ドォォォォォンッ!!
北高の跡地で、黄金の拳と漆黒の脚が激突した。
その衝撃波だけで、周囲に残っていた瓦礫が粉々に砕け散り、爆風となって吹き荒れる。
(ぐっ……! なんだこの馬鹿げたパワーは……!)
コスモスとなった俺(キョン)は、腕に伝わる痺れに歯を食いしばった。視線の高さは50メートル。足元を見れば、米粒のような長門たちが爆風に耐えているのが見える。
ダメだ、ここで暴れたら、あいつらを巻き込んじまう!
『あはは! どこ見てんのよキョン! よそ見してると死ぬわよ!』
カオスウルトラマン(ハルヒ)は、狂気的な笑い声を上げながら、容赦なく追撃を仕掛けてくる。その蹴りが空を切り、衝撃波が校庭の地面を深く抉り取った。
俺はコスモスの記憶――ウルトラマンとしての戦闘本能――に突き動かされるように、その蹴りを紙一重で回避し、ハルヒの胴体にタックルを仕掛けた。
ズガァァン!
二体の巨人がもつれ合いながら、校舎の残骸を突き破って転がる。
俺はそのままハルヒを抱え込み、足元の地面を強く蹴った。
(ここじゃ狭すぎる! 上だ!)
シュゥゥゥゥォォォォッ!!
コスモス(キョン)とカオスウルトラマンは、音速の壁を突き破り、夜空へと舞い上がった。
西宮の燃える街並みが、あっという間に眼下に小さくなっていく。
空中で体勢を立て直したハルヒは、エネルギーを背中から噴出させ、空中で急制動をかけた。
『逃げる気!? 私とのダンスはまだ始まったばかりよ!』
「馬鹿野郎! 地上が持たねえって言ってんだよ!」
上空数千メートル。雲海の上で、二つの光が激しく交錯する。
ハルヒが放つ漆黒の光線「ダーキングショット」を、俺は両腕をクロスさせて防御する。熱い。コスモスの装甲越しでも、皮膚が焼けるような熱量を感じる。
(くそっ、なんてデタラメな出力だ! これがハルヒの「ワガママ」のエネルギー量だってのか!)
俺は反撃に転じた。腕にエネルギーを集中させ、光の刃「エクリプスブレード」を形成して斬りかかる。
だが、ハルヒはそれを虹色のバリアで受け止め、不敵に笑った。
『甘い甘い! そんなんじゃ私の「非日常」は傷つかないわよ! もっと本気で来なさいよキョン!』
ハルヒが両腕を広げると、周囲の大気が歪み始めた。
彼女は、西宮上空の雷雲を自らのエネルギーとして取り込み、巨大な雷撃と共に俺に突っ込んできた。
ドカァァァァンッ!!
空中で大爆発が起こる。俺たちの衝突エネルギーは、もはや核兵器すら凌駕していた。
衝撃で眼下の雲が吹き飛び、はるか下の日本列島の夜景が露わになる。
(……だめだ、空でもまだ足りない。このままじゃ、俺たちが衝突する余波だけで、地上は壊滅しちまう!)
俺の中で、コスモスの意志が共鳴した。
――少年よ。もっと高く、宇宙(そら)へ! 彼方ならば、全力を出せる!
「……ああ、わかったよ! 付き合ってやるさ、どこまでもな!」
俺はハルヒの突進を正面から受け止めると、その両肩をガッチリと掴んだ。
『なっ……!? 放しなさいよ!』
「放すかよ! お望み通り、とびっきりの『非日常』へ連れてってやる!」
俺は全身のエネルギーを推進力に変え、真上に向かって急加速した。
マッハ10、20……速度計が振り切れるほどの加速。二体の巨人は、一つの光の矢となって成層圏を突破した。
青かった空が、急速に深い藍色へ、そして永遠の漆黒へと変わっていく。
眼下には、青く輝く美しい地球の姿が広がっていた。
『あは……あははは! すごい! これが宇宙! 私たちが求めていた場所ね!』
宇宙空間に出たハルヒは、真空の中でさえ楽しげに笑っていた。彼女の身体から溢れ出るカオスヘッダーの虹色の光が、星々よりも鮮やかに輝いている。
「まだだ! 終着点はここじゃねえ!」
俺はさらに加速した。目指すは、地球の衛星。静寂の荒野。
――月面。
ズドォォォォォォォンッ……!!!!
音のない世界で、凄まじい振動が月面を揺るがした。
コスモス(キョン)とカオスウルトラマンは、隕石のように月面クレーターに激突した。舞い上がったレゴリス(月の砂)が、重力の少なさゆえにゆっくりと降り注ぐ。
俺はゆっくりと立ち上がった。
目の前には、悠然と腕を組んで立つカオスウルトラマンの姿。その背後には、漆黒の宇宙に浮かぶ、青く美しい地球が見えた。
『……最高のステージね。ここなら誰も邪魔しない。文句も言わない』
ハルヒの声が、直接脳内に響いてくる。
『さあキョン、始めましょう。SOS団、最後の活動を! 勝った方が、この世界のルールを決めるのよ!』
俺は静かに構えた。
ここには守るべき校舎も、街も、人もいない。あるのは俺とコイツだけ。
「ああ、そうだな。……来いよハルヒ。俺が勝ったら、罰として部室の掃除一ヶ月だ。それと、二度とこんな馬鹿げた真似はさせねえ!」
月面を舞台に、神と凡人の、最初で最後の決戦の火蓋が切って落とされた。