転生者が13人同じ屋根の下、何か起こるはずもなく…   作:希捨酸

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シェリハン…いいよね……

コメディ?ちょっと在庫が切れてて……すまんね。


私が守護らねば…

 

 

 

遠野ハンナは一人になりたい時、図書室で本を読む。

暇すぎたメルルによって置かれた普通の本、その中から気になるものを何冊か選んで机に座って読み始める。丁度一冊読み終わったところで

 

「わ、わぁ〜い図書室だぁ〜〜。来たかったんだよね〜図書室。」

 

と、下手くそすぎる演技とともに橘シェリーが入ってきた。

 

 

 

 

遠野ハンナは転生者であった。

そして、察しの良い女であった。

 

エマヒロの距離感、三下ゴクチョー、抵抗しないなれはて、あと謎に建設中のジェットコースター。彼女には十分すぎるヒントであった。

 

……他の転生者達の察しが悪いだけかもしれない。

 

 

察しが良いだけでなく空気も読める女、遠野ハンナは静観することにした。

黙ってた方がオモロいやろなぁと少し思ったことは否定しないが。

 

みんな自分のことで手一杯。遠くから眺めてるだけで表情をコロコロ変えてよくわからない奇行に走る。

殺人が起きないように気をつけていればいいし、見る限りきっと起きないだろう。

 

遠野ハンナはいい空気を吸って生きていた。

 

 

しかしそんな生活の中で唯一ハンナに絡んでくる者がいた。

 

橘シェリーである。

 

 

 

 

「ね、ねぇハンナちゃ……ハンナさん!」

 

水色の髪の毛が跳ねる。視線はせわしなく動き、ぎこちない笑みを浮かべていた。

 

「何か困ってることはない?ぼ…私にできることってあるかな?」

 

さてどうしたものかな、とハンナは本から顔を上げた。

 

 

 

 

橘シェリーは転生者であった。

 

彼女にとって橘シェリーは憧れであった。

 

自分自身を『怪物』としながらも誰かのためにその怪物の力を振るう、そんな人。皆が不安な状況でも一人明るく振る舞い、殺人事件が起きればデリカシーのない発言をすることで死への恐怖を自分への怒りへ変えてしまう。

そして裁判では的を射た発言で議論を動かしつつも、弁論が苦手なハンナを敢えてやり玉にあげることでいち早く被疑者から外させる。

 

常に周りに気を配り、勇敢であり、機転も利いて頭の回転も速い。

 

引っ込み思案で要領があまり良くなかった彼女にとって橘シェリーとは、目指すべき目標。ヒーローであった。

 

橘シェリーがこの牢屋敷で目を覚ました時に誓ったこと。それは遠野ハンナを守護ることだ。

 

僕は橘シェリーではない。

 

それでも。いや、()()()()()『橘シェリー』にとって大切な遠野ハンナを守る。

 

それが橘シェリーになった僕の唯一できることだ。

 

 

 

 

 

(……とでも考えているのでしょうね)

 

察しがいい女、遠野ハンナは橘シェリーの考えはだいたい分かっていた。

 

しかし悲しきかな。遠野ハンナは守られるどころか牢屋敷の中で一番のエンジョイ勢である。

 

とはいえ心の中でプチ反省会を開きながらちょっと涙目になりかけている彼女を無視してしまうのもかわいそうだ。

 

「お気遣いありがとうございまし。では、この本を元の場所に戻してくれませんこと?」

 

そう言って読み終わった本を渡す。タイトルは『3段パンケーキから読み解く線形代数学』クソみたいな内容で、無価値な時間を過ごした。

ちなみに目次を縦読みすると『トレデキム』になる。著者は転生者であった。

 

 

正直この『おつかい』はしてもらっても特段嬉しくない。

読み終わった本を戻しながら次の本を探すのが彼女のスタイルだし、第一全部の本を一気に戻した方が効率的だ。

 

 

そんなことも露知らずシェリーはぱぁっと顔を輝かせて両手で大事そうに本を抱え、本棚に向かって走り出した。

 

