鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。   作:菊池 快晴

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第8話 天使エレノアの葛藤 1

「くっそマジ……いってぇ……けど、生きてんなぁ俺……」

 

 右腕の痛みで目を覚ます。これが、俺の一日の始まり。

 【DWS】は元の世界と同じで24時間だ。

 初めは30分ほどしか眠れなかったが、さすがは適応力の高い人間族。

 今は2時間くらいは眠れるようになった。

 もちろん、聖女ソフィアのおかげだ。

 毎日のように魔素を整えてくれたので、少しずつ、本当に少しずつだが痛みが軽減している。

 このことはソフィアにとっても落ち着く要因になっているみたいで、以前より、ほんの少し、本当に少しだけだが元気になった。

 といっても、心の根っこの部分は一切変わっておらず、俺を見るたびに「守るからね」と「ごめんなさい」を繰り返している。

 

 正直、重い。重すぎる。

 いや、理屈はわかるよ。

 でもさ、自業自得なわけじゃん。

 

 勝手に俺が突っ込んで、勝手に救おうとして、結果、こうなった。

 だから、あまり気にしないでくれ。

 

 っていっても、まあ効果はなかったわけだが。

 

 しかし、俺が悪いよな。

 ここまで計算できていなかったことが、すべての要因だ。

 反省しているし、本当に申し訳ないと思っている。

 

 だから、もっと楽にしてほしいんだけどな……。

 

 ありえんほど過去が重い人たちに、さらに業をも背負わせるなんて、そんな鬼畜なことはできん。

 徐々に体は動くようになっている。

 元気になったところで今後の身の振り方を考えたいが――。

 

 ……でもま、一択しかねーよな。

 

 俺はふたたび【魔人化】してしまう。 自分の身体だからわかるし、一度【魔人化】したからわかる。

 あの激痛をふたたび味わうかもしれないと考えるだけで嗚咽もんだ。

 脳みそをスプーンですくって咀嚼されてるような不快感に、耳に虫が這っているような違和感。

 

 たまんねー。

 

 しかも次は制御できる気がしない。

 前は、というとおかしいかもしれないが、師匠たちを救うという根底が俺の中であった。

 【魔人】を殺さなければいけない。その一心で戦い、倒した。

 でも倒すべき相手はもういないのだ。となると、俺は自我を失うだろう。

 

 ……どうなるかは考えたくもない。

 

 ただ、今の師匠たちは俺よりも先に疲弊して死んでしまいそうな顔をしている。

 いや、マジでどうやったら元気になってくれるんだ……。

 

 やっぱ、俺が元気になるしかないか。とりあえず。

 

「【DWS】め……とことんお前は俺を苦しめやがるな」

 

 レズリィは日中、いろんなツテで俺の症状を治せないか探ってくれている。

 知らない間に、裏で有名な治癒術師まで呼んでいたらしい。

 【DWS】の隠れキャラで名前だけ見た。作中には出てこないレアキャラクターでもある。

 正味見たかった。いや、俺が意識を失ってるときだから不可能だが。

 

 ついさっきまでソフィアがいたが、聖女教会に行く予定があるので、エレノアに交代すると言って出ていった。

 何をしているのかわからないが、何か嫌な予感がする。

 みんなあんまり何も教えてくれない。

 けれど、外に出て情報を集めることもできん。歯がゆい。

 

「――――ぁ」

 

 扉を開けて現れたのは、天使のエレノア。

 長い黒いストレートが特徴的な、泣きボクロがトレードマークのお姉さまだ。

 温厚で、落ち着きがあって、どんなときも慌てない――。

 

「レイくん、もう起きてたの!? ごめんね。喉乾いたよね。すぐ用意するからね」

 

 いや、そのキャラクター情報はアップデートされている。

 今は、元気に慌てるお姉さんだ。

 テーブルの上に置いている水を持ち上げる。

 肩が震えて、手が震えて、まるで怯えているかのように呼吸が早くなる。

 多分、ソフィアから寝ていると教えられていたのに、そうじゃなかったことで放置したと思っているんだろう。

 

「あ、あの……慌てないでください。俺、今日調子いいですよ。腕も、あんまり痛くないですし」

「ごめんね。はい。お水。ゆっくり飲んでね」

 

 目を覚ましてからは、ごめんね、という返答が必ず入るようになった。あの落ち着きのあるエレノアは、もうどこにもない。うぅ……申し訳ない……。

 

「ありがとうございます。ソフィアさんにも言っているんですが、ちゃんと寝てますか? クマが……凄いですよ」

「私のことは気にしないで。それより、お腹は空いてる? 何でも作ってあげるから言ってね」

 

 いや、ゆっくりしてくれ。

 しかしここで何も言わないとまた不安がるだろうな。

 

