仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

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041 X-ファイル:サカイミナト・コンスピラシー

 

 2016年、5月某日。鳥取県、米子鬼太郎空港。到着ロビーに、周囲の空気を明らかに異質にする男女の姿があった。

 男は長身で、どこか憔悴したような、しかし眼光だけが異常に鋭いスーツ姿。女は小柄で理知的、赤毛のボブカットが似合う医学博士風の美女。

 FBI捜査官、フォックス・モルダーとダナ・スカリーである。

 

「……スカリー、匂わないか」

 

 モルダーは空港の自動ドアを出た瞬間、鼻をひくつかせた。

 

「湿った潮風の中に混じる、金属とオゾンの匂いだ。これは典型的な『隠蔽工作(カバーアップ)』の残留臭だぞ」

 

「モルダー、それはただの磯の香りと、空港の排気ガスよ」

 

 スカリーは呆れ顔でスーツケースを引いた。

 

「そもそも、どうして私たちが日本の地方都市にいるの? スキナー副長官には『有給休暇』って嘘をついてきたんでしょうね?」

 

「嘘じゃない。真実の探求に休みはないんだ」

 

 モルダーは懐から一枚の粗い写真を取り出した。それは、衛星写真に写った、日本海溝付近で発光する謎の青い光と、その座標データだ。

 

「いいかスカリー。アメリカ政府の一部にある『シンジケート(影の政府)』は、長年、地球外生命体との入植計画を進めてきた。だが、彼らが隠しにしている『失敗作』あるいは『対抗策』が存在する。それが、コードネーム『GOJO』だ」

 

「GOJO? ……日本の古典芸能?」

 

「違う。スーパーソルジャー計画の極東版だ。無限のエネルギーを内包し、重力を操り、空間を歪める……。エリア51の地下深くで研究されていたハイブリッド(異星人との混血)技術が、戦後、日本に持ち込まれたんだ。ここ、境港はその実験場なんだよ」

 

 モルダーはタクシー乗り場へ向かいながら、周囲の看板を指差した。

 

「見ろ! あそこにある『COSMOS』の看板! あれは表向きはカルチャーセンターだが、ロゴのデザインが『マジェスティック12』の極秘文書にあったシンボルと酷似している! それにあの『J-GOC』という警備会社……あれは間違いなく、軍産複合体のフロント企業だ!」

 

 通りすがりのサラリーマン(実はJ-GOCの非番職員)が、英語でボソリと呟いて通り過ぎた。

 

「This is Japan. You are tired, Mr. Mulder.(ここは日本です。貴方疲れているんですよモルダーさん)」

 

「ハッ! 聞いたかスカリー! 私の名前を知っていた! やはり我々はマークされているんだ!」

 

「……ええ、そうね。早くホテルに行きましょう。私はカニが食べたいの」

 

 

 その夜。境港市、水木しげるロード。妖怪のブロンズ像が立ち並ぶ観光名所は、夜になると一変して不気味な静寂に包まれていた。

 小鳥遊六花と佐藤蓮は、学校帰りに寄り道をして、夜の散歩を楽しんでいた。

 

「……ねえ、六花。あそこの二人組」

 

 蓮が小声で囁く。

 

「さっきからずっと、ブロンズ像にガイガーカウンターみたいなのを当ててる外国人がいるんだけど」

 

「……うわ」

 

 六花はサングラス越しにその二人を見た。(……本物だ。本物のモルダーとスカリーだ。え、なんで? ここX-ファイルの世界線じゃないよね? クロスオーバーしちゃった?)

 六花の前世知識にある、あの有名なFBIコンビ。モルダーがブロンズ像の『一反木綿』に向かって、「これはロズウェル事件のエイリアンの皮膚組織を模したものだ」と熱弁している。

 

「関わらないほうがいいよ、蓮。あれに関わると、UFOにアブダクションされるか、政府の陰謀に巻き込まれて社会的抹殺されるかどっちかだから」

 

「そ、そうなの……?」

 

 その時。空間が歪んだ。ブロンズ像の影から、ヌルリとした不定形の何かが這い出してきた。呪霊だ。普段なら一般人には見えないはずだが、今日の境港は磁場が乱れているのか、あるいは「観測者(モルダー)」の思い込みが世界に干渉しているのか、その姿が半透明に実体化していた。

 

「ギギ……アソボ……」

 

 呪霊が観光客(モルダーたち)に向かって触手を伸ばす。

 

「危ない!」

 

 六花は考えるよりも先に動いた。タタッ! 軽やかな助走から、商店街のアーケードの支柱を蹴り、三角飛びで空中へ躍り出る。

 

