後追い星は願う   作:メメント森

7 / 7

 少し遅れてしまったが、何とか投稿できた……!
 相も変わらずの駄文まみれですが、読んでいただけると喜びます。そして案の定、時系列は原作終了後からにございます。
 流れとしては、プロローグ→原作終了後→原作終了後②→原作高校入学付近→映画→原作終了後③→カミキ決着付近→カミキ決着その後→原作終了後④→エピローグの順となっております。
 長い道のりですが、地道に頑張っていきたい所存です。
 誤字脱字があれば、教えてくださると幸いです。


星から零れた雫

 

 

 

 いつからだろうか。

 復讐に捧げたはずのこの人生が、別のものに変わり始めたのは。

 最初は、復讐さえ遂げられればそれで良かった。それこそ、その過程で一つの命が散ろうともそれで良かったのだ。俺は復讐のためであれば、この命すら消費したって構わなかった。

 アイの仇を取る。それこそが俺の生きる意味だった。……そう、だったのだ。

 

 

 多くの時間を共に過ごす内に、あいつの存在は大きくなりつつあった。

 ……大きくなりすぎたのだ。それこそ、復讐の道から逸れてしまっても良いと思えるほどに。

 気が付くころには、家族の敵討ちから家族への恩返しへと俺の生きる理由は変わりつつあった。

 

 

 きっと、絆されてしまったのだろう。

 無論、奴への復讐をやめる気は毛頭なかった。ただ、自らの命を擲ってでも行うべきことではないと気づかされたのだ。

 

 

 でも、あいつは違った。

 復讐のゴールはいつだって変わらなかった。あの男への断罪、その先に行われるのはただの人殺しだ。奴を自らの手でかけるということは、己の人生を犠牲にすると言っても過言ではない。だから俺は、その手段を捨てようとしたのだ。

 けれど、あいつは止まらなかった。奴の命を刈り取る、その断罪に向けてしか進もうとしなかった。

 

 

 「……なんでだろうな」

 

 

 わからない。

 わからないんだ。

 どうすればよかったのか、いまだにわからないんだ。

 

 

 「……別に良かっただろ。もっと平和的な復讐なんていくらでもあったはずだ」

 

 

 自らの命を擲ってまで行うことではない。

 そう教えてくれたのは紛れもない彼だった。

 ……にも関わらず、あいつは自らの命を擲ってでも復讐を遂行しようとした。

 

 

 「……わからないよ」

 

 

 お前がいない日々が過ぎていくのが怖くて仕方がないよ。

 俺はこんなもののために、頑張ってきたわけじゃないんだ。

 別に俺が幸せである必要なんてない。ただ、お前が笑っていればそれで良いんだ。

 だから、頼むよ。

 

 

 「……そろそろ目を覚ましてくれ」

 

 

 ──星は憂う、雫が落ちない明日を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 部屋に差し込む日差しで目が覚めた。

 生きる意味の大半を失った半年前のあの日から、いつも目覚めは酷いものであった。だからこそ、日差しで目が覚めるなんてことはとても珍しいものであった。ましてや、目覚めが良いなんて以ての外。

 けれど、目覚めが良いものであったとしても何かが変わるわけではない。いつも通り、憂鬱な日々が過ぎていくだけである。

 ……そう、思っていた。

 

 

 「おはよ」

 

 

 「……珍しいな、こんな時間から起きているのは」

 

 

 「それを言うならお兄ちゃんもじゃん……」

 

 

 目の前にいる愚妹を呆れた様子でそう返してくる。

 ……正直、億劫な今の気分ではこの調子でやられると少しくるものがあるな。

 

 

 「……妙にテンション高いなお前」

 

 

 「せんせーが低すぎるだけなんじゃないの?」

 

 

 「……はぁ、そうかい」

 

 

 「……まぁ、テンションが高いのは本当のことだけどね」

 

 

 「……?」

 

 

