仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

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031 決闘:天才剣士の閃き、あるいは蒼き瞳の覚醒

境港、深夜の埠頭。そこは、神話の再現というにはあまりにも一方的な蹂躙の場となっていた。

 

 ズドンッ!!

 

 重低音が響き、巨大な影が吹き飛んだ。ベルンハルトが黒山の呪霊を縫い合わせて造り上げたバーサーカー。身長三メートル、鋼鉄の皮膚と再生能力を持つ合成獣(キメラ)だ。だが、その怪物は今、恐怖に怯えるように後ずさっていた。

 

「うへぇ、しつこいね~。もう弾切れしそうだよ」

 

 ピンク色の髪を海風に靡かせ、小鳥遊ホシノはポンプアクション式のショットガンを弄んだ。彼女の足元には、無数の空薬莢が転がっている。彼女の背丈ほどもある巨大なライオットシールド(神秘礼装)は、バーサーカーの豪腕を受けても傷一つついていない。

 

「■■■■■――ッ!!」

 

 バーサーカーが咆哮し、再生した腕でコンテナを投げつける。数トンの鉄塊が弾丸となってホシノを襲う。

 

「ん、無駄だよ」

 

 ホシノは盾を構え直すことすらせず、片手でショットガンを向けた。彼女の頭上に輝く光輪(ヘイロー)が、青白く明滅する。神秘(ミステリー)。キヴォトスの住人が持つ絶対的な加護は、物理法則を書き換える「物語の強度」を持つ。コンテナはホシノの数メートル手前で、見えない壁に阻まれたように弾け飛び、四散した。

 

「さ、終わらせようか。お肌に悪いし」

 

 ホシノが引き金を引く。放たれたのは通常の散弾ではない。彼女の神秘性を乗せた、対幻想種用の魔力弾。

 

 ドォォォォォン!!

 

 バーサーカーの核(霊核)ごと上半身を消し飛ばす極大の一撃。巨獣は断末魔すら上げられず、黒い霧となって霧散した。その粒子は風に乗って、黒山の方角へと流れていく。

 

「……ありゃ? 消滅しないで、どこかに吸われてる?」

 

 ホシノは目を細め、不穏な気配を感じ取っていた。だが、彼女の仕事はここまでだ。彼女は大きく欠伸をし、盾を背負い直した。

 

「ま、あとは旦那に任せよ~っと」

 

          ◇

 

 一方、境港市街地の上空。五条悟は、夜空を駆けていた。彼の眼下では、高速で逃走する影――ランサーの姿があった。この地の伝承にある「カマイタチ」や「天狗」の霊をベースにした、高機動型のサーヴァントだ。

 

「速いねー。でも、僕の座標には届かないよ」

 

 五条は空間を滑るように移動し、ランサーの頭上を取った。ランサーが旋回し、風の刃(真空波)を無数に放つ。だが、それらは五条の「無限」に触れることなく消滅する。

 

「チェックメイト」

 

 五条が指を弾く。術式順転・「蒼」。吸い込む力。ランサーの周囲の空間が歪み、強制的に一点へと圧縮される。

 

「ギャァァァァ!」

 

 悲鳴と共に、ランサーの霊基はビー玉ほどのサイズに潰れ、弾け飛んだ。

 

「……ふむ」

 

 五条は、消滅したランサーの魔力が、やはり黒山の頂上――ベルンハルトの元へ流れていくのを目撃した。

 

「倒しても回収される、か。まあ、想定内だね。器(聖杯)がいっぱいになったところで、器ごと壊せばいい」

 

 五条はアイマスクの位置を直し、六花の方角を見た。そこには、鋭く研ぎ澄まされた二つの魂の輝きがあった。

 

「頑張れよ、六花。……いい経験(レベリング)になる」

 

          ◇

 

 港の倉庫街。月明かりが照らす広場に、二つの影が対峙していた。

 

 片や、病的なまでに白い肌を持つ侍。セイバー(沖田総司)。その手には、月光を反射して怪しく輝く名刀「加州清光(偽)」が握られている。

 

 片や、銀髪の少女。小鳥遊六花。彼女は素手だ。武器はない。だが、その全身からは、青白い呪力と、黄金色の波紋の光が揺らめいていた。

 