「ふんッ!」

 

 空中で回転し、呪霊の脳天に、呪力を込めた踵落としを叩き込む。ドォォン! 呪霊は悲鳴を上げる間もなく霧散した。

 着地。六花は髪を払い、何事もなかったかのように立ち上がった。

 

「……ふぅ。最近、雑魚が増えたなぁ」

 

 しかし、その光景を、特等席で目撃してしまった男がいた。

 

「スカリー!!!」

 

 モルダーが絶叫した。

 

「見たか!? 今の動き! 重力を無視した滞空時間! そしてプラズマのような発光現象! 間違いない……彼女だ! 彼女こそ、私が追い求めていた『GOJOファイル』の核心、ハイブリッド・チャイルドだ!!」

 

「モルダー、落ち着いて。暗くてよく見えなかったけど、今のはパルクールよ。日本の若者の間で流行っているストリートスポーツね」

 

「違う! 彼女の目を見ろ! サマンサ(妹)が連れ去られた夜と同じ目をしている!」

 

 モルダーはFBI手帳(日本ではただの紙切れ)を掲げ、六花に向かって走り出した。

 

「待ってくれ! 君! 私はFBIのフォックス・モルダーだ! 君を助けに来た!」

 

 (……うわぁ、来ちゃったよ)六花は蓮の手を引いて後ずさる。この人と話すと、「君のDNAは宇宙人のものだ」とか言われて血液採取されそうだ。

 

 

 モルダーが六花に接触しようとした、その瞬間。

 キキーッ!! 音もなく、黒塗りのセダン(1960年代風のクラシックカーに見えて、中身は超ハイテク)が路地に滑り込んできた。

 ドアが開き、黒いスーツに黒いネクタイ、そして黒いサングラスをかけた二人の男が降りてくる。エージェントVと、エージェントP。MIB(メン・イン・ブラック)。地球上のエイリアン活動を監視・隠蔽する秘密組織のエージェントだ。

 

「……あー、そこの一般市民の方々」

 

 エージェントVが、懐から銀色の棒(ニューラライザー)を取り出した。

 

「今、ここでガス管の爆発事故のようなものを見ましたね? 沼地から発生したガスの光が、金星の光に反射して……」

 

 彼らの任務は、さきほどの呪霊(彼らの定義では未確認有機生命体)の目撃情報を消去することだ。J-GOCや財団とは管轄が違うが、彼らは「宇宙人の仕業っぽいもの」には首を突っ込む習性がある。

 だが、それを見たモルダーの顔色が、蒼白になった。

 

「……来た」

 

 モルダーが震える声で呟く。

 

「シンジケート(影の政府)だ……!! キャンサーマンの掃除屋(クリーナー)どもが、もう嗅ぎつけてきやがった!」

 

 モルダーにとって、黒服の男たちは「真実を隠蔽し、目撃者を消す暗殺者」だ。彼は反射的に、腰のホルスターから拳銃(グロック19)を抜いた。

 

「させるか! この子は渡さんぞ!」

 

 バンッ! モルダーが威嚇射撃を行う。(※注:日本の路上です)

 

「……は?」

 

 MIBの二人がサングラス越しに顔を見合わせた。「V、あいつ何だ? 実弾兵器を持ってるぞ」「分からん。未登録の凶暴なヒューマノイド・エイリアンかもしれん。……排除する」

 MIBたちが懐から、のっぺりとした未来的な銃(スペースガン)を取り出す。キュイイイィ……と、エネルギー充填音が響く。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 スカリーが慌てて遮蔽物に隠れる。

 

「モルダー! ここは日本よ! 銃撃戦なんて国際問題になるわ!」

 

「国際問題じゃない、星間戦争だスカリー!」

 

 

 その混乱を、通りの向かいにある雑居ビルの屋上から監視している集団がいた。迷彩服に身を包み、高度な通信機器と対物ライフルを構えた男たち。「デルタ・グリーン」。アメリカ政府内でかつて非合法化された、対神話生物(クトゥルフ神話)専門の特殊部隊である。

 彼らは本来、境港近海に潜む「深きものども」のカルト教団を監視していたのだが……。

 

「……隊長。ターゲットエリアにFBIのモルダーが現れました」

 

 スコープを覗く隊員が報告する。

 

「どうやら、黒服の連中(MIB)と交戦状態に入ったようです」

 

「モルダーだと?」

 

 隊長が舌打ちをする。

 

「あの『変人(スプーキー)』か。……チッ、UIU(FBI異常事件課)の回し者め。奴ら、俺たちのオペレーションを嗅ぎ回りに来たな?」

 

