仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

6 / 59
ノービスレコード

資料番号:SK-2012-1109-M

 

タイトル: 境港市沿岸部における「白波(しらなみ)帰り」の目撃証言

媒体: 破損したICレコーダーの音声データ

収録者: 契約社員・M氏(34歳・配送業)

発見場所: 鳥取県境港市■■町・沿岸沿いの防波堤に乗り上げた軽ワゴンの車内

状態: M氏は現在も行方不明。車内には大量の「塩水に濡れた砂」と人間の肩甲骨と思われる骨片が散乱していた。

 

(再生開始)

 

 ……あー、テステス。

 これ、回ってるかな。

(ノイズ。雨がフロントガラスを叩く激しい音)

 クソッ、なんだよこの天気。予報じゃ曇りだっただろ。

 えー、現在時刻、午後11時40分。

 配送ルートC-4、境港の海岸通り。外浜(そとはま)産業道路を走行中。

 霧がすげえ。海からの風も強いし、視界最悪だ。

 ……あー、本部に連絡。

 指定された「黒山(くろやま)地区」の裏手の配送先だけどよ、住所が存在しねえぞ。

 ナビに入れても海の上を指すし、どうなってんだこの街は。

 

(しばらくの沈黙。ワイパーの軋む音だけが響く)

 

 ……おい、なんだあれ。

(衣擦れのような、ザザッ、ザザッというノイズが混じり始める)

 道の真ん中……人が歩いてる。

 こんな時間に?

 しかも、この暴風雨の中で?

 傘もさしてねえ。

 ……白いな。服が真っ白だ。

 白装束?

 葬式か?

 いや、こんな夜中に野辺送りなんてあるわけねえ。

 

(車が減速する音)

 

 おいおい、危ねえな。ひき殺すぞ。

 ……ん?

 なんだあいつら。

 歩き方が変だ。

 背中を……こっちに向けてる?

 いや、違う。

 「後ろ向き」に歩いてやがる。

 

 先頭の爺さんも、後ろの女も、その次の子供も。

 全員、背中を進行方向に向けて、器用にバックで歩いてる。

 しかも、結構なスピードだ。俺の車と同じくらいの速さで、後ろ向きに滑るように。

 

(息を飲む音)

 

 ……目が合った。

 いや、背中を向けてるんだから合うわけねえんだ。

 でも、合ったんだよ。

 あいつら、後頭部に「目」が付いてやがる。

 髪の隙間から、ギョロギョロしたのがこっちを見てる。

 ……白目だ。黒目がない。

 白目のまま、笑ってやがる。

 

(ガタガタという震える音)

 

 やばい。これ、見ちゃいけないやつだ。

 地元の婆ちゃんが言ってた。「海から来る『白波(しらなみ)』には関わるな」って。

 でも、あれは海から来たんじゃない。

 「山(黒山)」から降りてきて、海へ「帰ろう」としてるんだ。

 

(激しいクラクションの音)

 

 どけ!

 どけよ!

 囲まれた。いつの間にこんな数に……。

 車の周り、全部「白い背中」だ。

 バンバン叩くな!

 窓ガラスが割れる!

 

(ドンドン、という濡れた手で窓を叩く重い音。ガラスがきしむ音)

 

 ……聞こえるか?

 こいつら、何か言ってる。

 お経じゃない。

 「……まざれ……まざれ……」

 いや、違う。

 「……かえせ……かえせ……」

 

(何かが割れる音。M氏の悲鳴)

 

 入ってきた!

 通気口から!

 砂だ!

 砂が入ってきた!

 塩辛い!

 息が、息ができな――

 ……あ、あ、あ。

 わかった。こいつら、人間じゃねえ。

 顔がないんだ。

 前から見たら、「前にも背中」があるんだ。

 どっちも背中なんだよ。

 だから、どっちに進んでも「帰り道」なんだ。

 

(ザザッ、ザザッというノイズが最大になる)

 

 ……おーい。

 そこのアンタ。

 これを聞いてる、アンタだよ。

 今、背中が痒くないか?

 後ろに誰かいる気配がしないか?

