ブルーアーカイブ~~キヴォトスに舞い降りる嵐≪ストーム≫~~ 作:ジョージ
正直レベル10とかのキャラがいきなりレベル60以上のダンジョンに放り込まれたようなものですよ。
っと、前書きで仕事の愚痴を失礼しました。とりあえずお楽しみください。
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ウィングダイバーを作り出したミレニアム生に会うため、ミレニアムサイエンススクールを訪れた俺を待っていた生徒は、かつての俺の戦友であるエアレイダーの精鋭、アイテールの転生した姿だった。思わぬ再会に喜びつつも、彼ならばと俺は納得した。そして次なる生徒に会うため、俺はミレニアムを出て、トリニティに向かった。
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ミレニアムを出た俺は、ハンヴィーに乗り今度はトリニティを目指した。
『トリニティ』。正式名称は『トリニティ総合学園』。ゲヘナ、ミレニアムと並ぶ三大校の一角だ。元々トリニティは、複数の学園が統合されて出来た学園らしく。かつてトリニティ統合の際、中心となった3つの学園があったそうだ。その名残から、現在トリニティ内部では3つの派閥が存在しており、それぞれ『パテル派』、『フィリウス派』、『サンクトゥス派』と呼ばれている。そして、それぞれの派閥のトップである3人がトリニティにとっての生徒会的存在、『ティーパーティー』と呼ばれている、らしい。
で、そのトリニティに属している、ウィングダイバーの名前を知る少女、天羽フウリ。まぁアイテールが転生しているくらいだからなぁ。ある程度予想は立つのだが。会ってみない事には分からんか。
そう思いつつハンヴィーを走らせていると、トリニティの自治区へ。……見た目は華やかな町並みだ。トリニティの学園の近くまで来たが、学園自体も、西洋風というべきか。ファンタジーやお嬢様学校、という単語が似合いそうな風景だ。近代都市や最先端という単語が似合うミレニアムとは、また違った雰囲気の自治区だ。
俺は先ほどと同じように、トリニティにほど近い駐車場にハンヴィーを止め、歩き出した。
先ほどまでのトリニティと違うのは、お昼時だからか、学園の近くにカフェらしいものがいくつもある。そしてそこで、生徒たちが優雅にティータイムに興じていた。成程、お嬢様という言葉が似合いそうな風景だ。
「あら?あれは?」
「え?」
そして、こちらが彼女達を目にしているという事は向こうも同じだ。カフェからこちらに、無数の視線が向けられる。
「あれは?」
「傭兵、なのかな?でもなんでトリニティに?」
「仕事の依頼でも受けたのでしょうか?正直、トリニティに相応しい存在だとは思えませんが?」
疑問。そしてそれに混じる、嘲笑。成程、こちらもお嬢様らしい。汗水流し、泥臭く戦う傭兵や兵士など、お気に召さないと。……露骨と言うか、ありきたりと言うか。そんな生徒たちの相手もしなければならない日が来るのか。そう思うと少し憂鬱だ。
しかし。
「あれ?もしかしてあの人って……」
ふと、視界の端で一人のトリニティ生徒がスマホのような端末を取り出し、操作し始める。それを横目に歩いていると。
「あぁっ!やっぱりっ!」
「ッ、ど、どうしたの?」
「あの人は、間違いないっ!この前、ハスミ先輩やスズミさんと一緒に連邦生徒会の建物を奪還したって言う、シャーレの先生だよっ!」
「「「えぇぇぇっ!?」」」
後ろから聞こえてくる、生徒たちの絶叫にも似た叫び。そう言えば、ユウカが俺たちの名前はすぐ広まる、みたいな事を言っていたな。その通りになった訳か。
後ろの騒めきを聞き流しながら、俺は約束の場所に向かう。やがて待ち合わせ場所の入り口前に到着すると、既に守月が待っていた。