 デルタ・グリーンにとって、正規のFBIやUIUは「何も知らずに現場を荒らす邪魔者」か、あるいは「敵対組織の手先」である。

 

「隊長、どうします? 奴らにカルトとの接触を知られたら、我々の存在が露見します」

 

 短気な隊員が、ライフルの安全装置を外した。

 

「……消しますか?」

 

「……やむを得ん。UIUも、MIBも、シンジケートも……まとめて始末して、事故に見せかける」

 

 カシャッ。屋上から、複数の銃口が路上へ向けられた。

 

 

 一方その頃。現場から2ブロック離れた、警視庁公安部特持課の移動指揮車の中。英国風のスーツを着こなした小柄な紳士、杉下右京警視は、優雅に紅茶を注いでいた。

 モニターには、水木しげるロードのカオスな状況が映し出されている。FBI(モルダー)は妄想で暴走中、MIBは宇宙人認定して排除準備中、デルタ・グリーンは狙撃準備中、小鳥遊六花はドン引き中だ。

 

「……はぁ」

 

 右京は深いため息をつき、紅茶の香りを嗅いだ。アールグレイの香りも、今の彼を癒やすには足りないようだ。

 

「おやおや。困ったものですねぇ。アメリカの『お友達』は、どうしてこうも他人の庭で花火大会をしたがるのでしょうか」

 

 隣に立つ、いかつい顔つきの相棒(財団機動部隊からの出向者)が尋ねる。

 

「右京さん、どうします? J-GOCに通報しますか? 八雲支部長がキレて、更地にするかもしれませんが」

 

「いいえ。それは最終手段です」

 

 右京は眼鏡の位置を直した。

 

「彼ら(米国の各組織)は、一つの大きな誤解をしています。『シンジケート』などという古い影法師に怯えるあまり、この国がもっと『厄介な秩序』によって守られていることを忘れている」

 

 右京はモニターの隅に映る、一台の車両を指差した。ICPO(国際刑事警察機構)のエンブレムをつけた、特殊車両だ。

 

「我々が出るまでもありません。……彼が、来ていますから」

 

 

 路上にて。「動くな! FBIだ!」と叫ぶモルダー。「記憶消去プロセス、スタンバイ」と構えるMIB。「ターゲットロック」と狙いを定めるデルタ・グリーン。

 その中心に立たされた六花は、蓮に向かって呟いた。

 

「……ねえ、蓮。これ、どうやって収拾つけるの? 私、領域展開して全員黙らせたほうがいい?」

 

「だめだよ六花! そんなことしたら国際問題どころか、第三次世界大戦の引き金になっちゃう!」

 

 一触即発。誰かがトリガーを引けば、境港が火の海になる。

 その時。ウゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!!! 空気を切り裂くような、野太いサイレンの音が響き渡った。

 

 

 FBI(モルダー)が銃を構え、MIBがニューラライザーとスペースガンを起動し、ビルの上からデルタ・グリーンが照準を合わせる。その均衡を破ったのは、一台のパトカーだった。日本のパトカーではない。ICPO(国際刑事警察機構)のエンブレムを掲げた、特殊仕様の銭形突撃隊車両だ。

 バリバリバリッ!! ガードレールをなぎ倒し、車両が猛スピードで現場の中心にドリフトして突っ込んできた。

 キキーッ!! タイヤが白煙を上げ、ドアが蹴り飛ばされるように開く。

 

「ルパァァァン!! どこだぁぁぁーーっ!!」

 

 降りてきたのは、ベージュのバーバリー・トレンチコートにソフト帽を目深に被った大男。銭形幸一警視である。

 

「……あ?」

 

 モルダーが呆気にとられた。

 

「誰だ? 現地の警察か? それにしては……」

 

 銭形は鋭い眼光で周囲を見渡した。そこにはルパンはいなかった。代わりに、銃を持った外国人たちが、日本の観光地で睨み合っている。

 

「……なんだ、ルパンじゃないのか」

 

 銭形は舌打ちをした。だが次の瞬間、その表情が鬼のように変わった。

 

「だが!! 貴様ら、日本の路上でチャカを抜くとはいい度胸だ!!」

 

 銭形が動いた。その動きは、モルダーの動体視力でも捉えきれないほど速かった。

 シュッ! ジャララッ! 銭形の袖口から、無数の手錠が飛び出した。それは物理法則を無視した軌道を描き、まるで生き物のように標的へ襲いかかる。

 ガシャン!!