「じゃあ、お言葉に甘えてフルーツでも切ってもらえますか?」

「もちろん!!!! 待っててね。すぐ持ってくるから」

 

 ドタドタドタドタ。

 エレノアは飛び出すように部屋から出ると、溢れんばかりのフルーツを抱えてきた。

 いや多すぎませんか。

 そのまま丸かじりしようと思っていたが、きちんと剥いてくれる。

 

 彼女の印象は、この出来事でぐるりと反転してしまった。

 落ち着きがあって、ほわほわしていて、物静か。

 俺は【DWS】を知っていたこともあり、何でもわかった気になっていた。

 でも、いろんな面があったんだな。

 

 それを見られるようになったのは、皮肉にも俺がこんな身体になってしまってからだが。

 しかし、俺の未来のために奮闘してくれていることも嬉しくは思う。

 

 俺だって死にたがりってわけじゃない。

 ここまでしてくれている師匠たちに感謝している。

 

 だから、まずは元気を取り戻したいとは思う。

 全てを諦めるのは、それからでも遅くはないだろうしな。

 

 フルーツをいくつか口に放り込んでもらい、ゆっくり咀嚼する。

 歯が痛い。虫歯はないはずだが、痛い。

 俺の微かな表情に気づいたのか、エレノアが不安そうにする。

 

「ど、どうしましたか」

「……大きかったよね。私が咀嚼して小さくするから、ちょっと待ってね」

「俺は生まれたての小鳥ですか」

 

 そこまでされると申し訳なさがストップ高するわ!

 そんなとこ、レズリィとソフィアに見られたらとんでもないことになりそうだ。

 じゃあ、次は私が、その次は私、とか言いかねない状況だからな。

 そんなことさせられるわけがない。

 

「……私のせい(・・)でごめんね」

 

 そして、師匠たちと話していて気づいたことがある。

 

 なぜか俺のこの状況が、全員、自分のせい(・・)だと感じてしまっているところだ。

 

 レズリィはまだよくわかっていない。

 ソフィアは、俺に回復を施してくれたこと。

 

 エレノアがそう思ってしまっているのは、最悪なことに俺が一番理解できる。

 

先生(・・)は悪くないですよ。これはただの事故ですから。しいていえば、バカみたいに突っ込んだ俺だけです。今は身体を治してもらって、こうやってフルーツを食べさせてもらってる。むしろ幸せですよ」

「……先生なんて呼ばれる資格はないわ。あなたに対していい気になって何でも答えた。その結果、私はあなたをこんな目に遭わせた。でもね、安心して」

 

 俺の罪悪感消し去り攻撃は、エレノアバリアーによって一撃で破壊された。

 そしてゆっくり近づいてくる。

 

「これからは私があなたのことを守るから。どこか、静かなとこで暮らしましょう? レズリィもソフィアもきっと賛同してくれると思う。誰もいないところで、毎日フルーツを食べるの。ね、幸せでしょう? レイくんは何も心配しないで」

 

 俺が【魔人化】してからのことも視野に入れてそうな、現実的な提案をしてくるエレノア。

 はいそうです、とは言えない。

 俺が【魔人化】しても、今の勢いならマジで守り人みたいにずっとその土地を守りそうだ。

 エレノアの夢は世界を旅することだったのに、この発言させてるのがマジで申し訳ない。

 

 俺は、あなた達を助けたくてやったんですよ。そんな人生を棒に振るNewバッドエンドルートはダメです。許しません。

 

「静かな所は好きですけど、賑やかなところも好きですよ。エレノアさんには感謝しかしてないんで、あんまり気に病まないでください。そもそも、エレノアさんのおかげ(・・・)で【魔人】も倒せたんですし、偉業を達成したんですから」

 

 俺が【魔人】を倒せたのは、原作知識だけのおかげじゃない。

 エレノアが色々と教えてくれたからだ。

 彼女は元々、教員(・・)をしていた。

 

 感謝している。そうじゃなかったら、俺がこの世界に来た意味はなかったのだから。

 

 しかし俺は、最悪の地雷を踏んでしまっていた。

 

 エレノアの顔が、どんどんどんどん暗くなっていく。

 

「そう……よね。私が自己満足に浸って、ペラペラペラペラペラペラペラペラと得意げに喋ったから……何でもかんでも、くだらないことを伝えてしまったから、レイくんを苦しめた。そう、全部、私のせいなの。だから、責任は持つわ。――レイくん、これからは一生、私があなたを養うから。 考えることも、戦うことも、しなくていい。ただ私のそばで、幸せになって」

 

 にへっと笑っても、エレノアは「ねえ、返事は?」と何度も尋ねてきた。

 エレノアバリアー、強すぎるんですけど。

 




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