、ただの巻き添えですよね……」

 

 蓮は深いため息をついた。転生者である彼は感じ取っている。この世界の大山周辺には、原作?にはない「何か」が埋まっている可能性が高いことを。

 

「フッ……。そんなに嘆かないで蓮くん。深淵の闇が我々を呼んでいるのだ」

 

 蓮の隣で、銀髪の少女――小鳥遊六花が、真新しいツルハシを構えてポーズを決めていた。彼女は小学六年生になり、ますます身長も伸びてきた。今日は動きやすいカーゴパンツに、登山用ブーツ。その瞳には冒険への渇望が燃えている。

 

「パパ。ここの空気、すごく『重い』よ。黒山とは違う、もっと生臭い感じ」

 

「お、さすが六花。分かる?」

 

 五条が現場の奥、黒々と口を開けたトンネルの入り口を見据える。

 

「呪霊の気配じゃないんだよね。もっとこう……生物的な、ドロッとした悪意。六眼でも奥が見通せない。結界というより、物理的に『遮断』されてる感じかな」

 

「……おい、あんたら」

 

 その時、背後から声をかけられた。振り返ると、一人の老人が立っていた。現場の警備員だろうか。古びた制服を着ているが、その背筋は槍のように伸びている。白髪交じりの短髪、顔には深い皺が刻まれているが、眼光だけは異様に鋭い。

 

「ここは遊び場じゃねぇぞ。……特に、そこの兄ちゃん」

 

 老人は五条を指差した。

 

「監査役の様だが妙な『圧』を纏ってやがるな。……だが、呼吸が浅い。それでは『闇』には勝てんぞ」

 

「へぇ……」

 

 五条が興味深そうに老人を見る。

 

「お爺さん、名前は?」

 

「濱田(はまだ)だ。……ただの警備員だよ」

 

 濱田と名乗った老人は、フンと鼻を鳴らすと、懐から奇妙な形の懐中電灯を取り出した。

 

「行くなら俺も同行する。……この現場、昨日から『人の血の匂い』が消えねぇんだ」

 

          ◇

 

 五条、六花、蓮、そして濱田老人の四人は、建設中のトンネルへと足を踏み入れた。入り口から数百メートル。重機が放置された最深部は、行き止まりの岩盤になっていた。

 

「ここで行き止まり? 行方不明者はどこに消えたんだ?」

 

 蓮が壁面をライトで照らす。その時、六花が岩盤の亀裂に手を触れた。

 

「……ここ、風が流れてる。奥に空洞がある」

 

 彼女が亀裂に指をかけ、軽く力を込めた瞬間。

 

 ズズズズズ……!

 

 岩盤全体が悲鳴を上げた。ただの崩落ではない。地面そのものが、まるで落とし穴のように垂直に沈下し始めたのだ。

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!」

 

「ぬぅッ!」

 

 四人の体が宙に浮く。五条が即座に反応し、術式で全員を浮遊させようとした。だが。

 

「……ッ! 術式が、阻害される!?」

 

 五条が目を見開く。この空間には、呪力を乱す特殊な磁場――あるいは「結界」のようなものが張り巡らされていた。浮遊が間に合わない。

 

 ドォォォォン!!

 

 四人は数十メートル下の暗闇へと叩き落とされた。幸い、床には腐った木材や土砂がクッションとなり、即死は免れた。

 

「いっ……てぇ……」

 

 蓮が起き上がる。全身が痛むが、骨折はしていないようだ。彼は慌てて周囲を照らす。

 

「ここ……どこだ?」

 

 そこは、自然の洞窟ではなかった。コンクリートで固められた壁。錆びついた鉄の扉。天井には、古びた裸電球のソケット。そして壁には、色あせた『旭日旗』と、『皇軍極秘』の文字。

 

「……防空壕? いや、地下実験施設か?」

 