 

「なっ!?」

 

 モルダーの手首が、一瞬で背後に回され、手錠で拘束された。同時に、MIBの二人組の手元からスペースガンが弾き飛ばされ、彼らの両手も互いに連結されて拘束される。

 

「全員確保ぉぉぉーーっ!!」

 

 

 地上での制圧と同時に、上空でも決着がついていた。ビルの屋上で狙撃体勢に入っていたデルタ・グリーンの工作員たち。彼らがトリガーを引こうとした瞬間、背後から静かな声がかけられた。

 

「……動かないでいただけますか?」

 

 工作員たちが振り返ると、そこには黒い装備に身を包んだ警視庁公安部(実質的な財団機動部隊)が銃口を向けていた。その中心に、紅茶のカップを持った小柄な紳士――杉下右京が立っている。

 

「デルタ・グリーンの皆さんですね。深きものどもの捜査、ご苦労様です。ですが、私の管轄(テリトリー)で、勝手な花火大会は困りますねぇ」

 

 右京は眼鏡の位置を直し、冷徹に告げた。

 

「あなた方の身柄は、日本政府……いえ、もっと上の『財団』が預かります。抵抗すれば、記憶処理(Aクラス)の刑ですが……よろしいですか?」

 

「チッ……UIUどころじゃない、本物の『財団』かよ……」

 

 隊長がライフルを捨て、両手を上げた。右京は満足げに頷き、無線に向かって言った。

 

「銭形警視。上は片付きましたよ。……下の『宇宙人マニア』の方々をお願いします」

 

 

 1時間後。境港警察署、臨時取調室。パイプ椅子に座らされたモルダーは、まだ興奮冷めやらぬ様子だった。

 

「放せ! 私はFBI捜査官だ! これは国際的な陰謀なんだ! あの黒服(MIB)はシンジケートの暗殺者で、あの少女はハイブリッドだ!」

 

 バンッ!! 机が叩き割れんばかりの勢いで叩かれた。目の前に座る銭形が、鬼のような形相で睨んでいる。

 

「黙らっしゃい!!」

 

 銭形の一喝で、部屋の空気がビリビリと震えた。

 

「私はICPOの銭形だ。フォックス・モルダー君。君の身分証は確認した。本物のFBIだそうだな。……だがね」

 

 銭形は懐から十手(愛用品)を取り出し、モルダーの鼻先に突きつけた。

 

「君、どういった権限で、この国で捜査を行なっている?」

 

「権限など関係ない! 真実(トゥルース)がそこにあるからだ! 日本政府は宇宙人と結託し、国民を人体実験に……」

 

「関係あるんだよ!!」

 

 銭形の怒声が再び響く。

 

「ここは日本だ。法治国家だ。君のバッジは、ここではただのブリキ板だ! 正式な捜査共助要請もなし、拳銃の不法所持、公務執行妨害、器物損壊……。FBI長官に電話してもいいんだぞ? 『お宅の変人(スプーキー)が、日本の観光地で宇宙戦争ごっこをしている』とな!」

 

「ぐぬぬ……! だが、あの少女を見たか!? あの身体能力! 彼女こそが証拠だ! 彼女を保護しなければ!」

 

「……やれやれ」

 

 銭形は大きく溜息をつき、煙草(禁煙中なので吸わない)を咥えた。

 

「あの娘は小鳥遊六花。ただの元気な中学生だ。少しばかり……いや、かなり運動神経が良いだけだ」

 

「そんな馬鹿な! 重力を無視していたぞ!」

 

「忍者の末裔かもしれんし、サーカスの団員かもしれん。だがな、モルダー君。君のその『何でもかんでも宇宙人のせいにする』癖、直さんと出世できんぞ」

 

 銭形の言葉には、実感がこもっていた。彼自身、ルパンという常識外の怪盗を追いかけ、世界中の超常現象(とんでも兵器やオカルト)を見てきた。だからこそ分かる。「不思議なこと」と「法を破ること」は別問題なのだ。

 部屋の隅では、ダナ・スカリーが杉下右京から差し出された紅茶を飲んでいた。

 

「……美味しい紅茶ですね」

 

「ええ。アールグレイです。……貴女も大変ですねぇ。あんな相棒を持って」

 

「慣れましたわ。……この国のカニ料理は美味しいですか?」

 

「ええ、絶品ですよ。帰りの機内食よりは」

 

 

 夜明け前。モルダーとスカリーは、外交ルート(とJ-GOCの圧力)により、即時強制送還されることとなった。MIBとデルタ・グリーンも、それぞれの組織へ「厳重抗議」と共に送り返された。

 米子空港の出発ロビー。モルダーは、ガラス越しに日本の夜明けを見つめていた。

 

