暗殺者、高度育成高校へ入学   作:阿院修太郎

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4話

 

 

入学してから3週間。

 

およそ学校にも慣れてきた頃と授業が非常に緩いのもあってクラスの実に三分の二が私語、端末弄り、居眠りなどをしている。かくいうオレもお菓子を食べたり、居眠りをするなど好き放題に過ごさせてもらってる。

 

「……ねえ。あなた、それでいいと思っているの?」

 

後ろから氷のように冷たい声が飛んできた。堀北鈴音だ。彼女はこの荒廃したクラスの中で、真面目に授業を受けている1人だ。

 

「んー? なにが? 先生も何も言わないんだし、いいんじゃない?」

 

「『自由』には責任が伴うものよ。こんな異常な光景が、進学校で許されるはずがないわ。……あなた、少しは危機感を持ったらどうかしら。その頭の中は、お菓子でいっぱいなの?」

 

「ひっでー。ま、そん時はそん時で考えるよ」

 

オレは適当に受け流す。

 

3時間目の社会。この授業は担任である茶柱の授業である。

 

「ちょっと静かにしろー。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けて貰うぞ」

 

「どういうことっすかー。佐枝ちゃんセンセー」

 

既にそんな愛称で呼ばれている。

 

「月末だからな。小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」

 

後ろから1枚のプリントが届く。5科目がひとつにまとまったものであった

 

「そう言うな。今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績には反映されることはない。ノーリスクだから安心しろ。ただしカンニングは当然厳禁だぞ」

 

随分と含みのある言い方だな。ま、どうでもいいけどさ。

 

テストが始まり問題を見ると1科目4問で各5点ずつの全20問。

 

それを見てオレは驚愕した。あまりにも簡単すぎたことに、受験の時の方が難しい。

 

そう思いながら最後まで見てみると最後の三問だけ異常に難しい問題であった。これは高校1年生が解ける範囲を大きく逸脱していた。

 

特に最後の数学。複数の高度な公式を組み合わせ、複雑な数式を組み立てなければ、正解に辿り着くことすらできない難問。

 

それにしてもさ『真面目にやれ』なんて言われるとさ……真面目にやりたくなくなっちゃうんだよね。

 

オレは早々に適当に解いて夢の中に身を預けた。

 

「そこまでだ。後ろから回収しろ」

 

茶柱の声で意識を引き戻される。オレは適当に埋めた解答用紙を前の生徒に回した。

 

教室を見渡すと、「全然解けなかったわー」と笑い合う池たちの姿がある。彼らにとって、このテストは茶柱先生の言う通り「ノーリスク」な暇つぶしに過ぎない。

 

「……キルア、最後の方の問題、解けたか?」

 

隣から、綾小路が小声で話しかけてきた。

 

「ん? ああ、適当に埋めたよ。あんなの、計算するだけ無駄だし。綾小路は?」

 

「俺もだ。あんな難問、誰にも解けないだろ」

 

そう言う綾小路の表情は、いつも通り起伏がない。だが、オレはあいつの答案がチラリと見えた時、最後の難問の途中式が、信じられないほど正確に書き込まれていたのを見逃さなかった。

 

だからと言ってこいつの隠し事を炙り出す趣味もないけど。

 

放課後。

 

オレと綾小路は池、山内、櫛田を含めた数人で遊ばないかと誘われる。折角なので行ってみることに。

 

櫛田が遅れて到着するが、一緒に平田と軽井沢、松下、森がいた。

 

池と山内は平田と軽井沢を追い出したかったようだが、櫛田に嫌われるのを避けたかったのか尤もらしいことを言って行動を共にすると話が纏まる。

 

「ねぇ平田君、次あっちのお店も見たい!」

 

「いいよ。じゃあ行こうか」

 

平田は、両手に大量の紙袋を抱えていた。入学して3週間目に誕生した「Dクラスの美男美女カップル」、平田と軽井沢。彼女である軽井沢のわがままに嫌な顔一つせず付き合う平田の姿に、オレは半ば呆れ、半ば感心していた。

 

「あいつ、本当に荷物持ち(ポーター)の修行でもしてるわけ? ……ま、本人がいいならいいけどさ」

 

一通り買い物を終えた一行は、モール内のカフェに腰を落ち着けた。

冷たいドリンクと、オレがポイントで惜しみなく注文した菓子がテーブルに並ぶ。

 

「ふぅ……。改めて聞くけど、みんな、学校生活にはもう慣れたかい?」

 

平田が、場を回すように穏やかな口調で切り出した。

 

「慣れた慣れた! マジで最高の学校だよな。10万ポイントもあれば、遊び放題だしさ!」

 

池がストローを咥えたまま、能天気に答える。

 

「そうそう! 先生も緩いし、授業中スマホいじってても何も言われないしな。俺、一生ここで暮らしたいわー」

 

山内も、手に入れたばかりのゲームソフトを眺めながら鼻歌交じりに同意した。

 

クラスの大半が抱いている、この「楽観思考」。

国が運営するエリート校という看板と、あまりにも甘すぎる管理体制。そのギャップを疑う者は、ここにはほとんどいないようだった。

 

「キルア君と綾小路君はどう? 楽しめてるかな?」

 

不意に、櫛田が上目遣いで二人に話を振った。

 

オレはチョコを一粒放り込み、ポリポリと噛み砕きながら、池たちと同じようなトーンで答えた。

 

「んー、まあね。毎日美味いもん食えるし、家のうるさい連中もいないし。最高の暇つぶしになってるよ」

 

続いて、視線は隣の綾小路へと向けられる。

 

「……綾小路君は?」

 

綾小路は、空になったグラスの底をじっと見つめたまま、数秒置いてからぽつりと呟いた。

 

「どうかな……。まだ実感ないていうか。良くわからない」

 

「なんだよそれ」

 

「僕は何となく、綾小路くんが言ってることがわかる気がするよ。だからこそ、こんなんで本当に未来ある若者を育成できるのかな?」

 

「んなの、考えすぎだろ」

 

平田が言ってることは最もな懸念だろう。だが、今更何かしたところでという話だ。

 

それも来月になればわかることかな。

 

 

 

 

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