鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。   作:菊池 快晴

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第12話 世界は敵か、味方か

「レイ、まだ眠っていたらいいじゃないか。なぜ、そう急ぐんだ」

「レズリィさんの言う通りだわ。ゆっくりして。あなたのおかげで、もう脅威はないんだから」

「私が眠気を誘う魔法を掛けますよ。だから、まだもう少し寝ていたらどうですか?」

 

 外に出ようとすると、三人があたふたしながら俺をベッドに寝かせようとする。

 身体はまだ痛いが、ついこないだまで毎日のように剣術の鍛錬や魔法の瞑想を日課としてきた。

 動かさないとむずむずして歯がゆい。

 なので、ずっと寝てばかりじゃむしろストレスだ。

 

「この部屋だと走ることもできないんで、ちょっとだけ汗を流したいんです。無人島に行ったり、気づいたらいなくなってた、みたいなことはしないので」

「……本当か?」

「はい、レズリィ師匠」

 

 こんなに過保護だったか? と思うほど俺を心配している。

 剣術の訓練のときは、骨を砕くくらいの一撃を容赦なく放ってきていた鬼教官だったのに。

 今は手がちょんと触れるだけでアタフタする。本当に同一人物ですよね?

 

「少し待て。会議する。――第五十五回、レイを安全に導くためにどうするか」

 

 レズリィが謎のタイトルを読み上げると、二人がさっと輪になって集まる。

 初めての出来事で困惑しながらも、もう五十四回もしてたのかという驚き。

 というか、師匠、そんなコミカルっぽい面もあったんスね。

 

「レイはああいっているが、私はまだダメだと思う。エレノアはどう思う」

「同意見だわ。大怪我を受けたときは、第三者の目線で判断すべきね。ソフィアさんの治癒術者としての意見も気になるわ」

「もちろんダメですよ。レイ君の体は、私たちと一心同体ですから」

 

 うんうんと頷き、代表者のレズリィが俺に顔を向ける。

 

「ということで、会議の結果だが――」

「いや出来レースじゃないですか! そんなん認められませんよ!」

 

 あまりにも公平じゃなさすぎる会議に精いっぱい拒否をする。

 しかし、そんなもので納得してくれる人たちではない。

 なので、伝え方を変えてみる。

 

「右腕の呪印ですが、俺の免疫が下がれば下がるほど進むのが早くなると思います。なので、動ける状態になった今、運動したほうが進行が遅くなります」

 

 俺の論理的な言葉に、レズリィが咄嗟に否定しようとした。

 だが直前で口ごもり、エレノアとともにソフィアに顔を向ける。

 回復術者である彼女が一番理解しているであろう、ということだ。

 

 うちの師匠たちはお互いを信頼している。

 それは今までの旅でわかっていることだ。お互いの専門分野を尊敬(リスペクト)している。

 

 そして俺も、ソフィアのことを誰よりも理解しているつもりだ。

 感情論を抜きにした正論には、しっかりと答えてくれるはず。

 

 

「……レイ君の言っていることは医学的には間違いないでしょう。魔素は、魔力の弱い人間、つまりは抵抗力がなければ侵食が早くなります。アンデッド化と同じ症状だと考えると、その可能性は非常に高いです。――ですが」

 

 ソフィアが、俺に歩み寄る。

 

「私たちは心配なのです。レイ君がまた、私たちを置いて一人で決断してしまいそうな、そんな恐怖を感じています。私たちの気持ちを……少しだけでも、理解していただきたいです」

 

 今は痛いほど理解している。

 もし逆だったらと考えると、どれだけ苦しくて悲しくて辛いことか。

 信頼していた仲間が、たった一人で命を投げうってしまった。

 それが、自分のせいだと感じているなら尚更だ。

 

 そうだな。俺がすべきことは一つ。

 

「すいませんでした。自分勝手な行動をしてしまって、申し訳ないです」

 

