鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。   作:菊池 快晴

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第13話 リュック・ドロップ

迷い猫(ロストキャッツ)の皆さん、お揃いで良かったわ。少し話があるんだけれど。この門を開けてくれるかしら?」

 

 冒険者ギルドの総ギルド長、リュック・ドロップ。性別は女性。年齢二十代。

 その隣には、A級パーティー『銀の天秤』のメンバーたちが並んでいた。

 

 迷い猫(ロストキャッツ)とは、俺たち四人のパーティー名である。

 様々な理由で集まったことが由来、名付けたのは俺。余談。

 

 ピリリとした空気を察し、この状況が芳しくないことがすぐにわかった。

 右腕の痛みを感じながら、ずっと考えていたことがある。

 

 今、この国がどんな状況なのか? だ。

 

 レズリィたちは、俺の体調を気遣ってから何も教えてくれなかった。

 しかし、今ここで選択を誤ると危険な気がする。

 よって、今まで考えていたことを瞬間で整理。

 

 【魔人】が鎮座していた場所は古代遺跡の最奥。

 魔物が多いので、普段はめったに人が訪れない。

 よしんばたどり着けた(・・・・・・)としよう。そこには【魔人】の死骸の痕跡が残っている。

 

 疑問に思う点は二つ。

 

 【魔人】なのかどうか。

 もう一つは、誰が(・・)倒したのか。

 

 普通に考えればおかしい。 【魔人】を討伐したとなれば、世界的な英雄になること間違いないだろうし、地位や名誉も約束される。

 爵位は当然、金銭的な面でも半永久的に援助される可能性が高い。

 

 なのに、誰も名乗り上げていないのだ。

 

 【DWS】のキャラクターたちもバカじゃない。

 なぜ? という疑問を解消するまではとことん突き詰めるだろう。

 

 そして捜査する。誰が、何のために、どうやって、どのように倒したのか。

 

 

 俺は、右腕の裾を長く引っ張る。

 レズリィたちは俺のことを隠し通そうとしてくれていたはずだ。

 最奥から連れて帰ったときも、人目につかないように細心の注意を払ったはず。

 

 しかし、目の前にいるのは、あの(・・)リュック・ドロップ。

 

 レズリィたちは頭が良く、すげえ真面目だ。

 よって、ここはバカの俺が前に出るべき。あえて、そう、あえて。

 

「はーい! 今開けまーす!」

 

 動揺を隠しながら、小走りで向かう。

 レズリィたちも半歩遅れて、ゆっくり。

 

 しかし『銀の天秤』たちまで来ているとは驚いた。

 ……彼らが見つけたんだろうな。いやすげえな、マジで。

 

 古代の遺跡は、【DUS】の中でも高難易度ダンジョンのようなものだ。

 レベル70ほどの魔物ばかり、これはこの世界においてトップ層が相手にする強さ。レベルという概念はないものの、A級でも普段相手するのは50レベルくらいだろう。おそらく魔物を倒しながら最奥に向かっただろうに……うーん、すげえ。

 

 ちなみに俺はエンカウントしないようにした。ゲーム攻略、マジチート。

 

「どうしたんですか? ネームド討伐の緊急招集ですか?」

「――【魔人】が討伐された件で聞きたいことがあるのよ」

 

 俺の疑問に、リュック・ドロップが不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 【DWS】のリュックは、コミュニティサイトで意見が真っ二つに分かれるものの超人気キャラの一人だ。

 六代目か、七代目だかは忘れたが、最年少で冒険者ギルドのトップに上り詰めた実力者でもある。

 くしゃっとしたぼさぼさのオレンジ髪、細身で小柄。

 人畜無害そうな人懐っこい笑顔だが、ところがどっこい、そうは問屋が卸さねえってもんだ。

 

 一言で彼女を表すなら【野人】。

 能力は【身体強化】、肉体すべてが武器(・・)である。

 男だらけの冒険者で成り上がるには誰よりも強くなきゃいけない。

 速さ、強さ、力、を兼ね備えた真の強者。

 

 で、ここからが真っ二つに分かれる理由。

 

 温厚で人当たりもいいが、犯罪者やルールを破る人間にはとことん厳しい。

 ちなみに【DWS】の厳しいは、殺すこともある、という意味である。

 