 珍しい。

 いや、珍しいなんてものじゃないはずだ。よくよく考えたら、何かがおかしい。

 こいつが一人で起きていること自体がまず変なのだ。あの日から、ルビーが一人で起きているのを一度たりとも見たことがない。

 ……そうか、それ以前にこのやり取り自体がおかしいのか。だってそうではないか、何気ない日常のやり取りなど、あの日以来一度もないのだから。

 

 

 「せんせ、また難しい顔してるぅ……。どーせ、なんでそんなに元気なんだーって考えてるんでしょ」

 

 

 「……なんのことだ? 何を言っているかわからんな」

 

 

 「えー? なんでごまかそうとするのさw」

 

 

 「……いや、別に」

 

 

 「変なのー。……まぁいいや、教えてあげる」

 

 

 「何を」

 

 

 「いやだから、なんでこんなに元気なのか」

 

 

 「いや別にいいっての……。聞いたところでどうすんだよ」

 

 

 「ふーん? そんなこと言っちゃっていいんだー? 教えてあげないよ?」

 

 

 いちいち癪に触るなこいつ……。

 とは言っても、気になるのも事実だ。正直言って、ルビーの様子は俺が知る人の中でも特に酷かった。そんなこいつが、こんなにまともにコミュニケーションをとろうとしているのには、確かに興味が涌く。

 

 

 「……で、なにがあったんだよ。正直、ここまで期限が良いと流石に気にはなるが──

 

 

 「雫にぃ、起きたよ」

 

 

 ──は?」

 

 

 今なんと言った……?

 あまりの衝撃的な内容のせいか、脳が正常に言葉を受け入れてくれない。

 

 

 「え、あ、っと、……ぇ」

 

 

 「お兄ちゃんがおかしくなっちゃった……」

 

 

 「ぇっと……」

 

 

 「はいはい、一回落ち着こうねー」

 

 

 「……ぁ、ぇ、?」

 

 

 俺がまともな言葉を発することができたのは、それから十数分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 「……それで、落ち着いた?」

 

 

 「……あぁ、多少は」

 

 

 「じゃあ、話の続きをしてもいい?」

 

 

 「……問題ない」

 

 

 「……ん、私もさっき電話で聞いたから詳しいことはまだ聞いてないけど、ミヤコさん曰く昨日の時点で目が覚めてたらしいんだよね」

 

 

 「昨日? 今日じゃなくてか?」

 

 

 「そう、昨日なの」

 

 

 随分とおかしな話である。

 昨日の時点で目が覚めていたのであれば、昨日のうちに報告を受けたって変ではない。

 にも関わらず、わざわざ今日に報告してきた理由がわからない。

 というか、何故報告しなかったんだ。俺もルビーも雫が起きるのずっと心待ちにしていた。それこそ、痛すぎるほどに。一体、何故?

 

 

 「お兄ちゃんってさ、雫にぃに対して少し重いよね……」

 

 

 「……急に何を言い出すんだこの愚妹は」

 

 

 「いや愚妹って……。いやまぁ、今の表情見てて思ったけどさ? お兄ちゃんって少し……っていうか結構重たいよね」

 

 

 「今のは別に別のことで少し気になったことがあっただけで……」

 

 

 「ふうん? ……別に今のことに限らずだけどね。私も人のこと言えないけどさ、お兄ちゃんは特に重い気がするんだよねぇ……。それこそ、あかねちゃんとかよりも」

 

 

 「……あいつと一緒にするな。あれは最早ストーカーの域じゃねえか」

 

 

 あいつと一緒にされるのは心外である。

 ビジネスパートナー相手にあそこまで執着してストーカー紛いの行いばかりの彼女と、大切な家族を想う俺では天と地ほど差があるだろ。

 

 

 「……そんなあかねちゃんと協力して色々やってたのはどこの誰ですかね」

 

 

 「……知らない……よ?」

 

 

 「てか、人のことストーカーとか言うくせして自分だって似たようなことしてたじゃん!」

 

 