 

 見ちゃ駄目だぞ。

 振り返ったら、アンタも「背中」になるからな。

 海へ帰ろう。

 みんなで、あのタワーの下の海へ――

 

(プツン、と唐突に録音が途切れる)

 

【追記資料:境港市警察署・生活安全課メモ】

 

 本件車両が発見された際、運転席のシートは海水でずぶ濡れになっており、座面には大量の海砂と共に、「人間の肩甲骨」と思われる骨片が二つだけ残されていた。

 DNA鑑定の結果、それは行方不明になっているM氏のものであると判明。

 しかし、奇妙なことに、その骨には「内側から何かが突き破ろうとした」ような形跡が見られた。

 

特記事項: 本件は「特定第3種・沿岸災害」として処理済み。

 当該音声データを聞いた捜査員2名が、「背中の痒み」および「海へ行きたいという衝動」を訴え、現在、市内の精神科病院(黒山地区)へ隔離措置中。

 

 この「怪異」は、境港市の一般市民の間で『背中さん』あるいは『白波帰り』として噂されているが、その詳細を知る者は、いずれも海へ姿を消している。

 

――テープの複製・拡散を禁ず。――

 

 

 

【行方不明の少年Eの日記】

 

11月14日(金) 雨

 

 部活の更衣室で、K君から妙な話を聞いた。K君の家は、この春に「黒山(くろやま)」の近くに新しく造成された住宅街――例の、やたらと道が広くて静かすぎるエリア――に引っ越したばかりだ。

 

 なんでも、彼の家では「毎日、必ず盛り塩を取り替えなきゃいけない」というルールがあるらしい。それも、玄関とか鬼門とか、そういう一般的な場所じゃない。「換気扇の下」と「風呂場の排水溝の横」。

 

 この二箇所だけは、絶対に欠かしてはいけないと、不動産屋……じゃなくて、近所の自治会長みたいな古株の老人から厳命されたそうだ。

 

 最初はK君も、親も、ただの因習だと思って笑っていたらしい。

 

 「海が近いから、湿気取りのまじないだろう」くらいに考えて。

 

 でも、引っ越して三日目の朝。キッチンに行くと、換気扇の下に置いていた白い塩が、「真っ黒な泥」みたいに溶けていたそうだ。湿気を吸ったんじゃない。まるで、「誰かが汚れた舌で舐め回した」みたいに、皿の周りにベチョベチョと黒い粘液が飛び散っていた。

 

 K君は言っていた。「換気扇は回していなかった。窓も閉めてた。なのに、どこから入ってきたんだと思う?」

 

 彼が言うには、それは外から入ってきたんじゃないらしい。

 

 換気扇のダクト。あの細い管の向こう側。あそこが、外の空気じゃなくて「別の場所(海?)」と繋がっているんじゃないか、って。

 

 昨日の夜、K君は勉強中に、換気扇の方から音がするのを聞いたそうだ。

 

『ジュルッ、ジュルルッ』

 

 何か柔らかいものが、狭いダクトの中を無理やり通ろうとして、脂を擦り付けているような音。その音は、塩の皿の前で止まって、しばらく何かを啜るような音がした後、またダクトの中へ戻っていったらしい。

 

 「塩を置いておけば、あいつらは塩だけで満足して帰ってくれるんだ」

 

 K君は青い顔でそう笑っていた。でも、俺は見てしまった。着替えているK君の背中に、小さなフジツボみたいな「イボ」が三つ、並んでできているのを。

 

 ……K君、明日学校に来るかな。

 

 俺、彼に借りてた漫画、まだ返してないんだけど。

 

(ノートの記述はここで途切れている。次のページ以降は白紙のままだが、ページの間から少量の「乾いた海砂」がこぼれ落ちた)

 

 

 

 

【資料番号:SK-2013-06-MAG】

 

媒体: オカルト情報誌『月刊 境界(ボーダー)』 2013年6月号・緊急特集記事

タイトル: 【本誌独占】地図から消された山!? 鳥取県・境港の「黒山」地下に眠る《国家レベルの禁忌》を暴く!!

