ある日、風邪を引いた男性は自身や身の回りに起きる変化に翻弄されていく……

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第1話

それは突然のことだった───

 

 

「げっほげっほ、風邪だなあ… 熱は…38.6℃かー、熱もあるなあ… 今日は仕事休むか…」

 

 

ある男性会社員は風邪を引いてしまい、会社を休むことにした。当然、休みの連絡を会社にするわけだが……

 

「おはようございます、〇〇課の〇〇ですが…」

「おはようございます、〇〇さんの奥様でしょうか?」

「…え?本人ですが…ってなんだこの声!!??」

「どうされましたか!?」

 

気づいていなかったが、いつもより声が高くなっていた。まるで女性の声のようだった。

 

「ほ、本人なんですけど、なぜか声が高くなってるんです!げっほげっほ。熱があって咳も出るのでお休みする旨を連絡させてもらったのですが…」

「そ、そんなんですね。承知いたしました。お大事になさってください。…とご本人にお伝えください。」

 

ガチャっと電話を切られてしまった。本人だと信じてくれなかったかもしない。と言うか、俺は嫁どころか彼女もいない、小さいアパートで1人寂しく暮らす独身男性である。一番身近な女性は実家の母ちゃんくらいだ。

とりあえず、声が妙に高くなるタイプの風邪かもしれないと自分に言い聞かせ、身体も怠かったから布団に横になる。それにしても頭が痛いし、身体も暑い。それでも、すぐに眠りにつくことができた。

 

 

数時間後に目覚めた時、驚きの変化が起きていた。

 

 

「…んん〜、ふわあ〜、よく寝たな〜。」

 

 

相変わらず声が高い、むしろさっきより高くアイドルの様な可愛らしい声になっていた。

 

「なんか、また声が高くなってないか?てか視界が狭いし身体が重いような?」

 

着ていたジャージが少し緩くなったように思えたが、風邪の影響と寝起きで頭が回らない。とりあえず、洗面所で顔を洗うことにした。

鏡で自身の姿を見ると、目を疑った。

 

 

「え?誰これ?え、え?俺?」

 

突然のことで頭が真っ白になる。そして、ふと我に帰る。

 

「なんで俺、女になってんだよ!?!?」

 

どこかのアイドルグループにいてもおかしくない、めちゃくちゃかわいくて、スタイルの良い女の子がそこに立っていた。

 

「うおお…髪はサラサラで長いし、髭は無くなってる!つるつるだあ…顔は…正直めっちゃかわいい。色白で目がパッチリで小顔で、俺のタイプだ。と言うかこれが、今の俺なのか。そんで、おっぱいが…そこそこあるかな?Dカップくらい?AVの知識だけど…腕も足も細いし、毛が全くない…すべすべだあ…」

 

この状況で一番気になった部分に触れてみる。

少し緩くなったジャージのズボンの中に、恐る恐る手を入れていく。そこにいつもの光景は無かった。

 

「当然だけど、俺の息子まで無くなってるぜ!!代わりに綺麗な割れ目が!!本物とは思えない…」

 

興味本位で身体の各部位を細かく見ていった。

 

「おいおい、マジかよー!こんなことってあるのかよ!?」

 

突然のことに理解が追いつかない。こんな状況、アニメや映画とかでしか見たことない。現実の事とは思えない。

ふと、スマホを見るととんでもない量の通知が着ていた。

 

「うわ!!なんだこの通知の量!どうなってんだよ、おい!!」

 

とても可愛らしい声には似合わないセリフを言っている自分に謎の違和感があるものの、ざっくりと通知を見ていった。

 

「おいおい、マジかよ…」

 

全てに目を通せなかったが、事態の把握が少しできた。SNSによると、全国的に謎の感染症が男性だけに流行り、その感染者は全員女性化しているのだそうだ。

 

身近のところでは、職場の先輩、大学の時の友人、ちょっとした知り合いなど、全員ではないが同じタイミングで風邪を引き、目が覚めると皆、女になっていたのだ。しかも、多種多様な変化をしていた。

 

例えば、職場の先輩は大柄な元柔道部員で、坊主頭で目が小さく、声が大きい人だったが、髪はセミロングで小柄の可愛らしい、お目目パッチリの女子中学生になっていた。一番驚いたのは、大学の時の友人で、黒髪で真面目な優等生だった彼は、いかにも頭の悪そうな、金髪で眉毛が細いギャルになっていた。幸い、彼も一人暮らしをしていたので家族に自分であることを説明する必要がなかったことに安心をしていた。

 

 

そんな彼から電話が来た。

 

 

「もしもし、久しぶりだな。こんなことになっちまうとは…」

「全くだよ、こんな恐ろしい感染症があるなんて知らなかった。色々調べているけど、過去にこのような感染症が流行った記録など当然無い。全く、勘弁して欲しいよ。」

 

