鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。   作:菊池 快晴

11 / 27
第11話 世界は英雄を求め、師匠たちは英雄を守る

「――それで、【魔人】を倒した人物、あるいはパーティーは何者かもわからぬということか?」

 

 豪華絢爛の応接間で白髪の老人が静かに声を上げた。

 ラグーニ国の国王、ゲルマンである。世界で最も軍事力が高いとされる七つの大国の一つでもあった。

 

 呼び出されたのは、冒険者ギルドの総ギルド長、ラグーニ騎士団長、至高神殿(セフィリア)の大聖女、宮廷魔法使いの筆頭魔導師などである。

 

「さようでございます。こちらが詳細な報告書となります。皆様、すでにお目通しいただいているかと思いますが、改めて要点をまとめました」

 

【重要案件調査報告書】

古代遺跡神殿における高濃度魔力痕および【魔人】の死骸発見について。

報告者: A級冒険者パーティ『銀の天秤』リーダー。

再調査担当: 宮廷魔法団、聖女教会、王立騎士団合同捜索隊。

 

1 発見の経緯

冒険者ギルドからの依頼(遺物捜索)遂行中、古代遺跡神殿内部にて異常な魔力痕および魔素の残留を検知。

当初はダンジョンボスまたは上位個体の存在が疑われたため、リーダーの判断により任務外の追跡調査を実施。

 

2 現場状況

神殿最奥部にて、原形を留めない散乱した血肉を発見。

現場の魔素濃度は通常の測定限界を超過しており、残留した眼球組織の鑑定結果から、当該遺骸が【魔人】であると推定された。

なお、発見時点で対象は既に死亡しており、戦闘終了から一定時間が経過していたと見られる。

 

3 事後検証結果

本報告を受け、大聖女・宮廷魔法使い・騎士団長による現場検証を実施。

特殊魔導捜索隊の解析により、【何者かによる魔人の討伐】が確定的となった。

 

4 結論

正体不明の討伐者(または勢力)が存在する可能性が高い。継続して情報収集を行う。

 

 ゲルマンは報告書を見ながら、眉を顰める。

 そして、静かに声を上げた。

 

「……凄くね? マジ? そんな人がこの世に存在してたの?」

 

 もの凄く、ラフな感じで。

 

「はい。マジです。私もびっくり仰天です。冒険者ギルドは、この話題でいっぱいですよ」

「俺もです。長い間、騎士団長をしていますが、団員が興奮して甲冑をガンガン鳴らしてます」

「聖女内部も大騒ぎです。女神様が神の天罰を下したのだと、今やお祭り騒ぎですわ」

「宮廷魔法使いの連中も喜んでいます。空に向かって魔力弾を打ちまくってますよ」

 

 総ギルド長も、騎士団長も、大聖女も、宮廷魔法使いも、みんなみんな、興奮していた。

 それもそのはず、【魔人】は世界共通の敵である。

 出現するだけで国を破壊する災害魔物。誰もが恐れ、誰もが討伐してほしいと願っていた。

 もしラグーニ国の誰かが倒したとなれば、世界でも軍事力のトップに躍り出る。

 それだけでなく、ただたんにみんな、強者が好きという根源的な気持ちもあった。

 

「ふうむ、しかしなぜ名乗り出ないのだ。相打ちした、ということか? しかし、死体は残っておらんかったか」

「ゲルマン国王、発言よろしいでしょうか」

「良い」

「おそらくですが、冒険者ギルドのS級パーティーだと思われます。報告をしなかったのは、非常にダメージを受けたと推測されます。冒険者は誇り高い生き物です。傷を癒したあとに、颯爽と現れると思います」

「なるほど、一理ある」

「発言、よろしいでしょうか」

「良い」

「おそらくですが、騎士団の部隊だと思われます。報告をしなかったのは、作戦外での単独行動だったため、自責の念に駆られているのでしょう。なので、『絶対怒らないから出ておいで』という噂を流しております。いずれ連絡が来るかと」