「あっ、先生ッ。お待ちしておりましたっ!」
「すまんな守月。待たせてしまったか」
小走りで駆け寄って来る彼女に声をかける。
「いえ。こちらも先ほどついたばかりですから。さぁどうぞ。トリニティへ」
「あぁ。お邪魔させてもらうとしよう」
彼女に促されるまま、俺はトリニティ校内へ足を踏み入れた。
やはり、というべきか。トリニティ全体のイメージとしては、欧米のミッションスクールと言った感じだ。その中を、白や黒を基調とした学生服姿の生徒たちが行きかいながら、こちらを見てひそひそと話をしている。
「やはり、注目されているな」
「はい。何しろ、トリニティの学園内で、成人されている大人の男性など居ませんから。皆さん、先生が珍しいのだと思います」
「ミレニアムでも似たような反応だったが、こんな珍獣扱いされる程珍しいのか俺は」
まるで動物園のパンダだ、などと思いため息交じりに守月の後に続く。
「そう言えば、ミレニアムではユニットの開発者だという方とお会いになられたのですか?」
「あぁ。さっきな」
「そうでしたか。……それでその、その方は?先生の言うEDFの関係者の方か何か、だったのですか?」
周囲を気にしつつ声をかけてくる守月。が、これは言えんなぁ。秘密云々もそうだが、エンジニア部の女生徒の1人が、転生者で元戦友。しかも元男などと。
「あぁすまん。それについては色々と話せなくてな。関係者と言えば、関係者だったんだが」
「そう、だったのですか?」
「すまん。いつか時がくれば話せると思うが、今はな」
そう言って軽く守月に頭を下げる。
「いえ、気になさらないでください。軍属の関係者となれば、守秘義務のようなものもあるでしょうし。それくらいは私でも分かります」
そう言ってパタパタと手を横に振る守月。正直、助かった。追及されてしまった場合はどう誤魔化すか、考えていなかったからな。
「そう言って貰えると助かる」
内心、ホッとしていると。
「しかし。そうなると……」
なぜか守月が深刻そうな顔をしていた。
「ん?どうした?何か気になる事でもあるのか?」
と、俺が問いかけると、彼女は周囲を見回す。未だに俺は注目を集めているが、それでも距離は取られている。
「この場でお話しして良いのかは分かりませんが、念のためにお伝えしておきます。周囲に怪しまれないよう、驚かずに聞いてください」
「……あぁ」
何やら重要な話らしい。静かにこぶしを握り締めつつ、彼女の言葉を待つ。
「天羽さんは、先日の先生の伝言をお伝えした時、私にこう名乗りました。『ストームチームにて、ストーム4のコールサインを背負い戦った女だ』、と」
「……そうか」
守月が小さな声でそう伝えて来た時。驚きは、正直無かった。アイテールがトドロキとして転生している以上、もしかしたらと思う自分が居たからだ。やはりか、と思う自分が、心の中にいたのだ。
「……あまり、驚かれないのですね」
「あぁ。実を言うと、ミレニアムで会った開発者の一件でな。正直、天羽フウリがそのコールサインを名乗っても、驚かないだけの理由があるのさ」
「その理由については?」
「すまんが今は答えられん。が、天羽は君に自らの素性を名乗ったのだろう?ならば、後で聞いてみると言い。恐らく話してくれるはずだ」
「そう、ですか。分かりました」
そんな会話をしながら歩いていると、敷地内にある東屋の一つで、少女が待っていた。紅い髪の少女が徐にこちらに振り返る。碧眼を備えた瞳が僅かに開き、ついで彼女は笑みを浮かべた。
「はっ、ははははっ!おやおやおやっ」
笑み、と言ってもどこか狂暴なそれを浮かべながら彼女は立ち上がる。
「スズミから聞いていてもしやと思って居たがっ、本当にお前だったのだな、大尉」
