東方幻忘霧   作:居酒屋の枝豆

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「霞捨」ー燐の消滅ー

炉心室を出ると、熱が一段弱かった。

 

赤い光はまだ残っている。

だが、以前のような刺すような熱気はない。

 

「出力は落ちてます」

 

燐が言う。

 

「でも、急停止はしません」

 

霊夢は前を歩いたまま頷く。

 

「ならいいわ」

 

魔理沙が天井を見上げる。

 

「鬼もいねえ、怨霊も少ねえ、太陽も弱い。地底らしくねえな」

 

「怨霊は、最近ずっと静かです」

 

燐の声は落ち着いている。

 

「数も減ってます」

 

「前はもっと、うるさかったのに」

 

廊下を曲がる。

 

石床に足音が響く。

 

四つ。

 

重なって、規則的に。

 

さとりが静かに言う。

 

「旧都をもう一度見ますか」

 

霊夢が答える。

 

「ええ」

 

少し間。

 

「鬼がいないのは、気になる」

 

魔理沙が肩をすくめる。

 

「騒ぐやつがいねえと、余計広く感じるな」

 

燐が小さく笑う。

 

「確かに」

 

広間に出る。

 

天井は高く、赤い灯りが揺れている。

 

杯の音も、笑い声もない。

 

石卓だけが並んでいる。

 

霊夢が立ち止まる。

 

「……静かね」

 

魔理沙が言う。

 

「最初からだろ」

 

さとりは答えない。

 

燐が広間を見回す。

 

「前は、ここ、もっと――」

 

言いかけて、止まる。

 

「もっと、何だったかしら」

 

霊夢は振り返らない。

 

「にぎやかだった」

 

「そうでしたっけ」

 

小さな返事。

 

違和感はない。

 

ただ、少しだけ曖昧。

 

歩き出す。

 

足音が、三つ。

 

石床に響く音は、軽い。

 

霊夢が言う。

 

「地上に戻る前に、橋の方も確認する」

 

魔理沙が頷く。

 

「どうせ何もいねえよ」

 

さとりが淡々と続ける。

 

「……ええ」

 

広間の中央を通り過ぎる。

 

長い卓の端に、空の杯が一つ置かれている。

 

霊夢はそれを横目で見る。

 

何かが引っかかる。

 

だが、理由は分からない。

 

魔理沙が言う。

 

「さとり」

 

「はい」

 

「地霊殿、今何人だ?」

 

間。

 

「三人です」

 

自然な答え。

 

霊夢は頷く。

 

「そうね」

 

歩く。

 

廊下は長い。

 

赤い光が弱い。

 

炉心の鼓動が、遠くで低く響く。

 

霊夢はふと口を開く。

 

「さっき、炉心で――」

 

何を言おうとしたのか、思い出せない。

 

「……いや」

 

首を振る。

 

「何でもない」

 

魔理沙が横を見る。

 

「どうした」

 

「別に」

 

さとりは何も言わない。

 

ただ静かに歩いている。

 

三人の足音が、一定の間隔で響く。

 

誰も振り返らない。

 

誰も数え直さない。

 

広間の入口を抜ける。

 

赤い光がさらに弱まる。

 

地底は広い。

 

静かだ。

 

最初から、こうだった気がする。

 

霊夢は最後に一度だけ、背後を見る。

 

誰もいない。

 

石床と、赤い灯りだけ。

 

違和感はある。

 

だが形にならない。

 

「行くわよ」

 

三人は進む。

 

足音が遠ざかる。

 

広間には、もう何も残らない。

 

ただ、

 

誰かがよく座っていたはずの席が、

 

一つだけ空いたまま、

 

置かれていた。

 

地底にはもう、火車の足音は響かない。




「霞捨」で、「かしゃ」って読みます。
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