「いい? 世界は今、大きな転換期を迎えているのよ!」
放課後の文芸部室。いつものように団長席を占拠した涼宮ハルヒは、唐突にバンッと両手で机を叩いて立ち上がった。
やれやれ、また始まった。俺(キョン)は手元の文庫本から目を離し、深い溜息をつく。長門有希は相変わらず無言で分厚いハードカバーの洋書に視線を落とし、朝比奈みくるさんはビクビクと怯えながらお茶を淹れる手を止めていた。古泉一樹はといえば、「ほう?」といつもの胡散臭い笑顔を浮かべてハルヒを見つめている。
「あのニュース見たでしょ!?あの 突如現れた『光の巨人』! コスモスとかいうらしいけど、あんな非日常の極みみたいな存在が、この日本のどこかに本当にいるのよ! これこそが私の求めていたものに違いないわ!」
ハルヒは鼻息を荒くして、ビシッと俺たちを指差した。
「高校生にもなって、宇宙人だの超能力者だの本気で信じてる奴なんて……って思ってた連中を、今こそ見返してやるのよ! SOS団の次なる目標は、あの光の巨人を探索し、コンタクトを取ることよ!絶対に捕まえてやるんだから!」
「おいおい……」俺はたまらず口を挟んだ。「連日報道されてる映像を見たか? あれはビルよりもデカいんだぞ。そこらの女子高生が虫取り網で捕まえられるような代物じゃない。だいたい、あんなのが西宮に現れたら自衛隊騒ぎじゃ済まないぞ」
「あんたはバカね、キョン! 気持ちの問題よ! 強く願えば、奇跡は向こうからやってくるの! 私にはわかるわ。あの虹色に光る巨人の力……きっと私を呼んでるんだから!」
ハルヒの目は、かつてないほどにギラギラと輝いていた。それは単なる中二病の妄想や、いつもの思いつきの暴走ではない。得体の知れない、純粋すぎる熱狂だった。
「いいこと? 私たちは選ばれるのよ。この退屈でちっぽけな世界から抜け出すための、最高のチャンスなんだから!」
謎の自信に満ち溢れた声が、部室に響き渡る。
もちろん、ハルヒ自身には特別な力なんて何一つない。ただの、はた迷惑で活発な女子高生だ。それでも中二病真っ盛りのハルヒは根拠のない自信に満ち溢れている。
だが、この時の俺はまだ気づいていなかった。
ハルヒのその強すぎる「非日常への渇望」と、無意識下に抱える「自分は砂粒の一つでしかない」という絶望の裏返しが――宇宙の遥か彼方からやってきた最悪の『光の情報ウイルス』をこの街へ引き寄せる、呪いの灯火になっていたということに。