「今の俺を見て、その階級で呼ぶという事は、やはりお前は……」
これは答え合わせだ。分かって入る。目の前の女は、あの女傑だ。だが、確かめなければな。
「『スプリガン』。お前なのか?」
「あぁ、そうだとも。共に戦火を潜り抜けた、お前たちの守護天使だぞ?」
そう言って自信たっぷりにニヤリと笑みを浮かべる彼女。ふっ、自らを守護天使なんて豪語するのは、俺の知人でスプリガンくらいだろう。
「久しいな、ストーム2」
だが、そんな彼女も、次いで慈愛に満ちた笑みを浮かべながら右手を差し出してきた。
「またお前に会えるとはな。人生は分からないものだ」
「それは俺もだ。だが、また会えてうれしいよ」
俺も右手を差し出し、握手を交わす。
「さて。では大尉。あぁいや、ここでの私は生徒なのだから、先生と呼ぶべきか?」
「あぁ。出来ればそうしてくれ。でないと外野に俺たちの関係性を疑われる」
こめかみに手を当て、眉を顰めるスプリガン、いや。天羽フウリにそう声をかける。
「了解した。ならば、私の事をお話しするとしようか、せ・ん・せ・い?」
「ふっ、そうだな」
わざとらしい天羽に苦笑しつつ、傍で俺たちを見守っていた守月も居れた3人で、東屋の丸テーブルを囲う椅子にそれぞれ腰を下ろした。
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「さて。まず何から話したものか」
そう言って、天羽は胸の前で腕を組む。
「俺の方は、先ほどミレニアムで磐井トドロキ。つまりアイテールに会ってきた所だ。お前はそのことは……?」
「あぁ。知っているよ。と言っても、奴と再会したのは偶然だったがな」
「その経緯を聞いても?」
俺の問いかけに彼女は、『あぁ』と頷く。
「アイテールの話を聞いているのなら知っていると思うが、私も奴と一緒だ。プライマーとの戦争後、老衰で眠りについたはずが、気づいたらこのキヴォトスで天羽フウリという人物に転生していた。その後は、このキヴォトスで普通に生活をし、このトリニティに入学し、今に至ると。まぁこういう訳だ」
「そうか。しかし、なんだってこのキヴォトスでウィングダイバーユニットの開発を?」
「あぁ。あれは、単純に私が空を飛びたかったから。それだけだ」
そう言って彼女は肩をすくめた。が、しかしなぁ。
「おいおい。元々俺たちの世界では民間でもつかわれている技術とは言え、一応は軍事技術の塊だぞ?それも、キヴォトス側から見ればオーバーテクノロジーの塊だ。それを良くキヴォトスで生産しようと思ったな?」
「正直、最初は期待していなかったのが本音だ。私も技術畑の人間では無かったからな。大まかな内部機構は理解していても、それだけで再現できるとは思って居なかったさ。作れれば良いな、程度の考えでミレニアムのエンジニア部を訪ねたが、そこにいたのが当時1年のアイテール、磐井トドロキだったという訳さ。最初はお互いに素性を知らなかったが、私がウィングダイバーユニットの構想などを話すと驚いた様子でこっそり接触してきたよ。『EDFを知っているのか?』とな。後は前世を話し合えば、まさか相手が前世の戦友だったからびっくりだっ!」
そう言って大仰に両手を広げる天羽。
「成程。それでか」
「結果的に技術知識のあったアイテールの、いや、ここではトドロキと言うべきか。彼、っとこれも違うな。彼女のおかげでユニットは短期間で完成した、という訳さ」
成程な。流れとしてはそんな感じだったという訳か。
「それで?トドロキにも聞いたが、お前は天羽フウリとして今後どうするつもりだ?あいつは今の所、学生としてやって行くそうだ」
「そうか。なら、私も同じだな。幸いここは平和だ。のんびりと第2の人生を過ごすさ」