 蓮の背筋に、冷たいものが走る。転生者としての知識が、最悪の可能性を告げていた。ナチスドイツや日本軍が、戦時中に研究していた「ナニカ」ではないか、と。

 

「……生きてるか、若いの」

 

 濱田老人が、埃を払いながら立ち上がる。彼は無傷だった。受け身の達人か、それとも何らかの技術を使ったのか。

 

「パパ、蓮、大丈夫?」

 

 六花も軽やかに着地していた。五条は……言うまでもない。彼は「無下限」で自分の周りだけ物理法則を遮断し、優雅に空中に浮いていた(完全な飛行は無理だが、落下ダメージを殺す程度は可能だったようだ)。

 

「全員無事だね。……にしても、広いなここ」

 

 五条がアイマスクを外し、蒼い瞳(六眼)を露わにする。彼の視界には、この地下施設が迷宮のように広がり、地下数百メートルまで続いているのが見えていた。そして、その奥底に蠢く、どす黒い「生命反応」の群れも。

 

「……ビンゴだ。行方不明の作業員たちは、この奥にいる。……生きてるかどうかは別として」

 

「ほう、あんた、やっぱりそっち側か」

 

 濱田が少し感心したように呟いた。

 

「まっ、そんなところだよお爺ちゃん」

 

          ◇

 

 四人は、カビと鉄錆の匂いが充満する通路を進んだ。足元には、古い資料や医療器具が散乱している。蓮がその一つを拾い上げた。

 

『報告書:昭和十九年。メキシコの遺跡より発掘せし「石仮面」の運用について』

『被検体:捕虜および、志願兵』

『目的:不死身の兵団による、戦局の打開』

 

「……やっぱりだ」

 

 蓮の手が震える。石仮面。脳を刺激し、人間を吸血鬼へと変えるアーティファクト。この世界にも、それは実在していたのだ。

 

 通路の突き当たり、巨大な鉄扉を六花がこじ開けた。その先は、広大な「実験室」だった。天井まで届く培養槽。手術台。そして、部屋の中央に鎮座する、石造りの祭壇。そこには、一枚の不気味な仮面が飾られていた。

 

 ――石仮面。

 

 だが、蓮が恐怖したのは仮面ではない。祭壇の前に立ち、行方不明になっていた作業員の男を片手で持ち上げている「軍服の男」だった。

 

「……素晴らしい。七十年ぶりの食事だ」

 

 男は、古びた軍服(少佐の階級章)を纏っていた。肌は陶器のように白く、瞳は血のように赤い。彼は作業員の首筋に指を突き立てていた。ジュルルルル……!不快な音が響く。作業員の体がみるみる萎んでいき、ほんの数秒でミイラのように干からびてしまった。

 

「ひっ……!」

 

 蓮が悲鳴を押し殺す。

 

 軍服の男――鬼島(きじま)少佐は、干からびた死体をゴミのように投げ捨てると、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 

「貴様らも……糧となるか」

 

 彼の背後、暗闇の中から、無数の影が現れた。ボロボロの軍服を着た兵士たち。いや、作業服を着た最近の死体も混ざっている。彼らは全員、虚ろな目をし、奇妙な唸り声を上げていた。

 

「屍生人(ゾンビ)……!」

 

 濱田老人が低く呟く。

 

「やはり、伝説は本当だったか。この山には、死してなお動く鬼が封じられていると……」

 

「へぇ。吸血鬼ってやつ?」

 

 五条が前に出た。彼は恐怖するどころか、珍しいおもちゃを見つけた子供のように笑っていた。

 

「呪霊よりタチが悪そうだね。……でも、僕には触れられないよ」

 

 五条は指を弾く。「術式順転・蒼」。引力が発生し、先頭のゾンビ数体が圧縮され、肉塊となって吹き飛んだ。

 

「……ほう。妖術使いか」

 

 鬼島少佐は眉一つ動かさなかった。彼は部下の肉塊を踏み越え、瞬きする間に五条の目の前に移動していた。速い。フィジカルギフテッドの六花ですら、目で追うのがやっとの速度。

 

「無駄無駄ァッ!!」

 

 鬼島の手刀が、五条の首を狙う。当然、五条の「無限」に阻まれ、寸前で止まる。だが。

 

 ジュッ……!