「走ると危ないですわよ」とそれだけ言って、本に目を落とした。

 

 

 

────────────────────────────

 

本を渡してかなり時間が経ったが、まだシェリーは本を元の場所に戻せてなかった。

当然だ。あの本の分類は分かりにくい。あれは哲学の棚にあった。

 

少し悪いことをしたな。と思いながらもシェリーが歩き回る音をBGMに本を読み進める。

 

 

『将棋テニスのルールと歴史』

私の知らないスポーツかと思ったらそんなことは全くなく、ひたすらに存在しない国の存在しないスポーツの存在しない選手に思いを馳せる詩集だった。

ちなみに全ての詩の1文字目を繋げて読むと新宝島の歌詞になる。著者はサ〇ナクションのファンであった。転生者ではない。

 

1度読み始めた本を途中で投げ捨てるのは彼女の信義に反するからしたくないが……カスみたいな文章だ。

 

 

目と首と頭が痛くて顔を上げると、肩越しに後ろからシェリーが本を覗いていた。

いつの間にか本は返し終わったようだ。

普段『橘シェリーらしく』笑顔の彼女はなかなかしない、真面目な顔で集中した目で見ていた。

 

 

「……こんな本、見てて楽しいんですの?」

 

この本は駄文も駄文。ただの怪文書だ。

普通に読んでも訳が分からないのに途中からだなんて、どれだけ真面目に読んだとて一欠片も理解できないだろう。

 

 

「あ……いえ…………その」

 

シェリーは目をそらして顔を赤らめる。

 

「ハンナさんが好きなものが……どんなものか知りたくて…………」

 

 

そう言いながら浮かべた笑みは普段のぎこちない笑顔よりずっと自然で、ずっと綺麗だった。

 

気の利いたひと言も浮かばないでただ目を見つめる。

シェリーはだんだん焦り始めて目を白黒させて面白いくらいに慌てだした。

言葉選びを間違えたとでも思っているのか。

 

「好きにしてくださいまし」気持ちがこぼれすぎないように抑えて言ったそのひと言は、想定よりも半音、高かった。

結局本は最後まで読んでもクソみたいな内容だった。

それでも、さっきとは違って無価値な時間ではなかった。そんな気がした。

 

 

 

 

なぜ本を元の場所を教えないで渡すのか。

 

遠野ハンナはこう答える。

 

「シェリーさんをあしらいたいなら可能な限り仕事時間は長くなる方が理想的。でしょ?」

 

 

全員転生者だというこの秘密(手札)は、他の人に知られない方が望ましい。

 

暴くのは得意だが隠すのは苦手な彼女にとって、誰とも関わらないのが最善策。

唯一関わってくる橘シェリーには適当な仕事をさせて近づかせない。確かに合理的だ。でも……

 

 

「自分の好きな人が、ずぅっとそばに居たら……パンクしちゃうものね?」

 

 

察しの良い彼女はそんな心の声に、察しの悪いフリをした。

 

 

 

 

 

遠野ハンナは一人になりたい時、図書室で本を読む。

大切な人が自分のために、自分のためだけに本の森の中を何分も歩き回る。

 

 

そんな時間は、長い方がいい。

 

 

 





作者はこういうのが好みです。コメディ君はそのための犠牲さ。

将棋テニスでググッたら将棋少年がテニスをする漫画がありました。びっくり。

シェリーちゃんほめほめゾーン(彼女にとって橘シェリーは憧れであった。以降)は友人のシェリー推しに手伝ってもらいました。マジ感謝。ただし参考にしただけなので解釈違いへの文句は作者に。

次話についてちょっとアンケ取ります。ユキちゃんについての話は最後に書こうかな、と思っていたのですがこの世界の魔女因子についてとかこれまでの牢屋敷とかについて気になってる人が多そうだな〜と感じています。

本作品は1話完結のカスコメディですので順番はあんまり関係ありません。深く考えず読みたい方に投票お願いします。
ただし投票結果は参考にしますが全然無視するかもしれません。ごめんね。



次の話

  • ミリア(別のになるかも)
  • ユキ
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