涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第十章:日食(エクリプス)の奇跡

『……っ、あ、ぁぁ……』

 

カオスウルトラマンのたうち回る動きが、唐突に止まった。

キョンの必死の叫びによって生じた体表の虹色のノイズが、急速に収束していく。カオスヘッダーが、ハルヒの心の揺らぎを強制的に押さえ込んだのだ。

 

巨人の眼から、狂気的な輝きが消え、代わりに底冷えするような、深い絶望の色が宿った。

 

『……もう、遅いのよ。キョン』

 

その声は、轟音でありながら、どこか泣き出しそうな少女の震えを帯びていた。

 

『私はもう、戻れない。だって見てよ、この身体を。私が壊した街を。……私は「涼宮ハルヒ」じゃなくて、ただの世界を壊す怪物になっちゃったのよ』

 

「違う! お前はハルヒだ! 俺が知ってる、ただの迷惑な団長だ!」

 

『ううん、違うわ。……さようなら、キョン。私の、たった一人の……』

 

カオスウルトラマンは、悲しげにその巨大な顔を歪めると、ゆっくりと右足を持ち上げた。

彼女の意識は、カオスヘッダーの破壊衝動に完全に塗りつぶされようとしていた。目の前の小さな「ノイズ」を排除し、完全な孤独なる神となるために。

 

巨大な影が、キョンを覆い隠す。

死が、質量を持って降り注ぐ。

 

(……ここまでか)

 

キョンは、迫りくる巨大な足の裏を見上げながら、動かなくなった身体で悟った。

俺の声は届かなかった。凡人の意地は、神の絶望の前には無力だった。

俺は最期まで、掌の中の泥だらけの腕章を強く握りしめていた。

 

そして、世界が闇に包まれた――その瞬間。

 

カッッッ――!!!

 

キョンの胸元から、太陽が爆発したかのような強烈な閃光が迸った。

 

『……!?』

 

踏み潰したはずの足元から放たれた光に、カオスウルトラマンが驚愕して後退る。

瓦礫の隙間から溢れ出した光は、黄金と神秘的な青が混ざり合った渦となり、天へと巻き上がった。光の中で、キョンの身体が粒子となって分解され、再構築されていく。

 

――聞こえるか、少年。君の、その強い願いが、消えかけていた私の光を呼び覚ましたのだ。

 

キョンの意識の中に、優しく、力強い声が響いた。

 

――君の身体を借りるぞ。彼女を……ハルヒを救うために!

 

光の渦が収束し、一つの巨大な姿を形作る。

それは、以前敗北した優しき青の巨人(ルナモード)でもなければ、荒々しい赤の巨人(コロナモード)でもなかった。

黄金の身体に、神秘的な青いラインが走る、勇気と慈愛を兼ね備えた奇跡の姿。

 

ウルトラマンコスモス・エクリプスモード。

 

「……は、ぁ……?」

 

カオスウルトラマン(ハルヒ)は、目の前に現れた自分と同じサイズの巨人を見上げ、呆然とした声を漏らした。

その巨人が放つ波動は、まぎれもなく、ついさっき自分が踏み潰そうとした「あの雑魚なキョン」のものだったからだ。

 

コスモス(キョン)は、ゆっくりとカオスウルトラマンに向き直った。

その視線の高さは、今や完全に等しい。

キョンの意識は、巨人の身体と完全にリンクしていた。全身に漲る、星をも砕く光のエネルギー。これが、「力」を持つということなのか。

 

「……待たせたな、ハルヒ」

 

コスモスの口から発せられた声は、ムサシの声とキョンの声が重なり合った、不思議な響きを持っていた。

コスモス(キョン)は、ゆっくりとファイティングポーズをとった。それは慈愛の構えではない。ハルヒの全力のワガママを、正面から受け止めるための覚悟の構えだ。

 

「さあ、続きをやろうぜ。俺が相手になってやる。お前のその腐った根性、俺がこの手で叩き直してやる!!」

 

『……あ、あは……あはははははっ!!』

 

カオスウルトラマンが、狂ったように笑い出した。その全身から、喜びと闘争本能が混じった凄まじい虹色のオーラが噴き上がる。

 

『最高よキョン! あんた、ついに私の領域まで来たのね! いいわよ、やりましょう! これがSOS団の、最後の活動よ!!』

 

崩壊した北高の跡地で、光と混沌、二人の巨人が激突する。

それは、世界を巻き込んだ、史上最大の痴話喧嘩の始まりだった。

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