 

 五条のバリアに触れた瞬間、鬼島の指先から「蒸気」が噴き出した。気化冷凍法。自らの水分を気化させて熱を奪い、触れたものを凍結させる技。五条の「無限」という概念そのものは凍らないが、その周囲の空気が絶対零度近くまで冷却され、視界が白く遮られた。

 

「チッ、目くらましか!」

 

 五条が距離を取る。鬼島は追撃しなかった。代わりに、彼は不敵に笑いながら、天井のレバーを引いた。

 

 ガコンッ!!

 

 轟音と共に、部屋の床が抜けた。またしても落とし穴だ。だが今度は、全員がバラバラのダクトへと吸い込まれていく構造になっていた。

 

「六花! 蓮!」

 

「パパ!」

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 五条は即座に浮遊しようとしたが、鬼島が投げつけた手榴弾(七十年前のものだが、不発ではなかった)が空中で爆発し、爆風と瓦礫が彼を襲う。その一瞬の隙に、六花と蓮、そして濱田老人は、暗闇のダクトへと滑り落ちていった。

 

          ◇

 

 ダクトを滑り落ちた先は、地下工場の資材置き場のような場所だった。蓮は段ボールの山に突っ込み、なんとか無事だった。六花は猫のように着地し、すぐに周囲を警戒する。濱田老人も、受け身を取って静かに立ち上がった。

 

「……はぐれたか」

 

 濱田老人が舌打ちをする。

 

「あの白髪の兄ちゃんは、親玉の方に残ったようだな。だが、我々の周りにもウヨウヨいなさるぞ」

 

 暗闇の中から、呻き声が聞こえる。ゾンビ兵だ。数は十体以上。彼らは天井や壁を這い回り、蜘蛛のようにこちらを包囲していた。

 

「……どうする? 僕、武器なんて持ってないよ」

 

 蓮が震える声で言う。彼は知っている。吸血鬼やゾンビには、通常の物理攻撃は効かない。脳を破壊すれば一時的に止まるが、完全に殺すには「太陽の光」か、それに準ずるエネルギーが必要だ。ここには日光などない。五条先生もいない。

 

「私がやる」

 

 六花が前に出た。彼女は近くにあった鉄パイプを拾い上げ、構える。どうやらこの空間では呪術がうまく使えないらしい。

 

「頭を突き刺させば、動きは止まるはず」

 

「待て、嬢ちゃん」

 

 濱田老人が制止する。

 

「奴らは死なん。頭を刺したとしても、その首が噛み付いてくるぞ。……見ていろ」

 

 老人は、懐中電灯を蓮に渡すと、ゆっくりと前に進み出た。彼は深く、静かに息を吸い込んだ。

 

 スゥゥゥゥ……。

 

 その呼吸音は、奇妙なリズムを刻んでいた。肺の底まで空気を満たし、血液中の酸素濃度を高め、細胞の一つ一つを活性化させる。

 

「コォォォォォォ……!」

 

 老人の肌が、微かに発光し始めた。いや、気のせいではない。彼の体から、太陽のような温かい波動が立ち上っている。

 

「な、なんだアレ……?」

 

 蓮が目を丸くする。その光景に、既視感があった。漫画で見たことがある。仙道。波紋。太陽のエネルギー。

 

「シャァァァ!」

 

 一体のゾンビが、老人に飛びかかった。老人は動じない。彼は右手の拳を握りしめ、吸い込んだ息を一気に爆発させた。

 

「――山吹き色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!!」

 

 ドゴォッ!!

