静寂が支配する月面。
しかし、そこには宇宙の物理法則を塗り替えるほどの激闘が繰り広げられていた。
『あはははは! 楽しい、楽しいわよキョン! こんなに全力でぶつかり合えるなんて!』
カオスウルトラマン(ハルヒ)が月面を蹴り、漆黒の光弾「カオスプロミネンス」を連射する。
コスモス(キョン)は最小限の動きでそれを回避し、月面に空いた巨大なクレーターを飛び越えながら反撃の機を伺う。
(……速い。カオスヘッダーがハルヒの感情を吸い上げて、際限なく加速してやがる!)
俺は右腕に黄金の光を収束させた。
「いい加減にしろ、ハルヒ! お前がどれだけ強くなっても、俺はお前の『観客』なんかにはならない! 俺はSOS団の雑用係として、お前を現実に引きずり戻してやるんだ!」
俺は一気に間合いを詰め、「エクリプス・パンチ」をハルヒの胸元に叩き込んだ。
ドォォォォンッ!!
衝撃波が月面を走り、背後の山が崩落する。だが、ハルヒはそれを左腕で強引に受け止め、邪悪な笑みを浮かべた。
『現実に何があるっていうのよ! 宿題と、テストと、退屈な毎日だけじゃない! 私は……私は、こんな風に輝いていたいだけなのに!』
ハルヒの全身から、禍々しい虹色の雷光が迸る。「カオス・サンダー」。
至近距離で浴びた衝撃に、コスモスの身体が弾き飛ばされた。俺の視界が火花を散らす。
「……っ、あぁ、そうだよな。現実は退屈だ。お前の言う通り、面白いことなんて滅多に起きねえ」
俺は膝をつきながら、再び立ち上がった。
カラータイマーが激しく点滅を始める。活動限界が近い。
「でもな……お前がいない世界よりは、100万倍マシだ」
俺は両腕を天に掲げ、エクリプスモードの最強の光を練り上げた。
コスモスの慈愛と、俺の「ハルヒと一緒にいたい」という、あまりにもエゴイスティックで平凡な願いを混ぜ合わせた光。
「食らいやがれ! これが俺の、精一杯の『日常(現実)』だ!!」
「コズミューム光線(Cosmium Ray)!!」
黄金と虹色が混ざり合った、極大の光線がハルヒを貫いた。
『……っ、あ、あああぁぁぁぁぁぁっ!!』
カオスウルトラマンの身体が光に包まれ、激しく震える。
カオスヘッダーのどす黒い意志が、キョンの放った「混じり気のある光」によって、無理やり身体から引き剥がされていく。
光の中で、俺はハルヒの叫びを聞いた。
それは世界の中心になりたいという傲慢な声ではなく、ただの、独りぼっちになりたくないという16歳の少女の、あまりに切実な泣き声だった。
「帰るぞ、ハルヒ。……部室で、冷めたお茶を飲みながら、また明日を待つんだよ」
俺は光をさらに強めた。
カオスヘッダーは断末魔の叫びと共に、ハルヒの肉体から黒い霧となって霧散し、漆黒の宇宙空間へと消えていった。
巨大な爆発。
そして、月面には再び静寂が戻った。