送られて来たスッピンのギャルの写真とギャルっぽいハスキーボイスからは考えられないほどまともなことを言っている。もし、これで心もギャルであればどれだけ嬉しいことか。

 

「本当だよな。とりあえず今日は会社休んだけど、明日からどうすればいいんだ?身体と声が女性化してから、少し体調が良くなってきたような気がする。後は、この状況に理解が追いつかないだけ。」

「俺もどうしようかと思う。俺の行っている職場は研究室もあるから、ウイルスや菌を持ち込む訳にはいかない。そうするとしばらく休むことになるかもしれないな。」

 

なるほどリケジョ系ギャルか、ありだな。と思った時、彼は言った。

 

「どうやら、総理大臣が緊急記者会見を行うそうだ。テレビをつけてみよう。」

「へぇー、俺も見てみよ。」

 

テレビをつけると、そこには小学一年生くらいの女の子が、台に乗って話していた。その女の子は髪をポニーテールにし、卒業式などで着るような服を着ていた。

 

「繰り返ししますが、私はこの国の内閣総理大臣です。国民の皆様と同じように感染をしてしまいました。どうか落ち着いて対処してください。現在、国の総力をあげてこのウイルスの全容解明し、治療や特効薬の開発に努めていきます。」

 

どうやらあの女子小学生は総理大臣で、おそらく着る服がなかったため、あの卒業式で着るような服を着ているのだろう。それにしても、可愛らしくなってしまっている。

 

「確か、今の総理って60代後半だよな?めっちゃかわいくなってんなw」

「これじゃあ卒業式ごっこだなw」

 

そんなことを言い合っていたが、俺は無意識のうちに髪を耳にかける仕草をしていることに気づかなかった。

 

「長い会見になりそうだし、座ってみるかな。」

「そうした方がいいと思うよ。」

 

始めは立ってテレビを見ていたが、座ることにした。いつも通りに胡座をかいて座ろうとしたら、何故かぺたんと床に座っていた。所謂、女の子座りだった。

 

「あれ??俺っていつもこう座ってたっけ?」

「ん?どうした?」

「なんでだろう、胡座で座ろうと思ったら女の子座りになっちゃう。」

「そうなのか、何か変だな。」

「まあ、今は女の身体だし気にしても仕方ないかな。」

「とりあえず、座ればいいと思うよ。長い会見になりそうだし。」

「そうだな。」

 

女子小学生総理の会見は続いてる。まだ終わりそうに無い。正直、電話に夢中でしっかり話は聞いていない。

 

「そういえば、今日の星座占いで一位だったんだよ。折角、良いことあると思ったらこれだから困ったもんだ。」

「あれ、お前って占いとか非科学的で信じないって言ってなかったか?」

「そんな事言ったか?むしろ占いは好きだけどな。小学生の頃に友達の間で流行った時からずっとチェックしてるぞ。恋愛占いは特に気にしてるし。」

「お、おう。確か大学の頃そこまで話してなかったと思ったからな。実はそうだったんだな。」

「実はも何も、ずっとメイク雑誌見てたから知ってると思ったけど。」

「え??何を言っているんだ?お前、メイク雑誌なんて読んでなかったぞ??」

「あー!お前って言うのウザ!ちゃんと名前で呼ばないと女の子に嫌われるよ?」

「お、おう。すまなかった。」

 

なんだろう、今のやり取り。これまで少し違和感があったが、今のは明らかにおかしい。まるで、女の子の話し方だった。もしかしたら、時間が経つにつれて精神が身体に引っ張られて完全に女になってしまうのでは?そう思えて仕方なかった。

 

思えば、先程の女の子座りからして変だった。男の身体の時のように座ろうとしても、自然な流れで女の子座りになってしまう。と言うか、俺はいつの間にか長い髪を耳にかけていた。完全に無意識に行っていたと思うと恐ろしい。間違いなく、少しずつ精神が女に近づいている。

 

「ちょっといいか。俺たちは男だよな?」

「え?そうだけど?何言ってんのー。」

「そうだよな、間違ってないよな。」

「当然じゃん、変なのー。」

 

 

なんか、あいつの話し方が軽くなって気がする。でも男であることに間違いは無いだろう。

そう思ってたその時、総理の会見の様子が変わってきた。

 

「今後は、じ、じ、え?漢字が読めない。どうしてえ?あれ?なんだっけ?」

 

総理は急に漢字が読めなくなったと言うのだ。ある意味年相応なのだが、あの総理は言い間違いや会見で言葉が詰まる人ではなかったはずだ。

 

「え〜っと、え〜っと、あ!こんごは、あたまのいい人とお話をして、このびょーきをなおせるようにしていきます!」

「総理!いかがなさいましたか!?些か、言葉遣いが幼いと言いますか…」

 

急な総理の変化に、記者から思わず発言が飛び出る。

 