 

 老人の拳が、ゾンビの腹に突き刺さった。次の瞬間。「ギャアアアアア!!」ゾンビの体が、内側から光り輝き、ドロドロに溶け始めた。まるで太陽に灼かれたように、肉体が崩壊し、灰となって消滅していく。

 

「……すげぇ」

 

 蓮が呆然と呟く。

 

「波紋だ……。本物の、波紋使いだ……!」

 

「フン。歳には勝てんわ」

 

 濱田老人は息を整え、六花と蓮を見た。

 

「いいか、若いの。奴らは夜の民だ。太陽の光に弱い。そして、我々の血液が生み出す生命エネルギーは、太陽の波動と同じ性質を持つ。呼吸だ。呼吸を乱すな。恐怖に支配されれば、肺が縮こまり、死が訪れるぞ」

 

 六花が、キラキラとした瞳で老人を見つめていた。

 

「……お爺ちゃん。それ、私にもできる?」

 

「……ほう」

 

 濱田老人は、素早く六花の体を見回した。年頃の少女とは思えないしなやかで強靭な筋肉。そして、何よりも底知れない肺活量。

 

「嬢ちゃん、いい『器』をしているな。……あるいは、俺なんかより余程才能があるかもしれん」

 

 老人はニヤリと笑った。

 

「教えてやる時間はねぇ。だが、見様見真似でやってみろ。肺の中の空気を一滴残らず絞り出し、爆発的に吸い込むんだ。血液に、太陽の熱を宿すイメージでな」

 

          ◇

 

 一方、崩落した実験室に残された五条悟。彼は、数十体のゾンビ兵と、鬼島少佐に囲まれていた。

 

「ククク……。逃げ場はないぞ、妖術使い」

 

 鬼島が笑う。

 

「貴様のそのバリアも、空気を凍らせれば無意味だ。そして、貴様の攻撃では我々を殺しきれん。持久戦になれば、生物としてのスペックで勝る我々の勝利だ」

 

「……へぇ。自信満々だね」

 

 五条は埃を払い、アイマスクをポケットにしまった。蒼い瞳が、冷徹に輝く。

 

「確かに、ただの打撃や、呪力による破壊じゃ効率が悪いね。再生されちゃうし」

 

 五条は指先を立てた。そこに集束するのは、通常の呪力(負のエネルギー)ではない。呪力を掛け合わせることで生まれる、正のエネルギー。反転術式。

 

「君たちさ、太陽は嫌い?」

 

「……何?」

 

「僕のこれ、すごく『体に良い』んだよね。……君たちにとっては、猛毒だろうけど」

 

 五条の指先に、赤色の輝きが灯る。それは波紋と同じく、いや、それ以上に純粋で高密度な「正のエネルギー」の塊。対呪霊用として知られるが、陰の存在である吸血鬼にとっても、それは致命的な陽光だった。

 

「術式反転・『赫(あか)』」

 

 ドォォォォン!!

 

 五条が放った赤い閃光が、部屋中を薙ぎ払った。直撃したゾンビ兵たちが、悲鳴を上げる間もなく蒸発する。再生など起きない。細胞の一つ一つが、強制的に「浄化」され、消滅していく。

 

「な、なんだその光はァッ!?」

 

 鬼島が驚愕し、壁に張り付いて回避する。彼の頬が少し掠めただけで、炭化し、崩れ落ちていた。

 

「あれ? 再生遅いね」

 

 五条は空中に浮遊したまま、冷ややかに見下ろす。

 

「僕の『赫』は、治癒の力が原動力だ。腐った肉体を、あるべき姿(死体)に戻してあげるよ」

 

 最強の呪術師にとって、吸血鬼など恐るるに足らず。だが、問題は子供たちだ。五条は六眼で、地下深くに落ちた六花たちの反応を探る。

 

「……チッ。深いな。それに、この建物の構造、術式や魔術を阻害する材質でできてる」

 

 五条は鬼島を睨みつけた。

 

「さっさと片付けて、迎えに行かないとね」

 