「スカリー。私は確信したよ」

 

「何を? 日本の警察が優秀だってこと?」

 

「違う。あの銭形という男……。あの手錠の速度、そして常人離れした威圧感。彼もまた、戦時中に開発された『スーパーソルジャー』の生き残りか、あるいはサイボーグだ」

 

「モルダー……彼はただのベテラン刑事よ」

 

「いや、日本は恐ろしい国だ。ハイブリッドの少女(六花)を、サイボーグ刑事(銭形)が守護し、それを黒幕(右京)が監視している……。この『サカイミナト・ファイル』は、X-ファイルの中でも最大の闇になるぞ」

 

 モルダーはブツブツと独り言を言いながら、搭乗ゲートへと消えていった。

 

 

 騒動が去った水木しげるロード。小鳥遊六花と佐藤蓮は、銭形と右京に見送られていた。

 

「……ごめんね、六花ちゃん。騒がせてしまって」

 

 銭形が帽子を取って頭を下げる。

 

「ワシがもっと早く到着していれば、あんな変人たちに絡まれずに済んだんだが」

 

「ううん、大丈夫だよ銭形さん」

 

 六花は笑った。

 

「面白かったし。……本物のモルダーに会えたのは、ちょっと感動したかな」

 

「おやおや。貴女も物好きですねぇ」

 

 右京が苦笑する。

 

「ですが、気をつけてください。あなたの周りには、磁石のように『変なもの』が集まってくるようですから」

 

「自覚はあるよ。……パパ(五条悟)のせいかな」

 

 六花は肩をすくめた。世界には、J-GOC以外にも様々な組織があり、それぞれの正義や妄想で動いている。FBI、MIB、デルタ・グリーン、ICPO、公安……。この広い世界(クロスオーバー)の中で、平穏な中学生生活を送るのは、特級呪霊を祓うよりも難しいことなのかもしれない。

 

「帰ろう、蓮。……なんか疲れたから、甘いもの食べたい」

 

「うん。コンビニでスイーツでも買って帰ろうか」

 

 二人の背中を見送りながら、銭形は夜空を見上げた。

 

「ルパン……。お前もどこかで、こんな馬鹿騒ぎを見ているのか?」

 

 日本の、とある地方都市の夜は、こうして更けていった。真実はそこにあるかもしれないが、今はそっとしておくのが一番だ。

 

 

 その時。ピリリリリッ! 銭形の懐にあるICPO支給のスマートフォンが鳴り響いた。

 

「……ん? なんだ、こんな時間に。はい、銭形です」

 

「あー、銭形警視ですか? 本部の会計課です」

 

 電話の向こうから、事務的な声が聞こえてくる。

 

「先ほどの突入の件ですがね。現場の映像を確認したところ、ガードレール3枚とカーブミラー1基を派手に破壊していますね?」

 

「ああ、緊急事態だったからな! 国際的な紛争を止めるための、やむを得ない措置だ!」

 

「ですが警視。報告書によると、今回の対象はルパン三世ではなく、FBIとの管轄争い……つまり身内揉めですよね? ルパン逮捕案件以外での器物損壊は、経費が落ちないことになってましてね」

 

「……は?」

 

 銭形の動きが固まった。

 

「よって、今回の修理費および車両の板金代は、全額、警視の来月の給与から天引きさせていただきます。……あ、結構な額になりますので、ボーナスも覚悟しておいてくださいね。では」

 

 プツッ。ツー、ツー、ツー……。

 銭形はスマートフォンを耳に当てたまま、石像のように硬直した。ガードレール3枚。カーブミラー。特注パトカーの修理費。頭の中で電卓が弾かれ、とんでもない数字が算出される。

 

「……じ、自腹……?」

 

 銭形の手から、スマホが滑り落ちそうになる。カッコいいハードボイルドな雰囲気は霧散し、そこにはただの「生活に困る中年公務員」の姿があった。

 

「し、しまったぁぁぁぁーーっ!! 勢いでやっちまったが、今月はカップ麺生活だぁぁーーっ!!」

 

 夜の境港に、銭形の悲痛な叫びがこだました。

 

「おやおや」

 

 杉下右京が、紅茶をすすりながら眼鏡を光らせた。

 

「代償は高くつきましたねぇ、銭形さん。……あそこの自販機、100円でおしるこが売ってますよ? 奢りましょうか?」

 

「うぅ……頼む、右京君……。温かいのが染みるんだ……」

 

 日本の、とある地方都市の夜は、こうして更けていった。真実はそこにあるかもしれないが、とりあえず銭形警部の財布の中身は空っぽである。

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