「……見事な構えだ」

 

 セイバーが静かに口を開く。

 

「童(わらべ)とは思えぬ。その呼吸、その眼光。……某が生きた時代でも、そうはお目にかかれぬ『剣気』よ」

 

「褒めても何も出ないよ、おサムライさん」

 

 六花は重心を落とし、セイバーを見据えた。

 

 勝算はある。だが、油断はできない。相手は「英霊」ではないとはいえ、剣の技量は本物だ。一撃でも喰らえば、神秘の防御ごと両断される可能性がある。

 

(パパみたいな絶対的な防御(むげん)は、私にはまだ使えない)

 

 六花の「無下限呪術」は、まだ未完成だ。五条のように、原子レベルで自動選別し、24時間展開し続けることなど不可能。彼女が展開できるのは、「皮膚の数ミリ上にだけ展開する極薄の不可侵領域」のみ。盾(シールド)というよりは、パリィ(弾き)に近い運用だ。タイミングを誤れば死ぬ。魔力消費も激しい。

 

「……行くぞ」

 

 セイバーの草履が、アスファルトを噛む音がした。

 

 刹那。縮地。物理法則を無視した加速で、セイバーが六花の懐に現れる。

 

「ッ!」

 

 六花の「六眼(りくがん)」が、マナの流動を捉える。右からの斬撃。六花は反射的に左へステップし、同時に波紋の呼吸で身体能力を底上げする。

 

 キィィィン!!

 

 刃が空を切る音。六花の前髪が数本、ハラリと落ちた。

 

(速い……! 初見より速くなってる!?)

 

 セイバーは止まらない。一の太刀が躱された瞬間、手首を返して二の太刀、三の太刀を繰り出す。流水のような連撃。六花は防戦一方となる。

 

「コォォォォォ……!」

 

 呼吸を乱すな。血液に酸素を送り込め。呪力で肉体を強化しろ。神秘の直感で刃の軌道を読め。

 

 ガギッ! ガキンッ!

 

 六花は拳や脚に「無下限」の膜を纏わせ、刃を弾く。火花が散る。コンマ秒の攻防。傍で見守っていた蓮は、息をすることすら忘れていた。

 

「すげぇ……。目に見えない……」

 

          ◇

 

「ゴホッ、ゴホッ……!」

 

 攻め立てていたセイバーが、突如として喀血した。口元から鮮血が溢れ、足元がふらつく。スキル『病弱』。生前の病魔が、亡霊となってもなお彼を蝕んでいるのだ。ステータスが急激に低下する。

 

「……チャンス!」

 

 六花は見逃さなかった。セイバーの剣圧が弱まった瞬間、彼女は踏み込んだ。

 

 術式順転・「蒼」(出力・極小)。相手を吸い込む引力を、自分の拳の前方に発生させる。それにより、拳の速度を加速させる「打撃ブースト」。

 

「黒閃ッ!!」

 

 ドゴォォォォン!!

 

 六花の拳が、セイバーの鳩尾に突き刺さる。黒い稲妻と、黄金の波紋が同時に炸裂した。

 

「ガハッ……!」

 

 セイバーの体が吹き飛び、倉庫の壁に激突する。鉄板がひしゃげ、土煙が舞う。

 

「やったか!?」

 

 蓮が叫ぶ。だが、六花は警戒を解かなかった。煙の向こうから、セイバーがゆらりと立ち上がる。その瞳は、先ほどまでの冷静さを失い、赤黒く濁っていた。

 

「……見事。……だか、まだだ」

 

 セイバーの霊基が膨れ上がる。ベルンハルトからの令呪によるバックアップ。強制的な魔力供給が、彼の病んだ肉体を無理やり動かしているのだ。

 

「斬る。斬る。……斬らせろォォォォ!!」

 

 セイバーが咆哮する。理性が飛び、本能だけが残った剣鬼。彼が刀を構える。その構えを見た瞬間、六花の背筋に悪寒が走った。

 

 切っ先が揺らがない。殺気がない。ただ、「突く」という事象だけが確定している構え。

 

