冒険の始まり。
僕はあの広大な平原を越えていくんだ――!
と、不安と期待に胸を躍らせる僕とは裏腹に、リシアはスタスタと僕を先導しながら、平原とは真逆。
森の奥の方へと歩みを進める。
しばらく行ったところで意を決して言った。
「リシア! 平原は反対だと思うけど……?」
僕が言うと、
「魔の平原は大変危険なところでございます。あんな平原に踏み出す無謀なものなど、普通はおりません」
と、さも当然のように言ってのけた。
いや、昨日まで端っことはいえ、僕あそこで修行してたよね?
踏み出してたよね?
今「あんな平原」って言ったよね?
やっぱりあそこって、ヤバいところだったの?
昨日までは大丈夫って言ってたのに?
色々言いたいことはあるけれど、今更言ってもどうにもならない。
森を抜けて行くのだろうか?
そう思ってリシアの後ろをついて、数時間。
リシアは慣れた様子で森を抜け、そこは開けた広場のようなところだった。
広場の真ん中には石でできた祠のような――人工物とも自然物とも見える建物?がぽつんと建っていた。
けれど僕の目を引いたのは、その建物ではなく。
その周りに輝く光の帯だった。
微かに光る帯のようなものが建物を守るように、建物を中心にゆっくりと旋回している。
よく見るとその帯には既視感があった。
DNA螺旋だっけ? なんか昔授業で習ったような……それに似た何かだ。
「リシア、これは?」
僕が尋ねると、
「風の祠にございます」
リシアは端的に答えた。
周りの光る帯は魔法陣であり、同時に結界の役割も備えているのだという。
言われてみれば、光の外側には苔があり木の根もあるのに、光の内側には何も生えていない。
広場に見えたのはそのせいだ。
風の祠は神話の時代から存在するもので、この祠は世界中の他の風の祠と繋がっている。
これを使えば世界中、祠のあるところなら一瞬で転移できるのだという。
「この祠を使えば人も物も一瞬で移送することが可能です。
ですが、それは大変危険なもの。
一歩間違えればこの世界の均衡を壊しかねません。ゆえにこうして厳重に守られているのです」
リシアは葉っぱを一枚掌の上に乗せ、フッと息を吹きかけた。
まるでリシアの息に導かれるように葉はゆらゆらと結界のほうに飛んでいく。
そして光に触れた瞬間――消失した。
弾けたとか、燃えたとか、そんなものではなく文字通り“消え去った”のだ。
つまり、この結界をどうにかしないと祠は使えないってことだろうか?
そう思っていると、リシアはゆるりと首を横に振り、結界の方へ歩いていく。
「あっ……!」
そして、僕が止めるより早く結界をすり抜けた。
「通るべき者は、結界自体が判断いたします。
さあ、こちらへ」
振り返ったリシアが当然のように僕へ手を差し出す。
なるほど――。
……いやいや待て待て待て。
リシアはわかる。通るべきものだ。
神秘的だし、美人だし、なんか光り輝いてすら見えるし。
もう“いかにも選ばれしもの”って雰囲気を体中から醸し出している。
結界が一切弾こうとすらせず、どうぞお通りくださーいってなるのも、まあ頷ける。
だけど、僕は違うだろう。
僕が結界なら多分通さない。
なんだったら、「なんだお前、身の程を弁えろよ」とか言いながら、さっきの葉っぱみたいに綺麗には消さずに、
それこそ弾けさせるか爆発させるか燃やすかするだろう。
動けずにいる僕を、リシアは不思議そうに見ていた。
なぜこちらに来ないのかが本当に分からない――そんな様子だった。
なぜ、そうまで僕を信用できるのか。
まあ確かに、命……いや、それ以上のものを賭して召喚した異世界の勇者。
信じたい気持ちも分からなくはない。
けれど、それ以上の信頼というか信用というか、そういうものが彼女の銀の目には宿っているように感じられた。
そこまで考えて
僕はふっ、と息を吐く。
――いつまでも卑屈になるな。
もう、そういうのはよそう。
リシアは僕を信じる。
僕はリシアを信じる。
それで十分だ。
僕は結界に向かって歩き出した。