涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第九章:決戦の咆哮

「……ふざけるな」

 

震える声だった。だが、カオスウルトラマンの巨大な耳は、瓦礫の底から発せられたその微かな音を正確に捉えた。

 

『……なんですって?』

 

「ふざけるなと言ったんだ、涼宮ハルヒ!!」

 

俺(キョン)は、血の混じった唾を吐き捨て、折れた足で一歩前へ踏み出した。頭上を見上げれば、月を背負った禍々しい巨人の顔。そのあまりの巨大さに、意識が遠のきそうになる。だが、俺は掌の中の、ボロボロになった『団長』の腕章を高く掲げた。

 

「宇宙人が見たい? 超能力者に会いたい? ああ、願いが叶って良かったな! 目の前に転がってるのは、機能停止した宇宙人と、腰を抜かした超能力者だ! そしてお前は、街を一つ平らげた大怪獣だ! ……満足か? これがお前の望んだ『面白い世界』かよ!」

 

『あははは! そうよ、最高に面白いわ! 私をバカにしてた連中も、みんな私を見上げて震えてる! 私はもう、誰にも無視されない特別な存在なのよ!』

 

カオスウルトラマンの咆哮が、衝撃波となって俺の全身を叩く。だが、俺は止まらなかった。

 

「笑わせるな! 特別? どこがだ! お前が今やってることは、ただのガキの八つ当たりだ! 自分の思い通りにならないからって、おもちゃ箱をひっくり返して壊してるだけだ! 独りぼっちで瓦礫の上に立って、誰もいない街に向かって喚いて……そんなのが、お前の求めていた『非日常』だったのか!?」

 

巨人の動きが、一瞬だけ止まった。

 

「いいか、ハルヒ。お前は『砂粒』になるのが怖かったんだよな。大勢の中の一人になるのが耐えられなかったんだよな。……でもな、今のままじゃ砂粒にすらなれねえぞ。だってお前の周りには、もう誰もいないんだからな! 観客もいない、文句を言う奴もいない、お茶を淹れる奴も、本を読んでる奴もいない! お前が創ったのは『特別な世界』なんかじゃない、ただの『空っぽのゴミ溜め』だ!!」

 

『……黙りなさい、キョン。あんたに何がわかるの……。あんたに、私の孤独の何がわかるって言うのよ!!』

 

カオスウルトラマンの瞳が、怒りでどす黒く濁った。彼女は巨大な拳を振り上げ、俺の頭上に影を落とす。その一撃が振り下ろされれば、俺も、長門も、朝比奈さんも、この物語も、すべてが塵に帰る。

 

「わかるさ! お前は寂しいんだよ! 寂しくて寂しくて、だからこんなデカい身体になって、世界中に自分の存在をアピールして回ってるんだろ! だったら、一人の人間として俺にそう言え! 怪獣の叫び声じゃねえ、涼宮ハルヒの声で、助けてくれって、寂しいって言ってみせろ!!」

 

俺は、腕章を力一杯地面に叩きつけた。

 

「その腕章に誓ったはずだ! お前はSOS団の団長だろ! 団員の面倒を見るのが、お前の仕事だろ! だったらさっさとその見苦しいコスプレを脱ぎやがれ! 日常が退屈だって言うなら、俺がいくらでも付き合ってやる! お前のくだらない思いつきに、一生振り回されてやるって言ってるんだ!!」

 

『……っ、あ……あぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

カオスウルトラマンが、頭を抱えて激しく悶え始めた。

彼女の身体から、虹色の粒子が火花のように散乱する。カオスヘッダーの冷徹な意志と、ハルヒの心の奥底に眠る「ただの少女」の情動が、激しく衝突し、相克している。

 

キョンの「日常の拒絶」という名のノイズが、カオスウルトラマンという完璧なシステムに、致命的なバグを発生させていた。

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