「来る……!」

 

 六花の六眼が、未来を幻視する。回避不能の絶技。空間ごとその身を穿つ、三段突き。

 

          ◇

 

「一歩音越え、二歩無間(むけん)、三歩絶刀!」

 

 セイバーの姿がブレた。宝具・「無明三段突き」。本来ならば英霊しか使えない魔剣を、この亡霊は執念だけで再現しようとしていた。

 

 同時多発する三つの刺突。喉元、心臓、腹部。全てが急所。全てが必殺。

 

(かわせない)

 

 六花は悟った。物理的な回避は不可能。ならば――止めるしかない。

 

(集中しろ。パパの背中を思い出せ。あの『無限』の感覚を!)

 

 時間は引き伸ばされたように遅く感じる。六花の瞳が、鮮やかな蒼色に輝く。彼女は、三つの刺突のうち、「心臓」を狙う一撃に全ての意識を集中させた。

 

 他の二つは捨てる。致命傷でなければ、波紋と反転術式(未修得だが自己治癒力)で耐える。だが、霊核(コア)である心臓だけは守る。

 

「無下限呪術・展開(フルドライブ)!」

 

 キィィィィィン!!

 

 セイバーの切っ先が、六花の心臓の寸前で止まった。そこには、六花が全呪力を注ぎ込んで生成した、極小にして最強の「無限」の障壁があった。アキレスと亀。届かない距離。

 

「な……!?」

 

 セイバーの表情が驚愕に染まる。必殺の剣が、少女の薄皮一枚を貫けない。

 

 残りの二撃、喉と腹への突きは、六花の皮膚を切り裂いた。鮮血が舞う。だが、浅い。六花は痛みを無視し、波紋の呼吸で痛覚を遮断した。

 

「これで……終わりだッ!」

 

 六花は、動きの止まったセイバーの懐に、渾身の力を込めた掌底を叩き込んだ。その手には、これまでで最大の波紋エネルギーが練り上げられていた。

 

「山吹き色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!!」

 

 バシィィィィン!!

 

 セイバーの胸板を、黄金の光が貫通した。太陽のエネルギーが、亡霊の構成要素である陰の魔力を浄化し、焼き尽くす。

 

「ガ……、ア……」

 

 セイバーの刀が、カランと音を立てて地面に落ちた。彼の体から、黒い霧が晴れていく。後に残ったのは、憑き物が落ちたような、穏やかな青年の顔だった。

 

「……見事なり。童(わらべ)」

 

 セイバーは、満足げに微笑んだ。

 

「その瞳……その輝き。……誠(まこと)の道を往くか」

 

 サラサラと、セイバーの体が光の粒子となって崩れ始めた。彼は六花に一瞥をくれ、そのまま夜風に溶けて消滅した。

 

          ◇

 

「はぁ……はぁ……」

 

 六花はその場に膝をついた。全身から汗が噴き出し、喉と腹の傷が痛む。魔力も、体力も、限界に近い。

 

「六花!」

 

 蓮が駆け寄り、ハンカチで傷口を押さえる。

 

「大丈夫か!? 血が……!」

 

「平気……急所は避けた……」

 

 六花は強がって笑ったが、その顔色は白い。未完成である高濃度の「無下限」を無理やり展開した反動で、脳が焼き切れそうに熱い。

 

 その時。夜空が赤く染まった。黒山の頂上から、どす黒い光の柱が立ち昇ったのだ。

 

「……始まったか」

 

 空から五条が降りてくる。彼は六花の傷を一目見て、優しく頭を撫でた。

 

「よく頑張ったね、六花。合格だ」

 

 五条の手から反転術式の光が溢れ、六花の傷を瞬く間に塞いでいく。

 

「パパ……セイバーは……」

 

「うん、倒したね。……これで全てのサーヴァントが消滅した」

 

 五条は黒山を見上げる。その瞳は、氷のように冷たく燃えていた。

 

「器(せいはい)は満ちた。……行こうか。勘違いした魔術師に、引導を渡しに」

 

 偽りの聖杯戦争は、最終局面(クライマックス)へと移行する。そこに待つのは、根源への扉か、それとも泥の絶望か。

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