 「いやあれは、家族として心配してだな……」

 

 

 「だからってGPSはないよ流石に……」

 

 

 仕方がないだろう。

 あいつは気が付くとすぐ危ない目に合う。それに、少しでもあいつの行いを止めるためには必要不可欠なことなのだ。

 私利私欲のためにそのような行いをしていた彼女と違い、俺の行いは正当なものである。家族として、心配なだけなんだ。

 

 

 「……なーんか、お兄ちゃんってさ」

 

 

 「ん?」

 

 

 「雫にぃに彼女とかできたら口煩い姑みたいになりそうだよね」

 

 

 「……何を失礼な。俺はあいつが幸せになれるために不安な要素は取り除くだけであって」

 

 

 「……いや、否定はしないんかい!」

 

 

 「うるせーよ」

 

 

 「なんで私が変みたいに言われないといけないわけ!?」

 

 

 「いやどーせ、お前だって同じことするだろ」

 

 

 「当たり前ですけど何か?」

 

 

 「うっわ、開き直りやがったこいつ……」

 

 

 そんな堂々と開き直ることがあるか普通。

 しかも、妙に自慢げにこっちを見てくるし……。

 馬鹿なのか? お兄ちゃん、妹の将来が心配でならないんですがそれは。

 

 

 「……妙に哀れんだ瞳で私を見るなー!」

 

 

 「悪かったって」

 

 

 「……もうっ!せんせのシスコン魔人!ブラコンお化け!女たらし!」

 

 

 「最後のは違うし関係ないだろ……」

 

 

 酷い言われようである。

 別に女をたらしこんだ覚えはない。……少なくとも今世では。

 

 

 「……というか、自分が重いことは自覚してるんだな」

 

 

 「当たり前じゃん。大事な大事な雫にぃ相手に重くないほうがあり得ないってのー」

 

 

 「……さいですか」

 

 

 「……別に、重いのは雫にぃに対してだけじゃないけどねっ」

 

 

 「……あっそ」

 

 

 「あー!せんせっ、照れてるじゃんん!かわうぃぃぃ!」

 

 

 「ええい!うるさい!」

 

 

 この愚妹、後でどうしてくれたものか。

 ……しかしまぁ、なんとも不思議なものである。こんなに他愛もない会話をしたのはいつぶりだろうか。少なくとも、ここ半年はしていなかった気がする。そのせいか、心なしか少し心持ちが軽い気がする。

 

 

 「……お兄ちゃんが今思っていること当てよっか?」

 

 

 「……別にいい。分かりきったことだろ」

 

 

 「……そっかぁ」

 

 

 静寂がこの場を支配する。

 けれど、この静けさが心地よく感じる。それはきっと、いまはこの場にいないもう一人の大切な兄妹のおかげだろう。

 ……帰ってきたら、どうしてやろうかな。

 

 

 「あのね、お兄ちゃん」

 

 

 「……ん、なんだ」

 

 

 「雫にぃが帰ってきたらさ、今度こそ三人で一緒に寝よーね」

 

 

 「……あぁ、そう言えばそんな約束してたな」

 

 

 「……へへ、今度こそ三人で寝るんだ。それで今度こそもう二度と……」

 

 

 「二度と?」

 

 

 「……雫にぃを離さない」

 

 

 いや、重い。重すぎるだろ。

 これが兄に向けた台詞だとは到底考えられない。……俺の勘違いでなければ、心なしか瞳が光を映していないような気がするんだが。

 ……けどまぁ、こればっかりは俺も同じ意見を唱えざるを得ない。

 

 

 「……そうだな、俺らであいつがどっかに消えてしまわないようにしないとな」

 

 

 「……うん」

 

 

 可愛い妹の言う通り、俺は少し兄妹愛が強いらしい。

 それこそ、ちょっとばかり重いぐらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 「ここに来るのも、あの日以来かぁ……」

 

 

 「……まぁ、そればっかりは仕方がない」

 

 