 ルール違反をしたパーティーはすぐに解体させるし、何度言っても聞かないようなら自ら実力行使に出る。犯罪者は上記記載(殺す)。

 もちろんしっかり精査した上で正義を行う。よって、悪ではなし、間違いも犯さない。

 とはいえ、やりすぎ(・・・・)ということで好き嫌いが分かれる。

 ちなみに俺のリュックの好感度は真ん中くらい。だって、マジで怖いんだもん。

 

 しかし、話せばわかる相手でもある。恩を仇で返すことは絶対にないし、正直に向き合えば実の家族のように真摯になってくれるだろう。

 

 沈黙は金か、それともと頭がよぎる。

 しかし、レズリィたちの想いを無駄にはしたくない。

 

「【魔人】が討伐されたことですよね? もちろん知ってますよ。いや、マジで誰が(・・)やったんですかね。――まさか、俺たちがやったと思ってます?」

 

 俺の言葉に、『銀の天秤』のメンバーたちが動揺する。

 彼らについては今のところ割愛。

 

「ふふふ、レイ君は頭がいいね。要件を言わなくてもわかってくれるから話が早い。そう、誰が倒したのか調べているのよ」

「褒めてもらえるのは嬉しいですが、何も出ませんよ? あと、俺たちではないです。そんな偉業を達成したら、今ごろ大袖振って街を歩いてますよ」

 

 俺がリュックと出会ったのは、冒険者ギルドで大型魔物を討伐したときだ。

 原作知識のおかげで弱点がわかっていただけだが、そこで少し話すくらいにはなった。

 

「国王様が知りたがってるのよ。【魔人】を倒した英雄を。国を挙げて祝いたいじゃない? レイ君以外のみんなは、何か知らないかな?」

「――失礼だが、レイの意見と違って私個人は【魔人】の討伐を信じていない。この目で確かめるまでは」

 

 それに対し、レズリィが淡々と答えた。

 実に彼女らしい、堂々とした立ち振る舞いの見解。

 俺たちを含むこの世界の多くのパーティーが【魔人】の討伐のために旅をしている。討伐されました、はいそうですか、となるほうもおかしい。

 

「私も同じ意見だわ。【魔人】の死骸は冒険者ギルドで公開してくれるのかしら? 見つけたのは『銀の天秤』だと、風の噂で聞いているのだけれど」

 

 続いてエレノアが答える。なるほど、見つけたのは『銀の天秤』なのか。

 俺が知らないことを混ぜてくれて助かった。

 

「【魔人】の討伐は、私個人として信じたいと思っております。しかし、私たちは関与していません。また、何も知りません」

 

 最後にソフィアが何の含みも持たせない声色で答える。

 うーん、実に堂々とした嘘だ。俺には真似できない。

 

「ありがとう。私個人としては、実はどーうでもいいの。あの【魔人】が倒されたのよ。ただ、それだけでいいと思うしね。でも、面倒な(・・・)聞き取り調査を終わらせなくちゃいけなくて。――ああ、これはただ(・・)の雑談なんだけれど、なぜ即金で屋敷を購入したのかしら? アジトにはちょっと大きいみたいなんだけど」

 

 ぎ、ぎくぅ!?

 不穏な空気になる前に、またもや俺がバカ声(大きな)を出す。

 

「でっかい家に住みたかったんですよ! 男のロマンじゃないですか!?」

 

 俺の答えに、ふふっとエレノアが笑う。レズリィは溜息をつき、ソフィアは微笑んだ。

 リュックも釣られて笑う。

 

「あはは、まあ確かにそうかもね。ただ、女性のロマンでもあると思うわ。――私はてっきり【魔人】と倒した際に大怪我を負ってしまって、そのことを誰にも知られないように屋敷を買い取った、なんて想像しちゃった。でも見たところ、怪我はしていないようだしね」

 

 ――ビンゴオオオオオオオオオオオオオオオ。

 

 やっぱこの人只者じゃねえよ。

 ちなみに、パーティーが将来のために屋敷を買うことはめずらしくもない。

 ましてや俺たちはそれなりに名のあるパーティーだ。ちょっと奮発しすぎだが、怪しまれる要素はない。一切ない。

 そのことは、レズリィたちも考えていただろうしな。

 でも見抜いているとは驚いた。いや、違うか。

 

