鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。   作:菊池 快晴

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第5話 聖女ソフィアの後悔 1

 【魔人化】して【魔人】を倒す。

 

 これが、俺の考えた唯一の救済ルートだ。

 問題はたどり着けるかどうかだった。

 自分で、自分の心臓を抜き取れるかは懸念材料ではあったが、それは除外した。

 で、成功した。【魔人】をぶっ殺した記憶はある。正しくは、心臓を抜き取って食らった記憶がある。

 

 【魔人化】は想像していた何百倍も熱く、苦しく、痛くあったが、嬉しかった。

 もし師匠たちがそうなっていたと思うと、俺がその場面を見ていたと思うと、きっと耐えられない。

 

 自己犠牲を終えて後はみんな幸せになってくれ。

 

 の、つもりだったのに……。

 

 ……はあ、【DWS】め。

 

 俺は、生き残ってしまった。

 それも、醜くも惨い姿で。

 

 身体は【魔人化】の影響なのか、右腕の大部分が紫に変色していた。

 まるで蛇がまとわりついているようだ。

 何より、痛い。言葉で言い表すのがこれしかできないのが歯がゆいほどに、めっちゃくちゃ痛い。

 いや、正しくは全身が痛いが、右腕だけは常に熱湯に浸かっているみたいな感じ。そこに、細針でグサグサグサグサと突き刺されている。

 

 いや、昨晩は実際に叫んでいた。申し訳ないが、我慢ができなかった。

 

 さらにこれは、大幅に軽減(・・)されている状態である。

 

 

 

「……ソフィアさん、ありがとうございます。おかげで痛みもかなり取れてきました。なので、少し仮眠を取ってもらえませんか」

 

 俺がベッドで横になっている隣では、ソフィアさんが回復魔法を常に使い続けていた。その目には恐ろしいほどの隈ができており、事実、俺が目を覚ましてから48時間以上もこうしている。

 その間、レズリィやエレノアさんもかわるがわる来ているが、一度たりとも動こうともしない。

 さらに気づいたのは、無詠唱(・・・)で行っていることだ。

 おそらく俺への負担を軽くするため、詠唱を耳障りだと判断し、意図的に省いている。魔力が枯渇しないところも恐ろしいが、何より申し訳ない。

 俺が三人を助けたかったのは、あくまでも俺自身の自己満足だ。

 なのにこんな苦しいを思いをさせるとは。

 

「……すみません。集中していて返事が遅れました。――私のことは気にしないでください。レイ君、もう少し眠ったほうがいいですよ。それとも何か食べますか? 下の世話も遠慮なくいってくださいね。私は聖職者ですから、何も気にしなくて大丈夫ですから」

 

 いやいや気にするよ! めちゃくちゃ気にする!

 寝てほしいいいいいいいい。

 

 聖女ソフィアというキャラクターは、【DWS】でいうところの回復キャラだ。

 エレノアさんが火力特化の魔法使いならば、彼女は回復特化の化け物。

 簡単な傷ならすぐに治すし、アンデッドモンスターなら聖光で一撃で倒す。

 実際、俺も折れた腕を何度も治してもらった。

 しかしなんでかどうして、俺の腕には効かないらしい。

 

 これはおそらく、【DWS】の本来の仕様だ。

 【魔人化】してしまった年上ヒロインたちを救う手段は倒すしかなかった。おそらく、俺もその状態になっている。

 なぜ生き残り、なぜ右腕だけがこうなっているのかはわからないが、状況を判断すると間違いないだろう。

 

「レイ君、未熟でごめんなさい。私にもっと力があれば、レイ君がぐっすり眠れるのに。いや……違いますね。私が、もっともっともっともっと精進していれば、レイ君は立ち上がって元気に歩けたのに……」

「いやいや、ソフィアさんが未熟なんて言ったら全世界の聖女から怒られますよ」

 

 しかも、しかもだ。

 全員(・・)が自分を責めている。なんで。

 特にソフィアさんは現在進行形に病んでいて、俺がこの状態になり続けていることに恐ろしく自己嫌悪している。

 いや理屈はわかりますよ。でも、流石に勝手に【魔人】に突っ込んだ男に対して優しすぎやしませんかね。いやまーでもそうなんだよな。【DWS】でも聖母って言われてたし、実際性格がめちゃくちゃいい。

 

 ただ、すげえ明るくて前向きなキャラではあった。

 この世の戦争をすべて無くしたいとは言うが、ちゃんと現実を見ていて、戦争は、戦争でしか終わらないと理屈を立てるキャラで、それがまた現実を見ているとプレイヤーからも人気だった。

 悪党にはちゃんとお仕置き(殺すこともある)するし、困っている子供には無償で善意を行う。昔、そいや服をあげようと脱ぎだしたことがあった。倫理観がちょっとバケモン級だが、それがまた良かったんだよ。

 

 だから、こんな自己嫌悪して落ち込むようなのは見たくない。

 いや、ほんと、俺が悪いんですよ。

 だから、気にしないでください。

 

 むしろ生きてるんですよ? 最高じゃないですか。

 

 ソフィアさんは相変わらず動こうとしない。

 実際痛みは酷いが、それでも休んでもらわないと。

 

 右腕はくっっそ痛いが、感覚が一番あるのも確かだ。

 ほら、と手を振ろうとしたら、回復魔法をしているソフィアさんの手に触れる。こつんと、いやほんと、こつんと。

 

「――あっぁあっぁあああああ、ごめんなさいごめんなさい。レイ君、大丈夫ですか!? 痛くなかったですか!? 痛かったですよね。そう、痛い。絶対に痛かったのに……ごめんね、ごめんなさいもっと、もっと優しくするから」

 

 ソフィアさんは顔面蒼白になり、目から涙をぼろぼろ流す。

 ちょっいや、俺が動いたんですが!?

 

 魔力は下がるどころか、むしろ増していく。

 下手に動いてまた同じようなことになると余計に疲弊しそうだ。

 

 ……魔力がなくなるまで待つしかないか? 死ぬことはないだろうし、疲れて寝るか。このペースなら、あと数時間で倒れてしまうはず。

 ……申し訳ないが、それが一番安全かもなあ。

 

 あーもう、【DWS】め。こんな曇らせ求めてねえんだよ……。

 

 

 

 

 

 

 

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