涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第二十章:無力な祈りと、殺意の境界線

「キョン!! 何よこれ、どうしちゃったのよ!! 答えて、団長命令よ!!」

 

校門の前。アスファルトを砕いて仁王立ちする漆黒の巨人――カオスウルトラマン・カラミティの足元で、ハルヒは泣き叫んでいた。

彼女には、何の力もない。

宇宙を変える願望も、奇跡を起こすポテンシャルも、このサイクルでは存在しない。

ただの、クラスメイトが突然化け物に変貌したことに怯え、それでも彼を見捨てられない、一人の無力な少女でしかなかった。

 

「……ぁ……、あ、が、……ぁぁ……っ!!」

 

カラミティ(キョン)の頭の中で、膨大なノイズが火花を散らす。

40年間のシェルターの壁の感触。ハルヒを失った二度の終末の爆音。

それら全ての「記憶」が、カオスヘッダーによって『彼女を排除せぬ限り、この苦痛は永続する』という論理へと変換されていく。

 

『……殺せ。……その不純物を消去しろ。……そうすれば、二度と「別れ」に怯える必要はなくなる。……永遠の虚無こそが、貴様が求めた「孤独」の完成だ……』

 

(……だ、まれ……。……俺は、……こいつを、……守るために……っ!)

 

『……否。……貴様は「苦しみ」から逃げたいだけだ。……さあ、その右腕を振り下ろせ!』

 

キョンの意志を嘲笑うように、カラミティの巨大な右腕がゆっくりと、機械的に持ち上がった。

指先から漏れ出す黒い雷光が、ハルヒの目の前のアスファルトを焼き、焦げ付かせる。

 

「……ぁ……」

 

ハルヒは逃げなかった。

腰を抜かして座り込み、ガタガタと震えながらも、その瞳だけは真っ直ぐに、50メートル上の「紅い眼」を見つめていた。

彼女の脳裏に、あるはずのない光景が、激しい頭痛と共にフラッシュバックする。

――月明かりの下、黄金の巨人の姿をしたキョンと、宇宙へ飛んでいく記憶。

――真っ白な光の中で、自分の名前を呼び続けていたキョンの声。

 

「……知らないわよ、そんなの……っ。……でも、あんた、……泣いてるじゃない……。……怪物になってまで、……そんなに悲しそうな顔して……っ!!」

 

「……ハ、ル……ヒ……ッ!!」

 

カラミティの喉から、血を吐くようなキョンの絶叫が漏れた。

その瞬間、持ち上がった巨大な拳が、ハルヒの頭上へ向けて猛烈な速度で振り下ろされる。

 

「「ハルヒ!!!」」

 

校門の陰から、必死の叫びが上がった。

長門有希と、古泉一樹だ。

長門は震える足でハルヒの元へ駆け寄ろうとし、古泉はただ、自分の無力さに歯を食いしばりながら、その凄惨な光景から目を逸らすことすらできずにいた。

 

ドォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

凄まじい衝撃波が校門付近を襲い、爆風で長門たちが吹き飛ばされる。

砂塵が舞い、視界がゼロになる。

カオスヘッダーは、キョンの脳内で歓喜の咆哮を上げた。

『……完了だ。……これで、貴様の呪縛(日常)は消滅した……』

 

だが。

 

「……ぁ、……っ……、ぅ……」

 

砂煙が晴れた先。

そこには、無傷のハルヒがいた。

キョンの巨大な拳は、彼女の数センチ横の地面を、深さ数メートルにわたって粉砕していた。

 

キョンは、カオスヘッダーの強制命令に対し、**『自分の腕の骨を、内部から筋肉の逆噴射でへし折る』**という、狂気的な自傷行為によって、直撃を回避したのだ。

 

カラミティの右腕が、不自然な方向に折れ曲がり、黒い体液が噴き出す。

キョンの意識は、激痛で今にも焼き切れそうだった。

 

「……に、げ……ろ……。……たのむ……、……俺が、……俺であるうちに……っ!!」

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