鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。 作:菊池 快晴
「――それで、【魔人】を倒した人物、あるいはパーティーは何者かもわからぬということか?」
豪華絢爛の応接間で白髪の老人が静かに声を上げた。
ラグーニ国の国王、ゲルマンである。世界で最も軍事力が高いとされる七つの大国の一つでもあった。
呼び出されたのは、冒険者ギルドの総ギルド長、ラグーニ騎士団長、
「さようでございます。こちらが詳細な報告書となります。皆様、すでにお目通しいただいているかと思いますが、改めて要点をまとめました」
【重要案件調査報告書】
古代遺跡神殿における高濃度魔力痕および【魔人】の死骸発見について。
報告者: A級冒険者パーティ『銀の天秤』リーダー。
再調査担当: 宮廷魔法団、聖女教会、王立騎士団合同捜索隊。
1 発見の経緯
冒険者ギルドからの依頼(遺物捜索)遂行中、古代遺跡神殿内部にて異常な魔力痕および魔素の残留を検知。
当初はダンジョンボスまたは上位個体の存在が疑われたため、リーダーの判断により任務外の追跡調査を実施。
2 現場状況
神殿最奥部にて、原形を留めない散乱した血肉を発見。
現場の魔素濃度は通常の測定限界を超過しており、残留した眼球組織の鑑定結果から、当該遺骸が【魔人】であると推定された。
なお、発見時点で対象は既に死亡しており、戦闘終了から一定時間が経過していたと見られる。
3 事後検証結果
本報告を受け、大聖女・宮廷魔法使い・騎士団長による現場検証を実施。
特殊魔導捜索隊の解析により、【何者かによる魔人の討伐】が確定的となった。
4 結論
正体不明の討伐者(または勢力)が存在する可能性が高い。継続して情報収集を行う。
ゲルマンは報告書を見ながら、眉を顰める。
そして、静かに声を上げた。
「……凄くね? マジ? そんな人がこの世に存在してたの?」
もの凄く、ラフな感じで。
「はい。マジです。私もびっくり仰天です。冒険者ギルドは、この話題でいっぱいですよ」
「俺もです。長い間、騎士団長をしていますが、団員が興奮して甲冑をガンガン鳴らしてます」
「聖女内部も大騒ぎです。女神様が神の天罰を下したのだと、今やお祭り騒ぎですわ」
「宮廷魔法使いの連中も喜んでいます。空に向かって魔力弾を打ちまくってますよ」
総ギルド長も、騎士団長も、大聖女も、宮廷魔法使いも、みんなみんな、興奮していた。
それもそのはず、【魔人】は世界共通の敵である。
出現するだけで国を破壊する災害魔物。誰もが恐れ、誰もが討伐してほしいと願っていた。
もしラグーニ国の誰かが倒したとなれば、世界でも軍事力のトップに躍り出る。
それだけでなく、ただたんにみんな、強者が好きという根源的な気持ちもあった。
「ふうむ、しかしなぜ名乗り出ないのだ。相打ちした、ということか? しかし、死体は残っておらんかったか」
「ゲルマン国王、発言よろしいでしょうか」
「良い」
「おそらくですが、冒険者ギルドのS級パーティーだと思われます。報告をしなかったのは、非常にダメージを受けたと推測されます。冒険者は誇り高い生き物です。傷を癒したあとに、颯爽と現れると思います」
「なるほど、一理ある」
「発言、よろしいでしょうか」
「良い」
「おそらくですが、騎士団の部隊だと思われます。報告をしなかったのは、作戦外での単独行動だったため、自責の念に駆られているのでしょう。なので、『絶対怒らないから出ておいで』という噂を流しております。いずれ連絡が来るかと」
「なるほど、一理ある」
「発言――しますわ。私たち聖女の誰かでございます。報告をしなかったのは、悪を倒すことが当たり前すぎるからですわ。栄光なんて必要がない。それが、聖女の務めですから」
「なるほど、一理ある」
「宮廷魔法使いですが発言――」
「しつこい!」
最後に眼鏡をクイっとした魔法使いが肩を落とす。
ゲルマンは、ふたたび渋いを顔をする。
「魔人の死亡推定日を魔力の残骸から算出し、A級以上の強さを持つ人物の行動を洗い出せ。ある程度絞ったら王城へ連れてきて尋問しても構わん。 ――良いか、【魔人】の討伐は英雄行為だ。しかし同時に、【魔人】を殺すことのできる力を持った、危険人物たちということでもある。国外に出ようとしている連中は真っ先に確認しろ。なぜ手柄を報告しないのか、その謎を解明するまでは身内も疑え。ひいひいひい、おばあちゃんもだ。――行け!」
「「「「ハッ!」」」」
全員が外へ一斉に飛び出す。
一人残ったゲルマンは、報告書を読みながらズズズとお茶をすする。
「うーん、改めて読んでも凄いのう。できれば、右腕になってくれんかのぅ」
――――――――――
「右腕がいてえ! でも、だいぶ、感覚を取り戻してきたな」
痛みはあるものの、ようやく腕立て伏せができるようになった。
身体がなまって仕方ない。なんせ、目覚めてからずっとこの屋敷にいる。
幽閉されているわけではないが、レズリィたちが治癒術者を探してくれている以上、わがままで外に出るのも違うもんな。
右腕の紫の模様は、日を追うごとに肩の付け根に向かって伸びている。
これは、俺の命のカウントダウンみたいなものだ。
ふたたび【魔人化】する。
その前に何とかしたいとは思う。
せっかく頑張って倒したのに、俺が化け物になってちゃ世話ねーぜ。
あー、どうするか。
――一人で、無人島へ行くか?
……ありだな。
俺の頭の中には、この世界のマップがめちゃくちゃ入っている。
どこの国にも属さない、それでいて誰も訪れない島も。
三人には悪いが……それが一番安全だよな。
なぜなら俺の頭に最悪なシナリオが浮かんでいる。
――これは、ゲームの修正力なんじゃないかと。
レズリィ、ソフィア、エレノアは【魔人化】する運命だった。
それは、避けられないシナリオだった。
だから倒した。でも、俺が【魔人化】してしまったら?
――本筋とまったく同じことになるんじゃないか?
考えれば考えるほど、この認識が合っている気がしてきた。
そもそも、俺が生き延びているのがおかしいんだ。
三人がめちゃくちゃなぜか曇ってるというか、自分のせいだと思っているのも全部【DWS】のせいだしな。ちきしょー。
荷物をまとめて、すぐにこの部屋から――。
ギィ。
「レイ」
あら、レズリィ。本日も見目麗しい。
「レイくん」
エレノアではないですか。相変わらず良い笑顔ですね
「レイ君」
ソフィア、本当に回復してくれてありがとうね。色々考え事は増えていますが、感謝していますよ。
「「「一人で、無人島なんて行こうと考え――」」」
「るな」 「ちゃだめよ」 「てはいけませんからね」
言葉の語尾だけが綺麗に重なる。
さすが師匠たちだ。一度出し抜けたのが奇跡だと思うくらい、察しがいい。
うーん、どうやら無人島大作戦は今のところ遂行できそうにはないかも。