月が輝くためには太陽が必要。
月にウサギが見えるのは太陽のおかげ。
ウサギにカメが勝てたのは慢心があったから。
本当にそうだろうか?
彼女たちをプロデュースするようになってから、そんなことを考えるようになった。
初星学園中等部No.1ユニットSyngUp! の面々はそれぞれかなり面倒な性格をしている。
例えば月村手毬、彼女の性格はとにかく幼い。
しかし、彼女はその上から憧れのガワを被ることで自分を理想へと近づけて、クールに振る舞っている。
無論、身近な自分や元ユニットの彼女たちからすればそんなものは鼻で笑い飛ばせる程度のものでしかないが、彼女の輝きは間違いなくそのガワと本人の熱量から生まれている。
彼女はカメとの競争で勢いのあまり月まで行ってしまうようなウサギなのだ。
童話のウサギとは似ても似つかない、ストイックなウサギと言える。
例えば秦谷美鈴、彼女は酷く傲慢だ。
学園の頂点、
彼女が力を向けるのはいつもウサギに向けてだけ。
無理に走るウサギを止めるためだけにカメの歩幅でウサギを抜き去ろうとする。
その途中でウサギの世話までし出すのだから、ウサギの幼さは留まるところを知らない。
本人はと言えば、全人類における唯一になりたいとまで豪語するのだから、やはり傲慢なのだろう。
例えば賀陽燐羽、彼女は人一倍臆病だ。
彼女はその身に余りあるほどの輝きを持っていた。
自らの憧れを焼き尽くしてしまうほどの圧倒的な輝きを。
その輝きはウサギの脳を焼き、カメの心に火を灯し、そして一つの太陽を飲み込んだ。
世界には太陽は一つだけだ。
彼女はその唯一の太陽を失った。自ら飲み込んでしまった。
それ以来、彼女は何かをこれ以上飲み込んでしまうことを恐れている。
自分に蓋をして、感情を抑えて、逃げ惑う。
誰より強い輝きを持つが故の臆病なのだろう。
そんな三人のプロデュースは困難を極める。
だが、思わぬ発見もあった。
太陽に陰が落ち、月まで光が届かなくなっても、月の上でウサギはがむしゃらに走り続けた。
走り続けてボロボロになって行くウサギを見て、再びカメも歩き始めた。
すると少しづつ、太陽の影が晴れて行く。
他でもない、月の光を浴びて。
確かに月は太陽がなければ輝けないかもしれない。
しかし、月に炎が灯っていた時は、その限りではないのではないかと。
彼女たちは一度失敗した。
三本あった松明はそれぞれに分かれてしまった。
だが、それぞれの炎は消えていない。
こうして、三人をまとめてプロデュースするようになって実感する。
彼女たちにはやはり、並走があっていたのだと。
一丸となるのではなく、並走だ。
ウサギの炎はパチパチと音を立てて、激しく燃え盛る。
時折、風を受けて火花を両側へ飛ばしながら、それでも消えずに燃え盛る。
カメの炎は決して消えない。
常に一定の温度を保ち、どこかが消えかければそっと、熱を与える。
陰った太陽も燻っているだけだ。
ウサギの火花やカメの熱を受ければ、いつか再びその燦々たる輝きを取り戻す火種。
一つになればただの炎でしかないこの三者は付かず離れずの距離でそれぞれが燃えている方が良いと、そう思う。
ふと、自身の周りに熱を感じる。
「あら? お目覚めですか、プロデューサー?」
「居眠りなんて、良いご身分ですね」
「私を焚きつけたのはあなたなんだから、しっかり責任とりなさい?」
どうやら、俺は眠ってしまっていたらしい。
「皆さんお揃いで、レッスンはいかがでした?」
間近で見る彼女たちはやはりそれぞれが輝いている。
この三人をプロデュースするのはかなりの心労が伴う。
だが、
「少し、疲れてしまいました」
「美鈴は休んでばっかだったくせに」
「手毬は私に勝てていなかったけどね」
この輝きの下でなら、俺はいくらでも動いていられる。
「そうですか。順調なようで良かったです」
それだけ言って三人から離れ、デスクに着く。
さて、仕事をしよう。