東方幻忘霧   作:居酒屋の枝豆

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「結伊」ー萃香と宵の作戦ー

博麗神社は、妙に広く感じられた。

 

縁側に、霊夢と紫だけがいる。

 

霊夢の膝の上には、黒い帽子。

 

風が吹くたび、つばがわずかに揺れる。

 

「……他は?」

 

霊夢が問う。

 

八雲紫 は即答しない。

 

少し間を置いてから、言う。

 

「力の強い鬼は残っている」

 

「あと、里に溶け込んでいる妖怪も」

 

霊夢は目を伏せる。

 

「共通点は?」

 

紫は扇子を閉じる。

 

「強さだけではない」

 

「関わりの多さ」

 

「日常への浸透」

 

霊夢は考える。

 

魔理沙は強い。

 

だがそれ以上に、“象徴”だった。

 

はっきりしている。

 

語られやすい。

 

定義しやすい。

 

「……浮いてるやつから、消える?」

 

紫は首を振る。

 

「消えたのではないわ」

 

霊夢は帽子を握る。

 

「分かってる」

 

引き抜かれた。

 

あの濃くなった輪郭。

 

固定された存在。

 

外へ傾いた重み。

 

霊夢の視線が鋭くなる。

 

「はっきりしすぎたものが、危ない」

 

沈黙が落ちる。

 

風が止む。

 

霊夢はゆっくり言う。

 

「じゃあ守るには?」

 

紫は静かに答える。

 

「曖昧さを保つ」

 

「だが外からの観測が強い」

 

霊夢は歯を食いしばる。

 

「こっちだけじゃ足りない」

 

紫の目が細くなる。

 

「外に触れる必要がある、と?」

 

霊夢は頷く。

 

「でも壊すんじゃない」

 

考える。

 

破壊では、確定を強める。

 

反発は、より鮮明にする。

 

ならば。

 

どうする。

 

境内に、重たい沈黙。

 

そのとき。

 

笑い声が響く。

 

「なんだい、暗い顔して」

 

現れたのは、伊吹萃香 。

 

瓢箪を傾けながら、ふらりと歩いてくる。

 

「宴でもやる?」

 

霊夢は睨む。

 

「冗談言ってる場合じゃない」

 

萃香は帽子を見る。

 

少しだけ、真顔になる。

 

「持ってかれたね」

 

霊夢は何も言わない。

 

萃香は縁側に座り込む。

 

「で、どうするつもりだい」

 

紫が静かに答える。

 

「観測が強い」

 

「確定が進んでいる」

 

萃香は首を傾げる。

 

「確定ねぇ」

 

そして瓢箪を振る。

 

「宴会でもすれば?」

 

霊夢が顔を上げる。

 

「……何?」

 

「酔えば、輪郭はぼやける」

 

萃香は笑う。

 

「強い鬼が残ってるのはね、境界が揺れてるからさ」

 

酒。

 

宴。

 

認識の鈍り。

 

霊夢の思考が、ゆっくりと繋がる。

 

「酔わせる……」

 

紫が静かに言う。

 

「認識を曖昧にする力」

 

霊夢は立ち上がる。

 

「外がはっきり見すぎてるなら」

 

言葉が形を持つ。

 

「向こうを、酔わせればいい」

 

萃香がにやりと笑う。

 

「面白い」

 

霊夢は続ける。

 

「でも酒だけじゃ足りない」

 

「記憶も揺らす必要がある」

 

萃香が肩をすくめる。

 

「じゃあ、あの子も呼ぶかい?」

 

「瓢箪住まいの座敷童」

 

紫が目を細める。

 

「なるほど」

 

霊夢は理解する。

 

酒で認識を鈍らせる。

 

記憶で定着を緩める。

 

完全に消すのではない。

 

ただ、思い出しにくくする。

 

確定を弱める。

 

萃香が立ち上がる。

 

「連れてくるよ」

 

ふらりと姿を消す。

 

境内に再び静寂。

 

霊夢は帽子を握る。

 

「やれる?」

 

紫は答える。

 

「前例はない」

 

霊夢は笑わない。

 

「でも、やるしかない」

 

空を見上げる。

 

まだ視線はある。

 

だが、さきほどより冷静に見える。

 

観測が原因なら。

 

観測を揺らす。

 

幻想郷は、忘れられたものの居場所。

 

ならば。

 

思い出されすぎたなら。

 

もう一度、曖昧に戻す。

 

霊夢は立ったまま、空を睨む。

 

「待ってなさい」

 

幻想郷が、外へ触れるための準備。

 

嵐の前の、静かな会議だった。




「結伊」で「けつい」って読みます。
あと三話くらいですね。こんな駄文を読んでくれている方には頭が上がりません。
ありがとうございます。
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