夜のように静かな森の奥、風が白い炎のように揺れていました。
その中心に立つ少女──銀眼のリシアは、まるで世界から切り取られた、ひとひらの絵のようでした。
銀の瞳は、星が落ちて固まったように澄んでいて。 白い髪は、ふれれば溶けてしまいそうなほどやわらかく輝いていて。
リシアの表情は、どこまでも静かでした。
悲しみでもなく、怒りでもなく──ただひとつの願いだけを宿す、静かな光。
その声は、とてもとても小さくて、風に混ざって消えていきます。
そこには、千年を越えて積もった想いが込められていました。
リシアは胸に手を当て、ゆっくりと目を閉じました。
弱い光。だけれどもとても優しい光
世界で一番、大切だった光。
「もう一度……」
祈るように囁くと、足元の魔法陣が淡く光りはじめました。
風が震え、小さな葉が宙に浮かびあがりました。
青白い光の輪が森に広がりそしていっぱいまで広がったあと収縮していきます。
祈りと魔法が、ひとつになってゆきます。
リシアの銀の瞳が開かれたとき── その奥には、決して消えない決意が宿っていました。
「……必ず」
その声は、世界の中心に触れるほどに澄んでいました。
こうして銀眼のリシアの物語は、静かに動きはじめたのです。
***
苦しかった。
街を歩くだけで、息が切れた。
ハロウィンの飾りで賑わう通りを、僕は歩いていた。
仮装した人々が笑いながら行き交う通りを僕は歩いていた。
その中では僕だけがまるで異世界に迷い込んだ異物みたいだった。
周囲の喧騒とは裏腹に、僕の心は平坦で「世界から拒絶されている」ように感じられた。
小さな頃からずっと身体が弱かった。
遠足、運動会、家族旅行──行事のたびに倒れて熱を出した。
それでも父も母も年の離れた姉も、誰ひとり僕を責めなかった。
クラスメートも、友達も、優しかった。
「大丈夫だよ」と言ってくれた。
「無理しなくていいよ」と言ってくれた。
「君のペースで大丈夫」と励ましてくれた。
その言葉は本来なら救いのはずだった。
……だけれども。
その優しさが、かえって僕の胸に突き刺さった。
僕には眩しすぎて、抱えきれなくて、
“情けない自分” をそのたびに突きつけられているようで、苦しかった。
せめて普通になりたい──そう思って努力してもそのたび、やっぱり僕は熱を出して寝込み、また周囲に迷惑をかけた。
それでもどうにかこうにか進学し、大学を卒業し、
ようやく「人並み」と言える就職先が決まった矢先だった。
「ガンですね」
主治医の声はどこまでも静かで、僕の思い込みかもしれないけど無機質にすら聞こえた。
治療方針、これからの生活、余命のこと、これからのことを淡々と告げられた。
姉は泣いていたと思う。
両親は目に見えて困惑していたけれど、きっとたくさん話し合ったのだろう、考えたのだろう
次の日にはしっかりと僕の目を見て「大丈夫」だと言ってくれた。いつもと同じように。
泣き腫らしたであろう母の目が、よく寝れなかったのだろう父の顔が印象的だった。
なんて優しいんだろう、なんて強いんだろう
なんて頼もしいんだろう
でも僕は、だけど僕は──悲しみよりも、嬉しさよりも、ありがたさよりも
ただただ“情けなさ”でいっぱいだった。
病気の自分も、弱い自分も、
未来をつくりだせない自分も、
全部、全部、惨めで弱くて情けなくて最悪だった。
優しさを素直に受け入れられない、両親の決意に感謝すらできない自分が
格好悪くて
嫌だった
だから。
投薬治療の合間の仮退院の日、
僕は誰にも言わず街に出た。
家族にも、病室で仲良くなったあの子にも告げず……
鬱屈した気持ちをどうにかしたくて