「なるほど、一理ある」

「発言――しますわ。私たち聖女の誰かでございます。報告をしなかったのは、悪を倒すことが当たり前すぎるからですわ。栄光なんて必要がない。それが、聖女の務めですから」

「なるほど、一理ある」

「宮廷魔法使いですが発言――」

「しつこい!」

 

 最後に眼鏡をクイっとした魔法使いが肩を落とす。

 ゲルマンは、ふたたび渋いを顔をする。

 

「魔人の死亡推定日を魔力の残骸から算出し、A級以上の強さを持つ人物の行動を洗い出せ。ある程度絞ったら王城へ連れてきて尋問しても構わん。 ――良いか、【魔人】の討伐は英雄行為だ。しかし同時に、【魔人】を殺すことのできる力を持った、危険人物たちということでもある。国外に出ようとしている連中は真っ先に確認しろ。なぜ手柄を報告しないのか、その謎を解明するまでは身内も疑え。ひいひいひい、おばあちゃんもだ。――行け!」

「「「「ハッ!」」」」

 

全員が外へ一斉に飛び出す。

一人残ったゲルマンは、報告書を読みながらズズズとお茶をすする。

 

「うーん、改めて読んでも凄いのう。できれば、右腕になってくれんかのぅ」

 

 ――――――――――

 

「右腕がいてえ! でも、だいぶ、感覚を取り戻してきたな」

 

 痛みはあるものの、ようやく腕立て伏せができるようになった。

 身体がなまって仕方ない。なんせ、目覚めてからずっとこの屋敷にいる。

 幽閉されているわけではないが、レズリィたちが治癒術者を探してくれている以上、わがままで外に出るのも違うもんな。

 

 右腕の紫の模様は、日を追うごとに肩の付け根に向かって伸びている。

 これは、俺の命のカウントダウンみたいなものだ。

 ふたたび【魔人化】する。

 

 その前に何とかしたいとは思う。

 

 せっかく頑張って倒したのに、俺が化け物になってちゃ世話ねーぜ。

 

 あー、どうするか。

 

 ――一人で、無人島へ行くか?

 

 ……ありだな。

 

 俺の頭の中には、この世界のマップがめちゃくちゃ入っている。

 どこの国にも属さない、それでいて誰も訪れない島も。

 三人には悪いが……それが一番安全だよな。

 

 なぜなら俺の頭に最悪なシナリオが浮かんでいる。

 

 ――これは、ゲームの修正力なんじゃないかと。

 

 レズリィ、ソフィア、エレノアは【魔人化】する運命だった。

 それは、避けられないシナリオだった。

 

 だから倒した。でも、俺が【魔人化】してしまったら?

 

 ――本筋とまったく同じことになるんじゃないか?

 

 考えれば考えるほど、この認識が合っている気がしてきた。

 そもそも、俺が生き延びているのがおかしいんだ。

 三人がめちゃくちゃなぜか曇ってるというか、自分のせいだと思っているのも全部【DWS】のせいだしな。ちきしょー。

 

 荷物をまとめて、すぐにこの部屋から――。

 

 ギィ。

 

「レイ」

 

 あら、レズリィ。本日も見目麗しい。

 

「レイくん」

 

 エレノアではないですか。相変わらず良い笑顔ですね

 

「レイ君」

 

 ソフィア、本当に回復してくれてありがとうね。色々考え事は増えていますが、感謝していますよ。

 

「「「一人で、無人島なんて行こうと考え――」」」

 

「るな」 「ちゃだめよ」 「てはいけませんからね」

 

 言葉の語尾だけが綺麗に重なる。

 さすが師匠たちだ。一度出し抜けたのが奇跡だと思うくらい、察しがいい。

 

 うーん、どうやら無人島大作戦は今のところ遂行できそうにはないかも。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。