涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第十五章:沈黙の防壁

「全機、目標をロック! 撃て(Fire)ッ!!」

 

黄昏時の空を、無数の白煙が切り裂いた。

F-2戦闘機から放たれた空対地ミサイルと、北高を包囲しつつある10式戦車の120ミリ滑腔砲が一斉に火を噴く。目標は、校庭の中央で頭を抱え、のたうち回る漆黒の巨人――カオスウルトラマン・カラミティ。

 

ズガァァァァァァァンッ!!!!!

 

凄まじい爆炎が、カラミティの背中で弾けた。

熱線と破片が、キョンだったものの皮膚を焼き、抉り取る。だが、巨人は咆哮を上げることさえせず、ただひたすらに、北高の旧館――ハルヒや生徒たちが取り残されている校舎を背に、仁王立ちを続けていた。

 

(……来るな。……撃つな。……こいつらは、誰も悪くない……)

 

キョンの意識の底で、カオスヘッダーが歓喜の叫びを上げていた。

 

『……素晴らしい。……この屈辱、この痛み。……さあ、その憎悪を力に変えろ。……一撃だ。……指先一つで、あの虫けらどもを消し飛ばせる。……貴様には、その権利がある!』

 

(……だ、……まれ……っ!)

 

カラミティの右腕が、反射的に空中の戦闘機を捉えようと持ち上がる。

黒い光が指先に集束し、一撃で航空部隊を壊滅させる「インベーディングウェーブ」が発動しかける。

 

「……っ!!」

 

だが、キョンは残された最後の理性で、その右腕を自分の左手で無理やり掴み、強引に地面へと叩きつけた。

ドォォォォォンッ!

自分の攻撃エネルギーを、自分の身体に叩き込む。衝撃でキョンの意識が白濁し、口からどす黒い光の塊が吐き出される。

 

「……逃げ……ろ……、ハルヒ……ッ!」

 

巨人の口から漏れたのは、スピーカーが割れたような不快なノイズだった。だが、屋上に立ち尽くすハルヒには、それが紛れもなく、自分をいつも叱り飛ばしていた「キョンの声」として届いていた。

 

「……嘘。……キョン、あんた……。……あいつらを、守ってるの……?」

 

ハルヒの膝が、ガタガタと震え出す。

記憶はない。だが、視界が涙で歪む。

目の前の怪物は、自分たちを今にも踏み潰しそうな恐怖の象徴だ。それなのに、その背中は、どんな防壁よりも切なく、孤独に、自分たちを守る盾となっていた。

 

自衛隊の第2波攻撃が始まる。

今度は広域を焼き払う焼夷弾だ。

校庭に落ちれば、校舎は炎に包まれ、生徒たちは全滅する。

 

カラミティ(キョン)は、崩れかけそうな膝に力を込め、再び立ち上がった。

彼は背後の校舎を覆い隠すように、両腕を大きく広げた。

虹色のシールドを、前方の敵ではなく、「背後の校舎」を包み込むために展開する。

本来、自分を守るためのバリア。それを裏返しに使い、自分を焼く炎を全てその身で受け止める。

 

「……っ、あ……あああああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

肉体が焼ける。情報が分解される。

キョンは、地獄のような40年間の記憶の中でさえ経験しなかった苦痛に悶えながら、ただの一歩も後ろへは退かなかった。

 

その姿は、周囲で見守る長門や古泉の「魂の傷跡」を、激しく掻き毟っていた。

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