 きっとリュックは多くの連中と会ってきている。

 

 近況で怪しいところがあれば、そこを的確についているのか。

 ボロが出るのかどうか、それを見極めている。

 

 だが俺たちも修羅場をくぐりぬけてきた。こちとら【魔人】とも戦った。

 簡単にボロを出すつもりはない。

 

 ただやっぱ、何が正解なんだろうな。

 ここで正直に話せば、みんなに迷惑がかからない。

 【魔人】を倒したのは事実。【魔人化】になりそうなのも事実。

 今なら、俺一人の問題で済む。

 

「じゃあ次の予定が詰まってるから失礼するね。――レイ君、頭がぼさぼさで可愛いね。まるで、ずっとベッドで眠っていたみたい。外に出るなら、髪の毛ぐらいはとかしたほうがいいんじゃないかな」

 

 だがそんな覚悟の寸前に、リュックは『銀の天秤』メンバーとともに去っていく。

 鋭さも怖い。

 

「……レイ、なんでお前は突然走り出すんだ。肝が冷えたぞ」

「俺が遅いのが一番おかしいでしょう。年下ですからね。こういうときは動かないと」

「しかし不穏ね。あの様子だと、完全に信じてるとは思えないわ」

「教会に探りを入れておきます。レイ君は当分外出禁止ですよ?」

「いや、むしろ早く外に出ないとダメでしょう。このまま俺だけ屋敷の外に出なかったら、それこそ怪しまれますよ」

 

 俺の正論に、三人が凄く悲しそうな顔をする。

 やめてください。心が痛みますよ。

 

「レイ、疲れただろう。今日の運動は禁止だ。ベッドで眠れ」

「ずっと寝てたんで、それはちょっと」

「シーツを干してきたのよ。一緒に寝ましょう? ふかふかで気持ちいいわ」

「夜にちゃんと寝ます。一人で。」

「朝までぐっすりの睡眠魔法を掛けますね」

「耐性ついちゃうほど掛けられてるんで、そろそろダメだと思います」

 

 このやり取りは俺が裏庭に移動してからも続いた。

 しかし、俺の知っているリュック・ドロップなら【魔人化】の推理までは辿り着いているだろう。

 このまま何もしないってのもありえない。

 あー、考えること多すぎ!!!

 

 まあいい、今だけ頭空っぽにしよう。

 久しぶりの運動だ。ただ走るだけだが、凄く気持ちがいい。

 しかし、ちょっとしてから小石に躓く。

 身体は回復していないこともあるが、庭の手入れがされていないからだ。

 元気でもこの程度のことはあると思うが、レズリィたちが今にも死にそうな顔して近づいてくる。

 

「……レイ、すまない。私が全部悪いんだ。お前の体は、私が守る」

「やっぱりベッドで寝ましょう? 私が、何でもしてあげますからね」

「レイ君、走るのは禁止。私が、朝までマッサージしてあげるから、安静にして」

 

 重い。重いよおおおお。

 

 

 

 

          ◇

 

 

 

 夜。

 冒険者ギルドのギルド室。

 

「はぁー、ようやく聞き取り調査が終わりましたね。リュックさん、お疲れさまです」

「ありがとう。『銀の天秤』のリーダーのイケメンさんが、こんな夜遅くまで私と一緒で、やきもち妬かれない?」

「はは、そんな可愛い面子じゃないですよ。――しっかし、どこのどいつが【魔人】を倒したんですかね? そもそも、倒せるもんなんですか? 死骸はこの目で確認しましたけど、正直、自死か寿命としか思えないんですけど」

「ふうん、それはなんで?」

「だって【魔人】は正真正銘の化け物ですよ。一度だけこの目で見たことありますけど、火力はバカみたいに高いし、魔法も人類が反応できる速度を超えています。一夜にして国を亡ぼすやつを、誰が倒せるんですか」

「……そうね。そう思う。でも、実際に討伐されたことは間違いない(・・・・)わ。私は戦ったことがあるからわかるの。あの生き物は自死なんてしないし、ましてや寿命で死ぬなんてもっとありえない。――誰かが殺したのよ」

