「全機、目標をロック! 撃て(Fire)ッ!!」
黄昏時の空を、無数の白煙が切り裂いた。
F-2戦闘機から放たれた空対地ミサイルと、北高を包囲しつつある10式戦車の120ミリ滑腔砲が一斉に火を噴く。目標は、校庭の中央で頭を抱え、のたうち回る漆黒の巨人――カオスウルトラマン・カラミティ。
ズガァァァァァァァンッ!!!!!
凄まじい爆炎が、カラミティの背中で弾けた。
熱線と破片が、キョンだったものの皮膚を焼き、抉り取る。だが、巨人は咆哮を上げることさえせず、ただひたすらに、北高の旧館――ハルヒや生徒たちが取り残されている校舎を背に、仁王立ちを続けていた。
(……来るな。……撃つな。……こいつらは、誰も悪くない……)
キョンの意識の底で、カオスヘッダーが歓喜の叫びを上げていた。
『……素晴らしい。……この屈辱、この痛み。……さあ、その憎悪を力に変えろ。……一撃だ。……指先一つで、あの虫けらどもを消し飛ばせる。……貴様には、その権利がある!』
(……だ、……まれ……っ!)
カラミティの右腕が、反射的に空中の戦闘機を捉えようと持ち上がる。
黒い光が指先に集束し、一撃で航空部隊を壊滅させる「インベーディングウェーブ」が発動しかける。
「……っ!!」
だが、キョンは残された最後の理性で、その右腕を自分の左手で無理やり掴み、強引に地面へと叩きつけた。
ドォォォォォンッ!
自分の攻撃エネルギーを、自分の身体に叩き込む。衝撃でキョンの意識が白濁し、口からどす黒い光の塊が吐き出される。
「……逃げ……ろ……、ハルヒ……ッ!」
巨人の口から漏れたのは、スピーカーが割れたような不快なノイズだった。だが、屋上に立ち尽くすハルヒには、それが紛れもなく、自分をいつも叱り飛ばしていた「キョンの声」として届いていた。
「……嘘。……キョン、あんた……。……あいつらを、守ってるの……?」
ハルヒの膝が、ガタガタと震え出す。
記憶はない。だが、視界が涙で歪む。
目の前の怪物は、自分たちを今にも踏み潰しそうな恐怖の象徴だ。それなのに、その背中は、どんな防壁よりも切なく、孤独に、自分たちを守る盾となっていた。
自衛隊の第2波攻撃が始まる。
今度は広域を焼き払う焼夷弾だ。
校庭に落ちれば、校舎は炎に包まれ、生徒たちは全滅する。
カラミティ(キョン)は、崩れかけそうな膝に力を込め、再び立ち上がった。
彼は背後の校舎を覆い隠すように、両腕を大きく広げた。
虹色のシールドを、前方の敵ではなく、「背後の校舎」を包み込むために展開する。
本来、自分を守るためのバリア。それを裏返しに使い、自分を焼く炎を全てその身で受け止める。
「……っ、あ……あああああああぁぁぁぁぁっ!!!」
肉体が焼ける。情報が分解される。
キョンは、地獄のような40年間の記憶の中でさえ経験しなかった苦痛に悶えながら、ただの一歩も後ろへは退かなかった。
その姿は、周囲で見守る長門や古泉の「魂の傷跡」を、激しく掻き毟っていた。