 俺は、深々と頭を下げた。

 なんでこの考えが初めに浮かばなかったんだろうか。

 自分勝手な行動だとはわかっていた。

 でも、だからといってみんなが苦しんでいるのを放置していいわけがない。

 ちゃんと、一言いうべきだったんだ。

 

 レズリィが、俺の頭をあげる。 その瞳は、少し潤んでいるように見えた。

 

「不甲斐ないのは私たちのほうだ。お前は誇るべきであり、謝るべきではない。……生きていてくれて、ありがとう、レイ」

「その通りね。私たちこそ、もっと伝えるべきだったわ。――ありがとうレイくん」 「レイ君、ありがとうございます。みんなの言う通りです。現状のことばかり悲観的になってしまって、ごめんなさい」

「いえこちらこそ」

 

 あーほんと、改めて最高の師匠たちだ。

 【DWS】のシナリオはクソだが、キャラクターは最高なんだよな。

 今は現実だが、やっぱり素晴らしい人だちだなと心から思える。

 それだけにみんな過去が悲しいのは考えると辛いが。

 

 そして、それはそうとして。

 

「では、外で運動してきます」

 

 俺は、ハキハキと声を張る。

 実は歩くだけでも全身は痛いのだが、あまりそういったことを表に出したくはない。

 後ろから阿鼻叫喚が聞こえてくるものの、聞こえないフリをして屋敷の外に出る。

 しかし、そこで固まってしまった。

 

「……は?」

 

 俺が驚いたのは、広すぎる庭園が視界に飛び込んできたからだ。

 貴族屋敷といえども、男爵家が住んでいたのか、侯爵家が住んでいたのかでグレードに差がある。

 ボロアパートと高級タワーマンションがまったく違うように。

 

 この庭園は、明らかに広すぎた。

 門までは遥か遠く。手入れは随分されていなかったようだが、色とりどりの花が自由に咲き誇っている。

 後ろを振り返ると、五階建ての大豪邸だった。

 

「……そういえばめちゃくちゃ頭がボーッとしてたときに聞いた記憶あるんですけど、この屋敷って買い取ったんですよね?」

 

 後ろから追いかけてきた師匠たちが、当然のような顔をしている。

 

「そうだ。宿に泊まるわけにもいかんからな」

「いくら……したんですか?」

 

 パーティーといえども、金銭面はお互いに把握していない。

 みんな預け屋と呼ばれる異世界の銀行のようなところに金を置いている。

 人によっては金塊や魔石にして身に着けていたり。

 

「そう高くはない。大金貨10枚くらいだ。気にするな」

 

 大金貨は一枚100万円くらいだ。つまり、1000万。

 ちなみにこれは異世界計算なので、日本円でいくと大体五倍なので5000万くらいの価値がある。

 三人で出し合ったらしいが、俺が過ごすためだけにここを即金で買い取るなんて……。ありがたいが、申し訳ない。

 

「レイくんと一生(・・)ここで住むのもいいかもね」

「お花は好きなので、庭園の手入れは任せてください」

 

 なんか新たな監禁ルートのフラグ立ってないか?

 というか、無人島行こうねってこの家を簡単に捨てるつもりだったのが恐ろしい。

 俺>>>>>超えられない壁>>>>金 すぎるでしょう!

 

 しかし、おかげで裏手に大きな庭があるようだった。

 いきなり剣を振るつもりはないが、走って汗を流したい。

 

 できることなら、俺だって死にたくはない。

 まだ時間はあるだろうし、もう少し粘ってみるか。

 

「――下がれ。レイ」

 

 しかしそのとき、レズリィの声色が鋭く変わった。

 同時にエレノアとソフィアが俺を隠すように前に出る。

 ピリリと、肌を刺すような殺気が満ちたのがわかった。

 

 三人は門に顔を向けている。

 俺も気になって、師匠たちの体の間から覗き込む。

 

 遥か遠く、門の前に立っていたのは、冒険者ギルドのトップである総ギルド長。

 そしてその横には、【DWS】でも最強と名高い、A級パーティー『銀の天秤』のメンバーたちが並んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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