そう言って背もたれに寄り掛かる天羽。
「平和か?銃撃戦がデフォルトみたいなこのキヴォトスが?」
そんな彼女に苦笑交じりに問いかける。
「あぁ。平和だろうさ。少なくとも、プライマーとの戦争で、いつ自分が死ぬかも分からない、地獄の戦場に比べればここは天国だろうさ」
「………」
多少の皮肉と、戦争を生き延びた彼女の実感混じりの言葉に俺は口を閉じた。
「確かに、キヴォトスは銃社会だ。成人もしてない若い子供が、まるでアクセサリー感覚で銃をぶら下げている」
天羽は、東屋から見える周囲に目を向けた。その視線を追うと、トリニティの生徒らしい女生徒達が談笑しながら歩いているのが見えた。そして彼女達は、スリングベルトやホルスターを用いて、ライフルやハンドガンを携帯している。
「銃撃戦にしてもそうだ。キヴォトスの住人は生徒を含め体が頑強だ。銃弾程度で簡単に死にはしない。おかげで銃撃戦と言えど、喧嘩の延長線上のような認識だ」
「……俺たちの居た場所では、考えられん事だな」
彼女は俺の言葉に頷きつつも、言葉を続けた。
「その手に銃を持った、いや。今も銃を持っているという点では、兵士であった私達と生徒たちは似ているだろう。だが、銃を用いてプライマーと戦う事が当たり前だった我々と、銃を用いて戦う事が日常的に起こるキヴォトスで暮らす彼女達。それらは似ているようで、だが決して同じではない」
「その違いとは?」
「……彼女達は我々と同じく『銃を用いた戦闘』は知っているだろう。だがしかし『戦場』を知らない。我々と違ってな」
そう語る彼女の表情は、真剣そのものであった。
「倒れ行く仲間。消える命の火。崩れ去る町並み。撃てどもどこからか湧いてくる、地平を埋め尽くす敵の大群。日々数を減らしていく味方。敵に殺され死ぬか、戦って生き残る以外の選択肢が無い地獄。……それが、私達がプライマーとの戦争で経験した『戦場』だ。地獄だ。だが彼女達は、そんな地獄のような戦場を知らない」
彼女の言う光景が、容易に頭の中に浮かぶ。俺も、そんな地獄を生き延びて来た1人なのだから。
彼女は、遠くで談笑し笑いあう生徒たちを、どこか優しい目で見つめていた。
「あんな地獄に足を踏み入れる必要のないこのキヴォトスは、あの大戦を生き残った我々からすれば、天国でしかないさ。実際、そうだろう?あの地獄に比べれば、銃を持った生徒があちこち歩き回っていて、喧嘩としての銃撃戦が日常茶飯事な事くらい、『可愛いもの』さ」
「あぁ。そうだな」
どこか達観した彼女の笑みと言葉。しかし俺はそれに同意した。
そうだな。あの地獄に比べれば、銃撃戦がある事自体は、確かに戦後の平和な世界と比べれば驚き戸惑うだろう。だが、あの地獄の戦場を知る者としては、あの地獄に比べれば。
『生徒同士の、喧嘩としての銃撃戦など、可愛い物だ』
そう、思えてしまう自分が居た。
「平和だよ。このキヴォトスは。あの、プライマーとの戦中の地獄に比べれば、な」
「それでお前は?この平和なキヴォトスで生きてみたい、とでも?」
「そんなところだ。明日のわが身を心配せずに過ごせる今の状況を、私は結構気に入っているんだ。だから、今はとりあえずこの平穏や自由を堪能しようと思って居るのさ」
「そうか」
それが天羽の考え方か。
「だがまぁ、そうだな。かつて共に戦った仲だ。力になれる事があれば、声の一つでも描けて来い。いざという時は助けてやる。まぁ、こっちがヤバい時は逆に助けてもらうかもしれないがな」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべる天羽。
「了解した。俺としてもかつての戦友の頼みだ。受けるのはやぶさかではない。何かあれば連絡をくれ」
「そうか。ならば連絡先の交換と行こう」
