鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。 作:菊池 快晴
「レイ、今ならまだ間に合うぞ。私は絶対に反対だ」
「レイくん、私もそう思うわ。――ねえ、なんでそんな決断をするの……」
「レイ君、私も同じ意見です。やめておきましょう。命がいくつあっても足りません」
早朝、服を着替えていた俺の部屋に、三人が扉を開けて入ってきた。
まるで、死地へ向かう男を引き留めるような勢いだ。
しかしその実態は、ただ街を練り歩き、散歩するだけである。
最後の晩餐というわけではないが、俺だって【DWS】を享受してすこやかに生きるぐらいの権利はあるだろう。いや、くれ。
久しぶりに街の喧騒を感じたいからでもあるが、一番は何事もなく生活しているというアリバイを作るためだ。
リュック・ドロップは明らかに俺たちを疑っている。俺としては……自白してもいいと思うほどメンタルは安定してきた。
このまま【魔人化】して三人の誰かを殺してしまったら、それこそ本末転倒である。
けれども、三人は俺のために手を尽くしてくれている。
一度【魔人化】したおかげで、この呪印が心臓に到達したときに感覚を奪われる、ということがわかった。
なので、それまでは問題ないだろう。
事実、原作の【DWS】でも同じような場面がある。
思い出したくもない。ヒロインバッドエンドルート。
【魔人化】していくヒロインが、悲痛な声を上げる。
『――私を、殺して……』
『殺せるわけ……ないだろうがっ……!』
主人公は泣きながらヒロインを殺す――あ、このクソエピソードは誰もが引っかかる選択肢で最初に到達する。マジ運営はヤバイ奴です。おまわりさーん。
まあ、最高のエンディングも用意されてるのでギリッギリ許せたが。マジ、ギッリギリ。
そういえばヒロインたちは何しているんだろうな。
平和に暮らしているはずだが、彼、彼女たちに会ってないことも心残りだ。(男の娘含む)
いや、一番は原作主人公がどこにもいないことか。
そのせいで胸糞エピソードを俺が遠回りしながら解決していく、という一人頑張れトロフィーを集めることになった。
色々感謝されたりもしたが、結局は自己満足。
だって、頭の片隅にずっと残るもん。そりゃ放置できねえよって。
まあそのおかげで主人公みたいな気持ちにもなれたので結果的には良かったが。
っと、これだけは師匠たちに言っておかないと。
できるだけ、爽やかな感じで。
「俺がもし、街で【魔人化】しそうになったら、そのときはお願いします」
できるだけ軽い感じで、てへへって感じではないが、真剣な雰囲気もありつつ。
……うぅ、と涙を流すエレノアが辛い。でも、師匠たちは伝えたらやってくれるだろう。
あ、一番大事なこと忘れてた。
「俺まだパンツ姿なんですけど、出ていってもらえませんか?」
無視。
どこかへ行く気配がまったくないので、マイペースに服を着替えていく。
右腕は何があっても見られないよう、重ね着していく。
一応夏ではあるので、最低限だ。まあ、誰かに襲われでもしないかぎり右腕が露出することはないだろう。
着替えが終わり、相棒のようなベッドを眺める。
元々整理整頓大好きな人種からの転生なので、すげー綺麗に畳んだ。うむ、気持ちがいい。
しかしそこで、この屋敷は買い取ったんだと気づき、ハッとなる。ヤバすぎ。
「よし、行きましょうか!」
返事、涙。
――やめぇぃ!!!!!
さすがに諦めて(?)くれたのか、庭園まで行くと三人も切り替えてくれた。
いつまでもメソメソしていては俺も楽しめない。
生前葬でもします? という冗談を言おうと思ったが、このまま屋敷の外に出られなくなるのは勘弁なので「――せ」で止めた。あぶねえ。
ちなみに異世界でも葬式はある。様々な種族によって埋葬の仕方が違って、とある亜人はドラゴンに遺体を食べてもらうらしい。凄い。余談。
ずっと眠っていたからか、久しぶりに外の世界へ行くって感じがする。
この屋敷、国の中にある割には緑が残りすぎてて外がまったくわからないんだよな。後から教えてもらったが、このあたりに土地開発の波が来たものの、家主が嫌じゃ! と突っぱねたらしい。のじゃロリ?
よって、ここだけなんか隔離された空間みたいになっているそうだ。異世界でもそんなことがあるんだね。
ちなみに、この屋敷が買えなかったら、元奴隷商が隠れ家として使っていた地下三階の隠し部屋に俺は幽閉される予定だったとのこと。ありがとう、頑固爺さん!(もしくは婆さん。もしくはのじゃロリ)
レズリィが門を開けようとして、そこで、一旦止まる。ここへきて寸止めは嫌ですよ!?
「レイ、私はお前のことを誇りに思っている。だから、お前も自分を褒めてくれ。少なくとも、世界はお前の英雄的行為を、心の底から喜んでいる。――そのことが、すぐにわかるだろう」
何のことかさっぱりわからないが、ご機嫌を崩したくないので笑顔で返す。
しかし、久しぶりの自然な笑顔で俺も嬉しい。相変わらず可愛。
てくてくてく。細道を通っていくと、舗装された路地が現れる。
あー、なつけー。
露店の肉とか野菜とか、何かの炒め物の匂い。
そっから、ガヤガヤと何重にも声が合わさる。
独特の空気感。これぞ【DWS】。
が、だいぶ違った点もあった。
「――すっげえ……」
瞬間、レズリィのさっき言葉を理解した。
ああ……だから最高なんだよな。【DWS】は。
「レイくん、あなたが守ったのよ」
「そうです。――これは、あなたのための
そこには、俺が知っている【DWS】よりも遥かに眩しく、鮮烈な景色が広がっていた。
視界を埋め尽くすのは、色鮮やかな横断幕と空に舞う無数の魔法吹雪。
街路樹には色とりどりのリボンが結ばれ、【名もなき救世主に祝福を】という金色の旗がはためいている。
俺は、三人のためだけに【魔人】を倒した。
でも、俺が命を削って守ったのは、こんな尊い日常でもあるんだな。
……原作なら、この国は【魔人】によって壊滅してしまう未来にあった。
でも、そのエピソードは消えた。
俺が、潰した。
――俺がこの世界に生まれてきた意味は、きっとあったんだ。
そう思うと、自分が誇らしく思えた。