ある日の午前中、俺は一本の電話を受けていた。
定期的に頼まれる仕事の電話だ。まぁすぐに利益にはならないが、将来的に大きく帰ってくる投資みたいなものだ。
それほど手間がかかるわけでもないし、役得もあるので断る理由もない。
電話後、ベッドで寝ていた桔梗ちゃんが気だるげにしながらどこからの電話なのか聞いてくる。
どうやらまた新しい女をたらしこんだのかとか聞いてくる。俺がそんな事するわけ無いだろう。この非モテ男子に対する皮肉ですか? 喧嘩なら買うぞ。今晩もヒイヒイ言わして…いや毎晩言わされているのはこっちですね。ごめんなさい。許してください。その穴は出すところであって入れるところじゃないんです。
とりあえず誤解を解こう。
俺がモーニングコールを受けたのは高度育成高等学校に通っているお禿様からだ。
もう彼も3年生になるんだよな。未だにBクラスのドラゴンボーイからAクラスを守り抜いている守護神として活躍中らしい。
おっぱいピンクも頑張っているそうだが、おにぎり屋さんの方を重視していてCクラスに陥落したようだね。
Dクラス? 既に諦めムードらしいね。青春を謳歌しつつ、一般受験の準備をしているらしいよ。でもセンター試験(作中当時はまだ共通試験ではなかった)は合同合宿の特別試験に参加で受けられないから一部の私立大学や専門学校以外は留年確定ですね。ご愁傷さまです。
そんな感じで桔梗ちゃんに伝えたら、不思議そうになんでその高育にいるお禿様が電話をかけてこられるのかを聞いてくる。
なんでって普通に電話をしたからじゃないか?
そうか、桔梗ちゃんは電話の事を知らないのか?
お禿様や高円寺も知らなかったし、やはりあまり知られていないのかな?
常識的に考えれば分かることなんだけど、やはりそこはあまり法律に詳しくない未成年というのもあるのかな。
あと年代的にもあまり使わない世代だからってのもあるんだろうな。
そう、あれはまだ1年の夏頃、ちょうど船上試験から戻ってきた後ぐらいの時期だったな。
早朝のおにぎり販売を終えて、モールをぷらぷらしていた時の話だ。
その日も白波大天使チヒロエルと奇跡的ランデブーできないかと期待をしながらモールの可愛い系小物ショップなどをハシゴしていた時に、あのお禿様を店内で見かけたのだ。あの巨体を小さくまるめながら子供用の可愛いアクセサリーを物色する姿をみて思わず110をしそうになったね。おまわりさんこっちです。
あいつは俺が通報しそうになっているのをみて慌てて弁明してきた。双子の妹に渡すためのプレゼントを見ていたと。
だけど買ったとしても送ることができないと嘆いていたが。
え? なんで送れないのか理解できない。普通に送ればいいじゃないか。
そう言うとお禿様は外部へと連絡や手紙などを送ることはできないと言ってきた。
いや、お前が送るんじゃないよ。ショップに送らせればいいじゃないか。
どれを送りたいのかを聞いた俺は、それを持ってレジに行き、ショップに郵送を頼んだ。お禿様の実家に。
ほらできた。生徒が送るのはダメだが、お店の郵送サービスで商品だけを送るのなら問題ないぞ。
お禿様は唖然とした顔をしていた。何お前、家具とか買ったことないのか? いちいちその腕力でかついで家まで帰る派だったのか?
俺は(前世に)秋葉原でエロゲーを大漁に買った後に痛々しい紙袋を持って山手線に乗り込む勇気はないからな。毎回郵送してもらってたぞ。
その後、お禿様ができればメッセージを添えたかったと言っていたが、それなら直接電話で伝えればいいじゃないかと言ったら出来るわけ無いだろうと怒鳴られた。おいおい落ち着けよ、カルシウム足りてないんじゃないか? うちのおにぎりでも食べるか?
俺はお禿様を連れてケヤキモール内の奥まった店の奥側にある細い通路に入る。この先、職員用事務所やスタッフ用更衣室と書かれた看板がある。お禿様はそれを見てここからは関係者以外は立入禁止ではないのかと聞いてくるが、別にそんな事書いていないだろう。
実際に一部の通路への扉には関係者以外立入禁止とデカデカと目立つように書かれたところがたくさんある。
だがこの通路は店の奥で電灯もわざと暗くしていて表からは見えないように巧妙に隠されているが扉で仕切られることもなければ、あのデカデカと目につく立入禁止の看板も一切ない。つまり通っていいってことだ。
そして一部の立入禁止の看板がある扉だけを避けて通路をぐねぐねと回り道しながら進むと、外へと出る大きな観音開きの扉が現れる。いわゆる搬入口ってやつだ。
そこを抜けるとモールの内側にある道路が現れる。
道路にそってモール側には搬入用の設備があり、何台ものトラックが搬入作業を行っている。道路の先には大きく開かれた門がある。
その先は高度育成高等学校の敷地外の公道だ。簡単に出れるけど一応監視カメラがあるから出ない方が良い。クラスポイントがガクッと下がるから。揉み消すのに100万ポイントかかるからね。
この道路はモールと高度育成高等学校への搬入専用でここ以外にはつながっておらず、周りは全部モールで囲われているので今通ってきたモールのルート以外では来られない。
そしてその道路の脇にポツンと一つ佇んでいる四角いガラス張りの箱。
そう、公衆電話ボックスがあるんだ。
日本には『電気通信事業法』っていう法律があってね。市街地では500m四方に1台の第一種公衆電話の設置が義務付けられているんだ。(2022年には改正緩和されて1キロ四方になります)