そう言って端末を取り出した天羽と、モモトークの連絡先を交換する。そして、話題は次の事へ。
「そうだ。お前はトリニティ生だろう?出来れば聞いておきたい事がある」
「ん?なんだ?」
「率直に言って、今のトリニティはどんな感じだ?天羽フウリという生徒であるスプリガン、お前の目から見たこの学園の事を知りたい。今後の参考のためにな」
「……成程な」
彼女はどこか神妙な雰囲気で静かに頷いた。
「大尉はこの学園の事、どこまで知っている?」
「かつてあった、複数の学園が統合して出来た事と、その中心的存在だった3つの学園があり、その名残で今のトリニティの3つの分派がある事。その3つの分派の長である3人が学園のトップであり、それがティーパーティーと呼ばれている事、くらいだな」
「そうか。……最初に言っておくと、傍から見ればトリニティはお嬢様学校のように見えるだろう。だが内部はかなり『ひどい』ぞ?」
「ッ……!」
今まで会話を黙って聞いていた守月が僅かに息を飲む。それを一瞥しつつ、天羽に目を向ける。
「酷い、とは?」
「3つの分派は、はっきり言って仲が悪い。今の所は表立って対立する事は無いが、それでも自分たちの派閥が他より優れていると思い込んでいる節がある。まぁ、派閥なんてあれば対立が生まれるのは当然だ。加えて、派閥内部でも序列のような物がある。上の者に下の者は従うしかない。逆らえばどんなイジメにあうか。更に派閥内部でも上に行こうと他者の足を引っ張る輩も少なくない。おかげで裏では、派閥の内外を問わず足の引っ張り合いが日常茶飯事だ」
「……まるで大昔の貴族社会みたいだな」
「権力闘争に明け暮れ互いの足を引っ張り合う様をそう言うのなら、まさにその通りだ。はた目にはお綺麗な学園に見えるだろうが、内部はドロドロだぞ?」
「……ミレニアムも生徒会長である生徒が最近スタンドプレーに走っていると聞くし、ここも問題を抱えている、と」
俺は腕を組み背もたれに寄り掛かる。
「はっ。残念だが、今の所問題の無い学園など無いさ。このキヴォトスの各学園は、アメリカで言う州だ。各学園の生徒会が各州の州政府のようなものだ。連邦生徒会はそれらの上に位置する、文字通りの連邦政府、と言った所だ。だが、それらをまとめているのはまだ20にも満たない子供たちだぞ?当然、上手く行かない事の方が多い」
彼女は更に言葉を続けた。
「トリニティは今言った通りだ。ミレニアムは最先端技術の宝庫だ。それを狙う悪い大人も居るし、今上がったミレニアムのトップのスタンドプレーも気になるな?ゲヘナに至っては銃撃戦など日常茶飯事。聞いた話だが、ゲヘナの風紀委員は他校の風紀委員とは比較にならない程の激務らしいしな。それに件の連邦生徒会長の失踪後の各学園で発生した問題も、癒えていない。連邦生徒会の行政権は取り戻せたと言っても、はっきり言ってこれ以上の事態の悪化を食い止めたに過ぎない。金や人員に余裕のない学園は立て直しだけで相当の時間を使うだろう。当然、こんな事態を招いた連邦生徒会に対して反感を持つ奴も少なからずいる」
「……頭が痛くなってきた」
本当にあちこちで問題が山積みじゃないか。これは、到底俺たち4人で対処しきれる数じゃないぞ。そう思うと頭が痛くなってきた。思わず声に出しながら、ヘルメット越しにこめかみの辺りに手を当てる。
「だろうな。本当に問題は山積みだ。………で?それらを踏まえた上でお前はどうするんだ?先生」
どこか試すような視線で天羽がこちらを見つめてくる。これは、俺の心意気を試しているのか。ならば、真正面から答えるとしよう。
「理由は知らんが、これでも頼られた身だ。今更投げ出すつもりはない。どれだけ忙しかろうが、先生としてここにいる事を選んだ以上、その職務を全うするだけだ」
