「……少年、……抗うんだ……!」
コスモス(ムサシ)の声が、カオスウルトラマンカラミティ(キョン)の精神世界に響く。
だが、その声は既に、泥濘のような絶望の底へ沈みつつあった。キョンが飲み込んだのは、単なるウイルスではない。彼自身が体験した、愛する者を看取り、独りで老いていった「40年間の腐敗した時間」そのものだった。
『……クク、……無駄だ。……この男の絶望は、我らカオスヘッダーの想像すら超えている。……これほど純粋な「呪い」は、光などでは消せない!』
カォォォォォォォォォッ!!!!!
カラミティ(キョン)の咆哮が、西宮の空を黒く染めた。
彼の背中から、漆黒の翼がカミソリのように展開され、周囲に展開されていたコスモスの慈愛の波紋をズタズタに切り裂く。
キョンの理性が、ついに「0」になった。
操縦権を完全に奪い取ったカオスヘッダーは、キョンの「守りたい」という執着を、「自分以外の全てを消去することで、彼女を永遠に独占する」という最悪の論理へと変換した。
コスモスは瞬時に悟った。ルナモードでは止められない。
青い光が弾け、黄金と赤の輝き――エクリプスモードへとチェンジする。
「……ハルヒを守るために、君を倒す!!」
コスモス(エクリプス)が、月光のような鋭い一撃を放つ。
だが、カラミティ(キョン)はそれを左腕一本で受け止めた。掌から溢れ出した黒い粒子が、コスモスの黄金の装甲を瞬時に腐食させていく。
「……が、あぁっ!?」
『……40年だ。……この男が、ただ一人の少女のために費やした、無為な40年の重さを……貴様のような「正義の味方」に量れると思うな!!』
カラミティの右拳が、コスモスのカラータイマーを正確に、そして冷酷に撃ち抜いた。
ドォォォォォンッ!!
衝撃波が西宮全域を震わせ、コスモスは校舎を突き抜けて山へと叩きつけられた。
「……あ、あぁ……」
屋上の縁で、ハルヒは崩れ落ちた。
目の前にいる巨人は、もうキョンではない。
自分を40年間も愛し続け、そしてその愛ゆえに発狂した、最悪の怪獣だ。
カラミティ(キョン)は、ゆっくりと屋上へと顔を近づけた。
その紅い瞳には、もはや慈悲のかけらもない。ただ、「次こそは逃さない」という、狂気的な所有欲だけが渦巻いている。
「……やめて……、キョン……、やめてぇ!!」
ハルヒの叫びに応えるように、カラミティは掌に極大の暗黒エネルギーを凝縮させた。
それは、コスモスを屠った「カオスプロミネンス」を遥かに凌駕する、「カラミティ・エンド」。
「……っ、長門! 古泉! みくるちゃん!!」
ハルヒが振り返る。だが、そこには絶望に腰を抜かした朝比奈さんと、演算が追いつかず膝をついた長門、そしてただ天を仰いで笑うしかない古泉がいるだけだった。
彼らには、立ち向かう術などない。
自業自得だ。
自分たちが「非日常」を願ったから。
一人の少年を「地獄」に置き去りにしたから。
『……さあ、……もう一度、……ゼロからやり直そう。……今度は、……誰もいない世界で、……二人きりで……』
カラミティの口から漏れたキョンの声が、ハルヒの鼓膜を蹂躙した。
暗黒の光が炸裂した。
爆光が、西宮を、北高を、そしてSOS団のすべてを、一瞬で原子レベルまで分解していく。
ハルヒは、最後にキョンの悲しげな微笑みを見た気がした。
自分を殺そうとしている、その巨人の瞳の奥で、泣いている少年の姿を。
「……ごめん……なさい……、キョン……くん……」
朝比奈さんの最期の言葉も、爆音の中に消えた。
光の巨人も、自衛隊も、街も、記憶も。
すべては漆黒の闇へと収束し、この世界線の未来は完全に閉ざされた。