 地下壕の戦いは、二つの局面を迎えていた。五条による一方的な蹂躙と。そして、六花と蓮による、命がけの「呼吸」の習得とサバイバル。

 

          ◇

 

 地下壕の資材置き場。そこは、七十年の時を経て目覚めた屍生人(ゾンビ)たちの饗宴の場となっていた。腐臭とカビの匂いが充満する暗闇の中、唯一の光源は、濱田老人が放つ「生命の輝き(波紋)」のみ。

 

「コォォォォォォ……!!」

 

 老人の呼吸音が、地下空間に反響する。彼の拳が閃くたびに、襲いかかるゾンビ兵が内側から溶解し、灰となって崩れ落ちる。だが、多勢に無勢だ。地下のあちこちから這い出してくるゾンビの数は、百を超えていた。

 

「ハァ……ハァ……。流石に、数が多すぎるわい」

 

 濱田老人が額の汗を拭う。波紋は強力だが、呼吸を乱せば練り上げることができない。老齢の彼にとって、長時間のアクションは肺への負担が大きすぎた。

 

「お爺ちゃん、下がって!」

 

 六花が前に出る。彼女は鉄パイプを構え、ゾンビの群れを見据えていた。

 

(……やるしかない。私は知っている。この技術の理屈を、呼吸のリズムを!)

 

 六花は転生者だ。前世の知識として、『ジョジョの奇妙な冒険』の内容を知っている。波紋法とは、特殊な呼吸により血中のエネルギーを蓄積し、太陽光と同じ波長の生命エネルギーを生み出す技術。そして今の彼女の肉体は、五条悟とホシノの遺伝子を受け継いだ「フィジカルギフテッド(肉体的天才)」だ。肺活量、血管の弾力性、筋肉の収縮率。その全てが、常人を遥かに凌駕している。

 

「スゥゥゥゥ……」

 

 六花は深く息を吸い込んだ。横隔膜を下げ、肺の底まで空気を満たす。恐怖を捨てろ。焦りを捨てろ。血液に熱を宿せ。心臓の鼓動をビートに変えろ。

 

「蓮! ライトを貸して!」

 

「えっ、あ、うん!」

 

 蓮が濱田老人から預かっていた軍用懐中電灯を投げる。六花はそれを空中でキャッチすると、そのままゾンビの群れに突っ込んだ。

 

「六花ちゃん!?」

 

 蓮が叫ぶ。だが、六花の動きは洗練されていた。襲いかかる腐った腕を紙一重でかわし、壁を蹴って跳躍する。彼女は空中で体を捻り、懐中電灯を持った右手を突き出した。

 

(イメージしろ。指先から流れるエネルギーを、物体に伝導させる!)

 

「――コォォォォォォ!!」

 

 六花の口元から、黄金色の蒸気が漏れた。初めての波紋。練度は低い。持続時間も短い。だが、その一瞬の爆発力は、天才的な肺活量によって凄まじい熱量を生んだ。

 

「食らえ! 山吹き色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)もどき!!」

 

 バチバチバチッ!!

 

 六花の手刀が、先頭のゾンビの脳天に突き刺さる。瞬間、波紋のエネルギーがゾンビの全身に駆け巡った。「ギャァァァァ!?」ゾンビが悲鳴を上げ、内側から発火するように崩れ落ちる。

 

「……できた」

 

 六花が着地し、自分の手を見る。指先が少し痺れている。だが、確かな熱があった。

 

「ほう……! 一発でコツを掴むとはな」

 

 濱田老人が目を見張る。

 

「嬢ちゃん、お前さん、とんでもねぇ才能だぞ。……呼吸のリズムが、まるで歌うように滑らかだ」

 

「へへっ、パパ譲りの才能かな」

 

 六花はニッと笑うと、再び構えた。

 

「蓮、お爺ちゃんを守って。私が道を開く!」

 

「了解! ……無理しないでよ、六花ちゃん!」

 

 蓮は段ボールの陰から叫ぶ。彼は武器を持っていないが、その頭脳はフル回転していた。

 

(波紋は効く。でも、数が多すぎる。……ここにある資材、何か使えないか?)