 

(記事本文の抜粋)

 

■ 砂州に「山」があるという矛盾

 

 読者諸兄は、鳥取県の「弓ヶ浜半島」をご存知だろうか。日本海と中海を隔てる、全長約20kmの巨大な砂州だ。地質学的に言えば、ここは川から運ばれた土砂が堆積してできた平坦な土地であり、本来であれば「山」など存在し得ない。だが、現地の地図を見てほしい。半島の先端、境港市の南西部に、不自然な等高線が描かれたエリアがある。通称「黒山(くろやま)」地区だ。標高約200m。鬱蒼とした原生林に覆われたこの丘陵地帯は、あたかも「地面の下から何かが隆起して、無理やり砂を押し上げた」かのような、歪な形状をしている。

 

 本誌取材班は、この「ありえない山」の正体を探るべく、現地へと飛んだ。

 

 そこで我々が目撃したのは、のどかな観光地・水木しげるロードの裏側に隠された、戦慄すべき実態だった!

 

■ 深夜の「黒い車列」と重低音

 

 「夜中の2時を過ぎると、地面から『音』がするんです」

 

 取材に応じた地元住民の男性(60代・匿名)は、声を潜めてそう語った。それは耳で聞こえる音ではない。腹の底に響くような、重低音の振動。専門家の分析によれば、この振動は「巨大な地下空洞で、何かが蠢いている音」あるいは「超高出力のエネルギー・プラントが稼働している音」に酷似しているという。

 

 さらに、奇妙な目撃証言がある。新月の夜、黒山地区へと続く封鎖道路を、ライトを消した「黒塗りの大型トラック」が列をなして入っていくというのだ。トラックの荷台は厳重にシートで覆われているが、時折、そこから「海水のような水」が滴り落ちているのが目撃されている。彼らは一体、何を山の中へ運んでいるのか?

 

 あるいは――「海から来た何か」を、山の中へ捨てに行っているのではないか?

 

■ 元作業員の衝撃証言「あれは山じゃない」

 

 本誌は、かつて黒山地区の造成工事に関わったという元作業員・A氏との接触に成功した。彼は震える手でタバコを吹かしながら、信じ難い事実を口にした。

 

 「あそこは山じゃねえよ。……『蓋(ふた)』だ」

 

 A氏によれば、黒山の地下には、迷路のような巨大なトンネル網が張り巡らされているという。それは人間が掘ったものではない。太古の昔からそこにあった「巨大な空洞」を利用し、コンクリートで固めて施設にしたものだというのだ。

 

 「地下深くまで杭を打とうとしたら、先端が『何か柔らかいもの』に当たって折れたんだ。……肉だよ。あれは岩盤じゃなくて、巨大な肉の塊みたいだった。その上に、俺たちは街を作ってるんだ」

 

■ 編集部見解:境港は「結界都市」である!

 

 ・異常な財政力を持つ自治体。

 ・配備された特殊な自衛隊部隊。

 ・頻発する「神隠し」と、海への厳重な立ち入り制限。

 

 これら全ての事象が指し示す答えは一つだ。

 

 境港市は、単なる地方都市ではない。海と陸の境界にあるこの街は、日本海側から上陸しようとする「常世(とこよ)のモノ」を食い止めるための、巨大な防波堤――すなわち「国家規模の呪術的特区」なのである!

 

 黒山の下で何が飼われているのか、あるいは何が封じられているのか。その真実を知る者は、決して「こちらの世界」には戻ってこられないのかもしれない……。

 

 (文:超常現象研究家・伴田ガク)

 

【読者投稿コーナー】

 

PN. 砂まみれ さん(鳥取県・10代)

 

「記事読みました。黒山かどうかはわかりませんが、私の通う高校の窓から見える海の色が、たまに『紫』になります。化学工場とかないはずなのに。あと、その日は決まって、教室の掃除用具入れの中から『カサカサ』って音がします。開けても誰もいません。……これって関係ありますか?」

 

編集部コメント:

 紫色の海……それは古来より「黄泉の国」が開いている兆候と言われています。掃除用具入れは「異界への入り口」になりやすい場所です。絶対に中に入ったり、覗き込んだりしないでください!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。