第一種公衆電話というのは『24時間いつでも誰でも利用できる場所』に設置しないといけないという要件がある以上、生徒がアクセスできない場所には設置できないんだよ。
それに翌々考えてみろ。なんでこの高度育成高等学校が成り立っているのかを。
常識的に言えば、入学したら3年間外部に出られずに連絡もできない。たとえ自分の意思で入学したとしても監禁罪が成立する案件だ。訴えられたら一発終了だ。
なので監禁罪を回避するために、生徒が使用できる外部との連絡手段と外部への脱出経路を用意してあるのは当然だろう。
それがこの公衆電話と搬入用ゲートってわけだ。この場所さえ発見できれば幾らでも外部に出れるし連絡も取り放題だ。夏まで必死に海を泳いで渡っていた高円寺はご苦労さまだ。ここを教えてからは喜んで外に出ていったね。だから未だにDクラスはクラスポイントが0のままなんだがな。
とりあえず、そんなわけであの公衆電話を使えば外部と連絡が取れるぞ。え? ペナルティ? 無い無い。あの公衆電話は高度育成高等学校が設置したのではなくNTT東日本が設置して管理しているものだから通信制限も盗聴もできない。なんならISDN回線もあるからINSネットでデジタル通信も出来るぞ。回線速度はゲロみたいに遅いけどメールを送ったり写真を送信したりするぐらいなら出来る。
ただ難点が一つある。高度育成高等学校が管理していないから、ポイントでの支払いができない。
現金は全部入学時に預けることになっているため持っている人はそうそういないだろう。当然お禿様も持っていない。
ではやはり生徒には使えないではないかというお禿様がいうが、そんな事をしたら第一種公衆電話の要件を満たせなくなって法律違反になってしまうので当然抜け穴はある。この魔法のカードを使うのだ。そう、テレホンカードだね。
これを入れることで公衆電話を使うことが出来るのさ。いや110や119なら無料で使えるけど、そんなのは端末からかければいいだけだし。え? 端末でかかるぜ、110と119と104は普通にかけられるぜ。ちなみに104からリダイヤルしてもらえば外部にも電話がかけられるけど、こっちはペナルティが発生するから気をつけてな。高円寺にもペナルティのことは教えたんだけど気にせずかけまくってるんだよなぁ。まぁ外部へのアクセスと電話の事で高円寺グループへの内定が決まったから良い投資だったと思おう。
話を戻すが、テレホンカードを使えば外部へとペナルティ無しで連絡が取れる。
あとはこのテレホンカードをどうやって手に入れるかだ。
金券ショップは当然ないし、テレホンカードも販売していない。
だが手に入れることは可能だ。ここが意図的なのかどうかは分からないけどな。
このモールの中にはソフマップが入っているんだよ。
俺はお禿様を連れてもう一度通路を戻りモールへと戻ってくる。
そしておっぱい地味眼鏡がカメラを買っていた店、ソフマップへと入る。
ソフマップの店内奥深く、棚に隠された奥の奥、カーテンで仕切られたエリアがある。
そこのカーテンをくぐると、あら素敵。めくるめく官能の世界だ。
そこには様々なエロゲーが置いてある。そしてまだこの時代にはエロゲーのショップ特典でテレホンカードが付いているのだ。
平台に置かれた最新作のエロゲーを手に取り、レジへ。レジでは特に年齢確認はされない。一応カメラが設置されていてクラスポイントが1減るけど誤差だよ、誤差。それにDクラスにはもう減るポイントなんて無いからね。
これでテレホンカードが手に入るってことだ。
ちなみにそのゲームとテレカはお禿様へ5万ポイントで売りつけた。情報料ということでお禿様は払ってくれ、感謝されたわけだ。
「あのハゲがエッチなゲームを買い漁っているって噂があったけど、ガセじゃなかったわけね」
まぁ会計毎にクラスポイント1減点だから何枚かまとめて買うだろうし、あいつ、しょっちゅう妹と長電話をしていたみたいだから消費速度も早かっただろうからな。それに一応あそこって同じタイトルは1回しか買えない制限が掛かっていたから必然的に複数のタイトルを購入しないといけないし傍目からは重度のエロゲーマーにしか見えないだろう。俺も何回かエロゲーの紙袋を両手に下げてスキップしそうなほどご機嫌な様子で寮に帰っていくお禿様を見たからな。
え?たまに博士とゲーム談義していた? どうやらミイラ取りがミイラになったようだね。テレカ目当てだがもったいなくてゲームをやってみたらハマったわけか。エロゲーって真面目なやつほどハマるって聞くしな。
そんなわけで、俺は定期的にお禿様に頼まれて妹ちゃんにプレゼント持っていってるんだよ。
というわけで帰宅は明日になるからよろしく。あ、ちゃんとゴム持っていかなきゃ。
え? 浮気? なんのことだい、桔梗ちゃん。ちょっと場所が遠いから泊めてもらうだけで他意はないよ。お禿様に似なくてお母さん似で良かったとは思うけど。確かに妹ちゃんは白波大天使チヒロエルに似たショートカットの病弱儚げ系天使可愛い女の子だけど。え、やめて蹴らないで。ついていくってマジ? いや、3Pも確かに…いやだから蹴らないで桔梗ちゃん。行く前に搾り取るって何? 痛いって痛い痛い気持ちい痛い! 蹴りながらズボン脱がさないで、だからそこは出すところであって入れるところではアッーーーーーー!!!!
あ、ちなみにあの通路に付いてはモールのサービスインフォメーションに公衆電話の場所を聞けば教えてくれるよ。サービスインフォメーションなんて使わない若者が多いから盲点だろうね。