 

 蓮は周囲を見回す。そこには、戦時中の物資と共に、現代の工事用資材も混ざっていた。ドラム缶。中身は……軽油だ。重機用の燃料。

 

「……これだ」

 

 蓮は閃いた。

 

「六花! 右側のドラム缶を狙って! 中身をぶちまけて、そこに波紋を流すんだ!」

 

「OK、蓮の指示なら従う!」

 

 六花は躊躇なく走った。ドラム缶を蹴り倒し、溢れ出した軽油の海に、ゾンビたちを誘導する。そして。

 

「燃え尽きろ! 波紋疾走!!」

 

 六花の拳が、地面を叩く。波紋の熱エネルギーが、地面を通して伝わり揮発性の油に引火した。

 

 ドォォォォォォン!!

 

 爆炎が地下空間を埋め尽くす。通常の火ならゾンビは動じないかもしれないが、これは「波紋を帯びた炎」だ。生命エネルギーの奔流が、邪悪な不死者たちを焼き尽くしていく。

 

          ◇

 

 一方、上層の実験室。

 

「グオオオォォォ!!」

 

 鬼島少佐が絶叫し、床を這いずっていた。彼の手足は炭化し、再生が追いついていない。五条悟の「反転術式」による攻撃は、吸血鬼にとって太陽そのものだった。

 

「な、なぜだ……貴様の光は……なぜ我々を拒絶する……!」

 

「拒絶じゃないよ。治療(ヒーリング)さ」

 

 五条は空中にあぐらをかき、冷ややかに見下ろしていた。

 

「君たちは、人間という『器』が壊れて、バグってる状態だ。だから、正しいエネルギー(正の呪力)を流し込んで、強制的に修理してるんだよ。……まあ、修理しようとしたら、君たち自身が『バグ』そのものだから消えちゃうんだけどね」

 

「おのれ……おのれェェェ!!」

 

 鬼島は最後の力を振り絞った。彼は自らの胸を引き裂き、肋骨を剥き出しにして、それを五条に向けて発射した。体内の高圧体液を利用した、生体ミサイル。

 

「空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)……の、劣化版か」

 

 五条は避ける素振りも見せない。血の弾丸は、五条の目前で「無限」に阻まれ、空中で静止した。

 

「……残念。それじゃあ僕には届かない」

 

 五条は指先を鬼島に向けた。収束するのは、赤き輝き。

 

「終わりだ。歴史の闇に還りなよ」

 

「術式反転・『赫(あか)』」

 

 カッッッ!!

 

 極大の閃光が放たれた。それは鬼島の肉体を分子レベルで分解し、背後の壁ごと蒸発させた。七十年の怨念も、不死の野望も、一瞬で浄化され、塵一つ残らなかった。

 

「……ふぅ」

 

 五条は息をつく。

 

「さて、子供たちを迎えに行かないと」

 

 彼は崩れかけた床の穴――ダクトの入り口を覗き込んだ。その時、下から熱風と共に、元気な声が聞こえてきた。

 

「パパー! こっちは片付いたよー!」

 

 地下資材置き場は、キャンプファイヤーのような状態になっていた。六花と濱田老人の波紋、そして蓮の機転による火攻めで、ゾンビ兵団は全滅していた。

 

「やあ、みんな無事?」

 

 五条がふわりと舞い降りてくる。

 

「パパ! 見て見て、私『波紋』使えるようになったよ!」

 

「え、マジ? 六花すごくない?」

 

 五条は娘の頭を撫で回し、それから濱田老人を見た。

 

「お爺さん、助かりました。……あなたが守ってくれたんですね」

 

「……フン。守ったなどと」

 

