3「恐襲」ー存在と恐怖ー
違和感は、空気の密度だった。
「……重いな」
箒で高度を上げる。
飛べる。問題はない。
それでも、風が私を押し返してくる。
幻想郷は、抵・抗・している。
森の上空で、魔力の流れが乱れた。
「来るな……」
次の瞬間、
地面が爆ぜた。
弾幕じゃない。
演出も、宣言もない。
ただ、殺すための一撃。
反射的に回避する。
肩を掠める衝撃。
「……っ、痛ぇ!」
血が出る。
結界も張られていない。
これは遊びじゃない。
生存競争だ。
姿を現したのは、
名も呼ばれなくなった妖怪たち。
輪郭が揺らいでいる。
存在が、不安定だ。
「……まだ、見えるだろ……!」
一体が叫ぶ。
声が掠れている。
「魔法使いだ……!
人間だ……!」
その言葉に、
必死さが混じっていた。
歯を噛みしめる。
「……悪いな」
八卦炉を構えかけて、
やめた。
消し飛ばしたら、
それは“忘れられる”のと同じだ。
「逃げろ。
ここにいない方が――」
最後まで言えなかった。
妖怪たちは、
聞く余裕がない。
一斉に、襲いかかってくる。
弾幕でも、決闘でもない。
爪。
牙。
呪詛。
魔理沙は防御結界を展開する。
「……くっ!」
結界が、削れる。
攻撃が荒い。
無駄が多い。
でも――
全部、殺す気だ。
「見てろ……!」
妖怪の一体が、魔理沙に縋るように迫る。
「見えてるんだろ.....?」
その目は、
憎しみよりも、
恐怖そのものだった。
こいつらは、
勝ちたいんじゃない。
存在を証明したいだけだ。
「……くそっ!」
魔理沙は、あえて被弾する。
肩。
脚。
痛みが走る。
妖怪たちの動きが、一瞬止まった。
――恐れた。
それだけで、
妖怪の輪郭が、
ほんの一瞬、濃くなる。
「……それでいいんだろ」
魔理沙は、荒く息をつく。
「私を……
生贄にする気かよ」
返事はない。
代わりに、
さらに激しい攻撃。
戦闘は、長引いた。
森が、壊れる。
木が倒れ、地面が抉れる。
それでも、
妖怪たちは止まらない。
止まったら、
消えるからだ。
一体、また一体。
攻撃の途中で、
ふっと、消える。
倒されたわけじゃない。
力尽きたわけでもない。
恐れが、足りなくなった。
それだけ。
膝から力が抜ける。
「……はぁ、はぁ……」
勝った感覚は、ない。
ただ、
残されただけだ。
霧の向こうで、
最後の妖怪が、こちらを見た。
何か言おうとして、
言葉にならず。
次の瞬間、
そこには何もなかった。
森は、静かになった。
拳を地面に叩きつける。
「……ふざけんなよ」
怒鳴っても、
誰も恐れない。
誰も、聞いていない。
ただ、空を見上げた。
霧は、相変わらず漂っている。
「……霊夢」
初めて、
一人でいるのが怖くなった。
魔理沙は、箒にまたがる。
まだ、回らなきゃならない。
「まずは、紅魔館からだ」