「うーんとね、よくわからないんだけど、かんじがよめないの。それにね、小さいこのおなしのしかたになっちゃうの。」

「総理!しっかりして下さい!!今は未知のウイルスによる危機なんですよ!!」

「ふ、ふえ、ふえええええええええんん!!!!おこられちゃったよおお!!!!ままああああ!!」

 

その瞬間、会場中がどよめいた。衝撃の瞬間だった。国のリーダーである総理大臣が幼女になっただけでなく、全国に向けて精神までも幼女になってしまったことが放映されてしまった。

 

「もうあたしこんなことやりたくないいいい!!!おうちかえるうううう!!!むずかしいことわかんないもんんん!!!!」 プツン

 

会見は中止になった。というかテレビがマズいと思ったのか放映を中止してしまった。これで思っていたことが確信に変わった。このウイルスは男性の身体を女性化させるだけでなく、精神までも女性化させてしまう恐ろしい感染症である。

 

「おい!!!見てたか今の会見!!ヤバいぞ!!俺たちも完全に女になっちまうぞ!!!」

 

会見に夢中になってた俺は、会話の途切れた電話に意識を向けた。そして、友人に非常にマズい状況であることを伝えた。

 

「うん!今見てたー!あの女の子小さいのにちょー頑張ってたから泣いちゃったんだねー。あーしの妹だったらもっとかわいい服着せてあげるけどなー。」

「…っ!!??」

 

もう手遅れだった。電話越しの友人は既に精神の女性化が完了していたのだ。外見に合わせてギャルになっているように思えた。

 

「えw返事ないんですけどー?もっしもーしw」

「そうか、もう手遅れだったんだな…」

「なんの話ししてんのー?w暗すぎてウケるw」

「ああ、もう絶望しかない…」

「そんなに暗いの珍しくなーい?w昔みたいに元気だしなよー。じゃあさ、カラオケ行く??折角アイドルになったんだから、歌聴きたいな!」

「え?アイドル?俺が?」

「大学行きながらアイドル研修生頑張ってたじゃん!大学卒業と同時に正規メンバーになれてめっちゃ嬉しいって言ってたじゃん!!あーしたちみんなでお祝いしたことずっと覚えてるし!てか、さっきから俺ってナニw新曲の設定が何か?w」

 

なんだその記憶!?俺は知らないぞと思った。しかし、そのことを言われた瞬間から、知らない記憶が溢れて始めた。

 

 

幼稚園の頃は歌とフリフリな服が好きで、髪型はいつもツインテール、何かあればすぐに歌ってたっけ。

 

小学生の頃はテレビに映るアイドルに釘付けで、音楽番組は毎回チェックをしていた。お小遣いを貯めてCDを買って、付いていた握手券を握りしめてお母さんと一緒に握手会に参加したのをすごく覚えている。

 

中学生の頃は友達とライブに行って、めっちゃ盛り上がった!やっぱり本物はかわいいなって思って、ダイエットしたり、服装やダンス、好きな歌を研究したなー。

 

高校生になって、両親に頭を下げてアイドル養成所に通わせてもらったんだった!もちろんお金が必要だから、頑張ってバイトして、バイト先でみんなに出会って、それぞれ夢を持っててそれに向けて頑張ったんだ!

 

大学は地元の短大に行って、一応資格は取ったけどやりたいことはやっぱりアイドルだった!他の子が正規メンバーになる中、全然正規メンバーになれなくて、泣けて、みんなに話聞いてもらって、みんなで泣いたのは今となってはいい思い出。

そこからめっちゃ努力して、練習して、短大卒業と同時に正規メンバーになれたんだ!!みんな自分のことのように喜んでくれた!お父さんとお母さんもすごく喜んでくれた!その時、あたしをここまで育ててくれてありがとうって思えて、3人で泣いちゃったんだよね。

 

 

「ごめん、あたし思い出したよ!」

「風邪で寝てたし、仕方ないっしょ!あーしもちゃんと覚えてないことあるし!」

「みんながあたしのことを応援してくれたから、今のあたしがあるんだよ!」

「元気出たみたいで良かったあ!あーしも今ギャル雑誌の編集部で頑張ってるのも、こうやって頑張る人がいたから頑張れた訳だし!あーしは頭は良くないかもだけど、ずっと前からギャルになりたかったし、その雑誌を作る立場になれてすごく楽しい!その勇気をくれたのは間違いなくアナタだからね!」

「も、もう!w。泣いちゃうじゃない!w。」

「いーじゃん、いーじゃん!w」

 

 

こうして、2人の心温まる会話は続くのであった。

 

 

全国で突如発生した未知のウイルスによるパンデミック。

感染するのは男性のみ、風邪の様な症状から始まり、咳が治ると同時に声が女性化、高熱が出ると体が女性の身体つきに変化、頭痛が起こると髪型伸びる。

人によっては口調や仕草、記憶に変化が生じることもあるようだ。

 

 

 

これは万が一に起こり得ることなのかもしれない……


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