「……あれと対峙して生きてるって、やっぱリュックさんってバケモンっすね」

「褒めてくれてありがとう。ちなみに『銀の天秤』のリーダーとして、討伐できそうな人はいたかしら?」

「正直、いないです。自慢じゃないですが、この国の誰よりも俺らパーティーのほうが強いですよ。実際、ランクも一番上ですしね。――そういえば、なんで迷い猫(ロストキャッツ)にまで聞き取り調査したんですか? リストになかったですよね? 一言も話すなって言われたので静かにしてましたけど、理由教えてもらえます?」

 

 リュックが、迷い猫(ロストキャッツ)の冒険者登録リストを見つめる。

 

「このパーティーのランクは実際と異なると思ってるの。本当に【魔人】を倒すためだけに行動しているから、手柄なんて二の次って感じだしね。だから、ありえるかなって」

「……それこそ矛盾してません? いや、倒せるとは思えないですけど、倒したら絶対に喜ぶし、何より自慢してもいいじゃないですか」

「そうねえ。――たとえばだけど【魔人化】ってわかる?」

「一応。確か、【魔人】の呪いの炎を受けて変化するんですよね? 自我がなくなって、見境なく殺戮するって」

「そう。もし、もしよ? あなた達『銀の天秤』が【魔人】を倒しました。けれども、パーティーメンバーの一人が【魔人化】になってしまった。今なら殺せるチャンスがある。さあ、どうする?」

 

 リュックの言葉に、リーダーが口ごもる。

 

「……殺します。苦しい決断ですが、もし俺がそうなっても、メンバーはそうしてくれると思いますね」

「立派だわ。――じゃあこれは? もし体の一部だけが【魔人化】したら?」

「……は? どういう意味ですか?」

「例えばそうね。右腕だけ、【魔人化】の影響がある、とか。左腕だけ、とか。人格は人間。言葉も話せる」

「……そんな状態ありえないでしょう。だって【魔人】の炎を受けただけで即死です。【魔人化】は魔物化と同じ。元には戻らないです。――それに、いくら仲間だとしても【魔人化】したのなら恐ろしくて隣にはいられません。【魔人】を知っているからこそ、冷静でいられるわけありませんよ。まともな感性ならそれこそ身体の震えも止まりません」

「ふふふ、そうよね。私もそうなると思う。――今まで数多くのパーティーを見てきた。人を見る目は、これでもあるほうなのよ。迷い猫(ロストキャッツ)より強いパーティーはこの国だけでもたくさんいる。あなた達もそうね。ただ――あの四人ほど強い絆の人たちを見たことがないわ。大型魔物のときも、四人はお互いを完全に信頼し合っていた。特に、レイ君を」

「え? 彼が一番下っ端じゃないんですか?」

「単純な強さだけならね。でも、レイ君が大型魔物を対峙したとき、三人は完全に信頼して彼の支援に回ったの。誰も迷わずにね。それが、私からすればあり得ない動きだった。さらに驚いたのは、彼がまるで敵の攻撃を予測しているように動いてたこと。私にはわからない。何かがある気がするのよね」

「……もしですけど、その予想が当たってて、あの中の誰かが【魔人化】していたらどうするんですか?」

「もちろん【英雄】よ。それこそ、国を挙げて祝福すべきだわ。――ただ【魔人】は規格外の存在、理外の存在。いずれ【魔人化】する恐れもあるでしょうね」

「じゃあ、隔離するってことですか?」

 

 リュックは、なんの悪びれもなく答える。

 

 

「――殺すわ。だって、人類の命と天秤にかけたら、考えるまでもないじゃない?」

 

 

「……リュックさんってやっぱ怖いですね」

「ふふふ、でもね。別に殺したいわけじゃないの。英雄だとわかった上で、尊敬の念を込めて、殺す。私だって、そんなことしたくないわ。でも、しなきゃいけないこともあるのよ。ここ、大事よ」

「余計怖いっす」

「まあ、それとは別にレイ君のことが個人的に好きで会いたかったの。あの子、凄い素質あるのよ? 私が直々に鍛えたいくらいだわ」

「……リュックさんがそこまで言うなんて、めずらしいっすね」

 




初めての曇らせ作品なのですが、楽しく書かせていただいております!
モチベーションのためにも評価をよろしくお願いいたします
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