 「……どうしても眠る雫にぃを見るとさ、変な想像が脳裏によぎって怖くて怖くて仕方がないんだよね」

 

 

 「みんな同じことを思ってるよ。だから、あの日以来ここには殆どの人間が来ていない」

 

 

 そう、殆どの人間がここに来ていない。

 皆が、軽度のトラウマを植え付けられた。大事なものが死の瀬戸際に立たされていると知って、みんな酷く心を病んでしまった。

 ましてや、一度家族を失っている俺たち兄妹からすれば、それがどれほどのことかなんて語るまでもないだろう。

 

 

 「……着いちゃったね」

 

 

 「……どんな顔をして入ればいいのわからないな」

 

 

 気が付けば、俺たちは雫の病室の前まで来ていた。

 扉を前にすると、彼が目を覚ましたと知った今でも足が竦んでしまいそうになる。

 またあの時のように、死んだように眠るあいつが今もいるのではないかと想像してしまい、変な悪寒が止まらない。

 

 

 「……開けるよ?」

 

 

 「……あぁ、頼む」

 

 

 扉を開けた先には彼がいる。

 そう、少し前まで目を覚まさなかった彼が。

 

 

 「……ぁ、ぁぁ」

 

 

 「……っ」

 

 

 そこには、確かに存在している。

 翡翠色の瞳をした彼が。

 

 

 「……ん、二人とも来たんだ」

 

 

 「……っ!」

 

 

 「うっ……急に抱き着くじゃん」

 

 

 「……」

 

 

 「アクア? え、無言で近づくじゃん……」

 

 

 ったくこの馬鹿は……。

 どうやら、少しばかりわからせないとダメみたいだ。

 自分の行いを罪深さを未だに分かっていないらしい。

 

 

 「えぇ……、アクアまで抱き着く? 二人とも甘えん坊さんなの……?」

 

 

 「……雫にぃが悪いんだよ」

 

 

 「あー……、それもそうかぁ……」

 

 

 「……それもそうかじゃねえよ馬鹿」

 

 

 「な、なんか怒ってる?」

 

 

 「……当たり前じゃん、あんなことしてさぁ」

 

 

 「……そんなつもりはなかったんだよ」

 

 

 「……どうだか」

 

 

 「家族からの信頼がないんですがそれは……」

 

 

 まるで反省が見えない。

 もうこいつ、一生家に閉じ込めた方がいいのでは?

 そうすればもう二度とあんな目には合わないはずだろう。

 

 

 「雫くんっ!!!」バンッ!

 

 

 「……うわっ」

 

 

 「ちょっと!? うわって何かなアクア君!?」

 

 

 「……いや別に何でもねーよ?」

 

 

 ストーカーが来やがった。

 せっかく、家族の感動の再会の瞬間とかいう最高に美しい場面のはずなのに、よりにもよってこのストーカーに邪魔されるとは……。

 

 

 「……あかねちゃんかぁ」

 

 

 「ちょ、ちょっとルビーちゃんまで酷くない!?」

 

 

 「まぁまぁ、一回落ち着こうよあかね」

 

 

 「……ぇぁ? ぁ、ぁぁぅ」

 

 

 「……あ、あかね?」

 

 

 「……し、しぅくん……だ……うそじゃっ……ぃ」

 

 

 「え、えーと?あかねさん?」

 

 

 相も変わらず、こいつは馬鹿らしい。

 あかねの気も知らないまま、雫は困惑した様子であかねの名前を呼んでいる。

 本物の雫を前に感極まってしまったあかねとその様子に困惑している雫、はっきり言って半年ぶりの再会の絵面じゃなさすぎる。

 

 

 「……こいつには自覚させるまでわからせるべきか?」

 

 

 「……私もそう思うよお兄ちゃん」

 

 

 「なんか、不穏な言葉が聞こえたんだけど……?」

 

 

  

 半年間も待ち続けた再会の瞬間は思っていたものとは違っていた。

 ……それでも、笑顔と何故か困惑した顔が溢れる穏やかなものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 「……あーあ、あかねちゃんのせいで怒られちゃったじゃん」

