鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。   作:菊池 快晴

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第23話 世界最強の魔法使い

 天使(ユーゴ―)のエレノア。

 

 迷い猫(ロストキャッツ)で最も知名度があり、現役最強と名高い魔法使いである。

 幼くして世界有数の魔法学園を首席で入学し、飛び級で卒業。在学中に、今でも語り継がれる魔法理論の偉業をいくつも成し遂げている。

 後に宮廷魔法使い見習いへと進むも、家族の介護を優先し、断念。

 しかし、それでエレノアの尊厳が損なわれることはなかった。

 その後、宮廷教員となったエレノアは、教鞭をとっても才覚を見せつける。

 彼女の教え子は軒並み成績が上がり、次々と学園のトップランカーへと成長していった。

 

 そんな彼女の構築する魔法理論は、本職の魔法学者ですら舌を巻くほどであり、今現在においても、エレノアの元には毎週のように大学の講義依頼や、研究所で働いてほしいとの手紙が届いている。

 生涯を冒険者に捧げても得られない莫大な契約金を提示されても、エレノアはただの一度も返事を出すことはなかった。

 

 

 

 また、そのことを迷い猫(ロストキャッツ)の誰も知らない。

 

 

 

「――嘘、でしょう……ありえない……!」

 

 屋敷の上空。

 飛翔魔法で空中に陣取り、魔法攻撃を仕掛けていた現役の宮廷魔法使いたちが、絶望に染まった声を漏らした。

 彼らは国一番のエリート集団である。学生時代から敗北を知らず、個々が神童と呼ばれてきた五人一組の精鋭、それが二チーム。

 当然、誰もがエレノアの事を知っている。

 しかし目の前の光景は、噂や記録を遥かに凌駕していた。

 

 エレノアは、四つの元素魔法を同時に操作していた。

 

 紅蓮の炎、絶対零度の氷槍、切り裂く風の刃、鋼鉄の岩塊。

 本来ならば単一、天才であっても二属性の同時操作が限界とされる常識を、彼女は呼吸をするように無視している。

 

 

 ――魔法使いを倒すなら、四人をぶつけろ。

 

 

 対魔法使いにおける鉄則を、エレノアはたった一人で破壊していた。

 空から降り注ぐ飽和攻撃を、彼女は常軌を逸した魔法捌きで防ぎきっている。

 

「狼狽えるな! 魔力は無限じゃない! 俺たちがやるべきことは、エレノアの魔力を使い果たすことだ! このまま、多重攻撃を仕掛け続けろ!」

「は、はいっ!」

 

 

 ――魔法使いは魔力がなければただの人。

 

 

 この世界の有名な格言であり、真正面から魔法使いを倒すときの基本戦術である。

 宮廷魔法使いは世界で最も誇り高い。

 魔法には魔法で対抗する。それが常識であり、彼らの矜持そのものだった。

 

 そのことを誰よりも熟知していたエレノアは、あえて自ら身体を晒していた。

 屋敷の中で迎撃するのではなく、空へ上がり、己を見せることで、魔法使いの注目を集めている。

 

「右75度に火属性と地属性を照射。左45度に水属性障壁を展開。地、風、火をそれぞれ複合し、3秒後に誘導弾として射出。――誤差修正、-4度」

 

 エレノアの口から、高速で演算結果が紡がれる。

 攻撃魔法を防ぐには、相殺する属性と魔力をぶつけるのが定石だ。

 80の攻撃には80の防御を。本来なら戦闘中に誤差が生じるものの、エレノアは完璧な魔力調節をしていた。

 また、エレノアは攻撃魔法に、ほんの少しだけ別属性を混ぜている。

 火の中に風を、水の中に土を。

 それにより、対象の防御魔法を誤認させ、貫通させていた。

 

「どういうことだ……なんで防げない!? 防御の上から抜けられたぞ!?」

「ありえない、なんでなのよ! これが、エレノア……!」

 

 宮廷魔法使いたちの顔色が青ざめる。

 蓄積されたダメージよりも、自分たちが信じてきた魔法理論が通用しない恐怖。

 魔法はイメージであり、精神の揺らぎは魔力制御に直結する。

 

 その動揺を、エレノアは見逃さなかった。

 

「狼狽えるな! 奴は一人で、こっちは十人だ! 俺たちのすべきことはエレノアを倒すことじゃない。奴を食い止め、屋敷内に侵入することだ! 作戦を変更する。防御魔法を展開さ――かぁっはあっ!?」

「あらあら、近距離戦を想定していないだなんて、あなた達は本当にご立派な魔法使いなのねえ?」

 

 ドォン!!

 鈍い音が響き、隊長の身体がくの字に折れた。

 エレノアは飛翔魔法で一気に距離を詰め、魔力を纏わせた杖で、物理的に殴りつけたのだ。

 魔法障壁は魔法には強いが、物理衝撃には脆い。

 白目を剥いて墜落していく隊長を見下ろし、エレノアは冷たく微笑む。

 勝負は魔力量ではないことを、誰よりも知っている。

 

 敵の陣形が崩壊する。

 魔法使いは探知を得意とする。一人でも屋敷に侵入させてしまえば、【レイ】の居場所が正確に察知されてしまう。

 

 だからこそ、エレノアは空で舞っている。誰よりも傍にいたいと強く願うからこそ、【レイ】を守るために。

 

 

 

 ――絶対に、宮廷魔法使いたちを屋敷の中に入れてはいけない。

 

 ――絶対に、エレノアを屋敷に戻してはいけない。

 

 エレノアの飛びぬけた強さが、宮廷魔法使いたちの意識を強制的に同調させた。

 だが、エレノアの真の狙いは別にあった。

 探しているのは、聖なる揺り籠(セイクリッド・スランバー)の術者である。

 

 この結界を維持している核を見つけ出し、魔力増幅に使用している宝玉を奪い取る。

 こちらの勝利条件はレイを連れて国外に出ること。魔力を全損し、意識を失うことは敗北を意味する。

 

 対してリュック・ドロップ側の敗北は全員が倒された場合のみ。

 

 エレノアは結界を破壊し、襲撃側に死への恐怖を引っ張り出そうとしていた。

 たった一つしかない細い糸を手繰り寄せながら、思考を巡らせていく。

 

 しかし、その事に唯一気づいた人物がいた。

 

 エレノアが杖を向け、従者に極大魔法を放とうとした、その瞬間。

 

聖なる揺り籠(スランバー)の術者に次ぐ。保有する魔力の9割を使用し、絶えず位置を移動しながら、魔力を隠蔽せよ】

 

「ッ……!」

 

 エレノアが魔法放つ一瞬、術者の反応が忽然と消えた。

 意識を失わない程度の魔力を残し、防御魔法すら解除して、全力で移動を開始したのだ。

 

 エレノア視界の片隅で、リュック・ドロップを睨みつける。

 ただし、リュック・ドロップは微動だにしない。

 指揮官として、思考を巡らせている。

 

「――レイくんは、絶対に殺させやしない。私の、命にかえても」

 

 エレノアが、残りの寿命を魔力に変換しようと、新たな術式を構築しはじめたとき異変が起こった。

 

 レイを最も近くで護衛していたソフィアの魔力が、著しく跳ね上がったのである。

 

 

 

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