東方幻忘霧   作:居酒屋の枝豆

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(最終話)「宴会」ー異変の終わりー

博麗神社は、文字通り揺れていた。

 

笑い声で。

 

酒で。

 

足踏みで。

 

境内いっぱいに敷かれた茣蓙。

山のように積まれた酒樽。

空には提灯。

 

大宴会。

 

完全勝利の。

 

「飲め飲めぇ!!」

 

伊吹萃香 が巨大化し、瓢箪を振り回す。

酒が滝みたいに降る。

 

「ちょ、ちょっと!後で掃除が大変なのよ!」

 

霊夢が叫ぶが、もう誰も止まらない。

 

霧雨魔理沙 は帽子を被り直し、豪快に笑っている。

 

「外の世界? もう怖くないぜ!」

 

その声に、境内がどっと沸く。

 

地底組もいる。

 

橋の上で消えたはずの妖怪も。

 

里で輪郭を失った面々も。

 

みんな、いる。

 

ちゃんと、いる。

 

「ふふ、幻想郷はやはり強いですね」

 

八雲紫 が優雅に酒を傾ける。

 

「強いというより、しぶといのよ」

 

霊夢が杯をぶつける。

 

その横で——

 

銀のナイフが宙を舞った。

 

「お嬢様、あまり飲みすぎませんように」

 

静かで、完璧な所作。

 

瀟洒な微笑み。

 

十六夜咲夜 。

 

完全に、戻っている。

 

時間の止まった空間に取り残されていた彼女も、

酔いの波が外の観測を溶かしたことで、

きれいに帰還した。

 

「ただいま戻りました」

 

まるで何事もなかったように。

 

紅魔館組が歓声を上げる。

 

境内がさらに騒がしくなる。

 

鬼が踊る。

 

天狗が飛ぶ。

 

河童が変な花火を打ち上げる。

 

夜空に、色とりどりの光。

 

幻想郷は、満ちている。

 

欠けたものはない。

 

誰も消えていない。

 

「なあ霊夢」

 

魔理沙が隣に腰を下ろす。

 

「結局、何だったんだ?」

 

霊夢は杯をあおる。

 

「さあね」

 

そして、笑う。

 

「でも——勝ったでしょ?」

 

魔理沙も笑う。

 

「違いない」

 

笑い声が重なり、夜はさらに深まる。

 

幻想郷は今日も騒がしい。

 

きっと明日も。

 

その先も。

 

ずっと——

 

 

 

 

灯りの輪から、ほんの少し離れた木陰。

 

誰にも気づかれない場所に、

古明地こいし は立っている。

 

宴は続いている。

 

鬼が笑い、巫女が呆れ、魔法使いが騒ぎ、

時間を操るメイドが完璧に給仕し、

境界の妖怪が楽しそうに眺めている。

 

誰も消えていない。

 

誰も欠けていない。

 

幻想郷は、満ちている。

 

こいしは、その光景を見つめて、くすりと笑った。

 

「よかったね」

 

風が吹く。

 

提灯が揺れる。

 

そして、ふいに。

 

こいしは、こちらを向く。

 

まるで。

 

物語の向こう側を、正確に見つけたみたいに。

 

「ねえ」

 

小さく、首をかしげる。

 

「見えてる?」

 

それは宴の誰にも向けられていない。

 

霊夢でもない。

魔理沙でもない。

紫でもない。

 

ただ、ひとつ。

 

読んでいる“あなた”へ。

 

こいしは微笑む。

 

「大丈夫」

 

「また始まるかもしれないし」

 

「始まらないかもしれない」

 

幻想郷は、忘れられたものの行き着く場所。

 

けれど。

 

思い出され、語られ、描かれ、遊ばれ、愛される限り。

 

何度でも、境界は揺れる。

 

何度でも、宴は開かれる。

 

それがいつかは、誰にもわからない。

 

でも。

 

こいしは、楽しそうに言う。

 

「あなたが見てるなら、平気だよ」

 

その声は、やわらかく溶ける。

 

宴の喧騒へ。

 

夜風へ。

 

ページの余白へ。

 

やがて。

 

あなたが、この物語を読み終え。

 

そっと閉じた、そのとき。

 

博麗神社の境内で。

 

鬼が笑い。

 

巫女がため息をつき。

 

魔法使いが星を撒き散らし。

 

境界の妖怪が目を細める。

 

そして。

 

誰にも気づかれない木陰で。

 

こいしが、もう一度だけ微笑んだ。

 

幻想郷は——

 

そっと、笑った。




はい。完結です。
何となくで書き始めたこの物語ですが、しっかり書き終えられてよかったです。
初投稿ということもあり、至らぬ点もたくさんあったと思いますが、
それでも呼んで下さった皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。
もし良ければ、作品を通しての感想など頂けると、跳ねて喜ぶので是非お願いします。
では、またどこかでお会いすれば。
改めて、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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