 

 

 「私だけのせいじゃないと思うんだけどな」プクー

 

 

 「いやどう考えてもお前のせいだろ」

 

 

 「アクア君まで酷くない? というか、二人とも私へのあたり強くないかな?」

 

 

 「……ストーカーが家族を狙っていたらそうにもなるだろ」

 

 

 「……私たちから雫にぃを奪う略奪者」

 

 

 「二人とも愛が重すぎるよ!!」

 

 

 「「お前にだけは言われたくない/あかねちゃんにだけは言われたくない」」

 

 

 「二人の当たりが強いよぉ……」

 

 

 「日頃の行いだね」

 

 

 「同感」

 

 

 「酷いよっ!」

 

 

 酷いもあるか。

 この女、雫を共に救おうなどと協力の手を求めてきたときは良かった。

 けど、いざ蓋を開いたらストーカー行為のオンパレードである。はっきり言って、大事な兄妹がストーカーされていると知って良い気分ではない。

 それを棚に上げて人に重いなどと、よく言えるものである。

 

 

 「……はぁ、雫くんも一緒に帰れれば良かったのになぁ」

 

 

 「……いや、ストーカーと一緒に帰らせるわけないよ?」

 

 

 「交番はあっちだぞ」

 

 

 「君たちだって人のこと言えないですぅ!というか、兄妹である君たちの方が変だよ!」

 

 

 「俺たちは兄妹だから良いんだよ」

 

 

 「兄妹って一番強い繋がりが強い関係性なんだよ?」

 

 

 「ブラコンすぎるよぉ……」

 

 

 ブラコンで何が悪い。

 家族を強く想うことの何が悪いのだ。

 

 

 「……将来的には義姉になるんだしさ。私にはもう少し優しくしてくれたっていいんじゃないかな?」

 

 

 「元彼女(笑)がなんか言ってるよお兄ちゃん」

 

 

 「元ビジネスパートナーな。間違えてやんなよ、可哀そうだろ」

 

 

 「あ、そう? そういうこと言っちゃうんだ? ふうん、そっかぁ……」

 

 

 「……ストーカーさんが何か変な笑い方してるよお兄ちゃん?」

 

 

 「……見るなルビー。あれは俺らには救えぬものだ」

 

 

 「もういいもんねっ!絶対に雫くんは私が貰うし、二人には分けてあげないもんねーだ!」

 

 

 「雫にぃをあげるとでも? 私とお兄ちゃんで雫にぃを幸せにするんで他の人は間に合ってます」

 

 

 「ストーカーにやるもんはない」

 

 

 「……二人ともぉ!」

 

 

 こんなにも人と話すのは久々な気がする。

 きっと、二人もそうだろう。これもきっと、雫がいるからなのだろか。

 あいつがいて、こんな他愛もない日々が過ぎていく。

 ……それがどれだけ幸せなことか、今になって知れた気がするな。

 

 

 これからはこんな日々がずっと続いていけばいいのに。

 そんなことを、俺は生まれて初めて願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 「一度壊れた平和な日々はそう簡単には戻らない」

 

 

 「そうだろう?」

 

 

 「……なんのことだか」

 

 

 「ふうん、誤魔化すんだ?」

 

 

 「……誤魔化してなんかないだろ別に」

 

 

 「()()()()()()()はずの君がどうして?」

 

 

 「……」

 

 

 「……何をする気なのかな」

 

 

 「さあ?」

 

 

 「……答えなよ。私は君が誤魔化すのをすんなり受け入れるほど優しくないよ」

 

 

 「……ガキのくせに随分と怖い眼をしやがる」

 

 

 「茶化すなよ」

 

 

 「そんな怒んなって。……もう、別に何にもしねーよ」

 

 

 「信用ならないね。君はそう言って消えようとしたじゃないか」

 

 