 濱田老人は、煤けた顔で笑った。

 

「この嬢ちゃんと坊主が、勝手に暴れただけだ。……末恐ろしいガキどもだよ」

 

 その時、地下壕全体が激しく揺れた。鬼島との戦闘、そして六花の放った爆炎により、老朽化していた岩盤が限界を迎えたのだ。天井から巨大な瓦礫が落下してくる。

 

「ヤバい、崩れるぞ!」

 

 蓮が叫ぶ。

 

「出口は塞がれた……どうするんですか五条先生!」

 

「大丈夫。僕がいるでしょ」

 

 五条はニヤリと笑った。彼は全員を手招きし、一箇所に集める。

 

「ちょっと揺れるから、舌噛まないようにね」

 

 五条が合掌する。彼の周囲に、圧倒的な呪力が渦巻く。それは「無限」のバリアを拡大し、全員を包み込むシェルターとなる。

 

「術式順転・出力最大『蒼』」

 

 ギュオオオオオオン!!

 

 五条たちの頭上に、巨大な「引力」の穴が発生した。それは天井の岩盤、土砂、そして大山の山肌そのものを、強引に抉り取り、空へと吸い上げた。物理的なトンネル開通工事(強引)。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 蓮の悲鳴と共に、彼らは重力に引かれて空へと舞い上がった。

 

          ◇

 

 気がつくと、彼らは大山の山腹、工事現場の入り口付近に立っていた。足元には、五条が開けた巨大な縦穴。地下壕は完全に崩落し、二度と人が立ち入ることはできないだろう。

 

 空は白み始めていた。雲の切れ間から、美しい朝日が差し込んでくる。

 

「……終わった」

 

 蓮はその場に座り込んだ。全身泥だらけで、足はガクガクだ。だが、生きて帰れた。

 

「あー!清々しい空気だ!」

 

 六花は大きく伸びをした。彼女の体には、まだ微かに波紋の余韻――心地よい熱が残っていた。転生者として憧れていた「あの力」を、少しだけ体感できた喜び。

 

「……さて」

 

 濱田老人が、朝日を見つめながら呟いた。

 

「俺の役目も、これで終わりか」

 

「お爺ちゃん、これからどうするの?」

 

 六花が尋ねる。老人は懐から、一枚の古い写真を取り出した。そこには、若い頃の彼と、もう一人、奇妙な帽子を被った大柄な男が写っていた。

 

「昔、ある男に命を救われてな。その借りを返すために、この山を守っていたんだが……。もう、必要ないだろう」

 

 老人は写真を懐にしまうと、六花に向かってウィンクした。

 

「呼吸を忘れるなよ、嬢ちゃん。……その肺があれば、いつか『石』すら砕けるかもしれん」

 

 そう言い残すと、老人は朝霧の中へと歩き出した。その背中は、どこか透き通っているようにも見えた。

 

「……行っちゃったね」

 

 五条が呟く。

 

「うん。……かっこよかった」

 

 六花は老人の消えた方角に向かって、深く一礼した。

 

「さ、帰ろうか!」

 

 五条がパンと手を叩く。

 

「蓮くん、今日の数学のテスト、僕が『公欠』扱いにしておいてあげるから」

 

「……それだけが救いです」

 

 蓮はよろよろと立ち上がる。彼の手には、地下壕から持ち出した一枚のメモが握られていた。

 

『石仮面ハ、砕ケ散ッタ。シカシ、コノ世ニハ未ダ……』

 

 その先は汚れて読めない。

 

(……まだ、あるのか。石仮面)

 

 蓮は戦慄する。この世界には、まだまだ未知の脅威が潜んでいる。だが、隣には最強の呪術師と、波紋に目覚めたフィジカルギフテッドがいる。まあ、なんとかなるだろう。

 

 大山の山頂が、朝日に照らされて輝いていた。恐怖の夜は明け、また新しい、少しだけ奇妙な日常が始まろうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。