「成程。真面目なお前らしい答えだな。だが、それが聞けただけでも良しとしよう」
そう言うと、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「改めて、よろしく頼むぞ、先生」
「あぁ。任せろスプリガン。いや、天羽」
「ふっ、その言葉に今は、期待するとしようか」
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そんなやり取りをした後、俺はトリニティを後にすることに。が、去り際の事だった。
「そうだ先生。もしその気があるのなら、ゲヘナの風紀委員会を訪ねると言いだろう」
「ゲヘナの?なぜだ?」
「なに、ちょっとした助言だ。あそこには、『死神』と呼ばれる奴がいる」
「ッ、死神……ッ!?まさかそれはっ!?」
「おっとっ。リップサービスはここまでだ」
そう言って驚く俺に、満足げに笑いかけながら天羽は守月と共に去って行った。
俺はそれを、数秒呆然としながら見送る事しか出来なかった。だが、数秒して笑みを浮かべた。
正直、アイテールもスプリガンも居るのだから、『あいつ』がいるかもしれないとは思って居たが、そうか。ゲヘナにいるのだな。あの、『漆黒の装甲を纏った死神』が。
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一方、フウリとスズミはというと……。
2人はレンジャー1を見送った正門から、校舎に向かって歩いていた。その最中。
「……あの、天羽さん、さっきの話は……?」
「全て本当さ」
少し不安そうな表情で静かに問いかけてくるスズミに、しかしフウリは気にした様子もなく、あっけらかんとしたまま答えた。
「……一つ、聞いて良いですか?」
「なんだ?」
「天羽さんの経験した戦場は、天羽さん程の方が地獄と評する程、なのですか?」
「あぁ。そうだ」
後ろからのスズミの質問に、しかし彼女は振り返らず答える。
「誇りある最期など無い。生きたまま化け物に喰われるか溶かされるか。塵1つ残らず消し去られるか。……互いに引き際なんて物はない。相手を滅ぼすまで終わらない、絶滅戦争だった」
「それは、キヴォトスでの銃撃戦が、可愛いと言える程のモノだったのですか?」
「あぁ。容易く命が消えていく、地獄だったよ」
その声色には、まるで過去の何かを思い出して悲しみに暮れるような、そんな声が混じっているような気がしたスズミ。
「一体、天羽さんたちはどんな戦場を経験して……」
「ストップだスズミ」
言葉を続けようとしたスズミをフウリが制する。そして振り返った視線は、まるで剥き身の刀身のように鋭く、思わずスズミは息を飲んでしまった。
「知りたいという欲求は、誰しもが持つだろう。だが、地獄は知らないだけで幸せなのだ。だから忠告しておく。私の前世での素性など、聞かれればいくらでも答えてやろう。だが、『戦場』だけは知ろうとするな。お前が、いや。お前たち生徒がそれを知る必要は無い。良いな?」
「は、はい」
かつて彼女を前にして素性を語った時のフウリ以上の覇気が、スズミに襲い掛かった。それに気圧された彼女は、頷くしかなかった。
「ならば、良い。行くぞ」
「はい」
スズミは静かにフウリの後を追う。しかしそれでも、彼女の中の疑問が消えた訳ではない。
『天羽さんと、それに先生たちは、一体どんな死闘を繰り広げて?』
そんな疑念を心の奥に押し込みながら、スズミはフウリの後を追うのだった。
第10話 END
楽しんでいただければ幸いです。新しい職場が忙しくて投稿頻度が劇落ちしてますが、気長にお待ちいただければ幸いです。コメントや評価も励みになるので、良ければお願いします。