 「……本当だっての。今更、やることなんてねえっての」

 

 

 「……もう、なんもする気はないよ」

 

 

 「……どうだかっ」

 

 

 そうだ、もう何もする気はない。

 する気力すらもうない。

 ……あーあ、考えるだけで胃の中のものが出てきそうになる。気持ち悪くて仕方がない。背中に重くのしかかる過去と想いが、いつか俺を潰してしまいそうだ。考えれば考えるだけ苦しくなってくる。これが罪の重さなのだろうか。とてもじゃないが、俺には耐えれそうにもない。ただでさえ、あの日の光景が未だに脳裏にこびり付いて離れないというのに、加えてこれとか酷いものである。

 いつからだろうか、俺の中で境界線が曖昧になったのは。思い出すことはできないが、きっとその日からなのだろう。道を引き返すことができなくなったのは。嘆いても仕方がない、遅かれいつかはこうなっていたはずだ。奴を地に墜とすのであれば、自らの境界線を捨て去ることはその過程で必要不可欠。勝手に消えてくれるのであれば好都合だ。

 だから……、

 

 

 「……あれ」

 

 

 境界線ってなんだっけ。

 ……やばいな、もう何のことかすら覚えてないなぁ。ただ、それがあるとアクアたちに迷惑がかかるってことは覚えてるだよなぁ。まぁ、それなら無くなったって構わわないか。二人をハッピーエンドに連れていく、その過程において要らないものはすべて捨てるべきだ。今更、捨ててしまったものことなんか考えても仕方がない。

 

 

 「……どうかした?」

 

 

 「……いや、なんでもないよ」

 

 

 そういや、なんで僕は二人をハッピーエンドに連れていこうとしていたんだっけ。

 ……僕のせいで二人が酷い目に合ったんだっけか。そんな感じの出来事があった気がする。なら、僕が償わないとだもんね。二人を幸せにするためなら何だってやらないとだ。

 

 

 「……雫?」

 

 

 でも、今の僕が二人のためにできることなんてあるのかな。

 変に干渉したって、却って良くない方に進むんじゃ……。でも、僕は償わないと。それだけのことをしたはずなんだから。

 

 

 「……雫っ!」

 

 

 ……あぁ、あるじゃないか。

 今の僕にできることが一つだけ。こんな価値のない俺にだって、あいつらのためにできることがまだ一つだけ残っていた。そうだよ、これこそが僕がやり残した最後の償いじゃないか。何で忘れてたんだろう。俺にはまだできることが、否、しなければいけないことが残っている。

 

 

 「雫っってば!!!!」

 

 「……ぁ、ぉう?」

 

 

 「気づくのが遅いよ……」

 

 

 「あー、悪い。考えごとしててさ……」

 

 

 「もうっ……、君はいっつも人の話を無視してさっ!」

 

 

 「悪かったって……」

 

 

 「……ふんっ」

 

 

 「……僕が悪かったよ、ごめんね」

 

 

 「……まぁ、いいよ。許してあげよ……ぉ……ぅ?」

 

 

 「ん? どした?」

 

 

 「……ぁ、ぁぁ」

 

 

 「どうしたのさ、そんな悲しそうな顔してさ」

 

 

 「なんか嫌なことでも思い出した?」

 

 

 「……っ、ぅぅん。何でもないさ」

 

 

 「……? 変なの」

 

 

 魅入られた者たちは気付かない。

 ハッピーエンドの代償が何かを。

 雫が落ちるその瞬間を。

 

 

 




 
 分かりづらいと思いますが、プロローグ3話と4話冒頭の独白は厳密には時系列が異なっております。基本的に各話の前の独白や回想は時系列がズレているので、それぞれで指している内容が厳密には異なる場合があります。今までの話も含めて、これからはそう言ったところにも着目していただけると少しは楽しくなったりしなかったりするのかなぁと思います。
 次の投稿は今度こそは、一週間以内にできるように頑張りです……。
 
 ソロソロクモラセタイ
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