涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第二十五章:実在する光、そして接触

「――ご覧ください! 先ほど、鏑矢諸島に現れたリドリアスを、ウルトラマンコスモスが再び保護し、空へと帰っていきました。その慈愛に満ちた姿に、世界中から……」

 

部室に置かれた、ハルヒがどこからか持ってきた小型テレビ。

ニュースキャスターが、青い巨人の活躍を興奮気味に伝えている。

画面に映る、優雅な曲線を描く青い身体。かつて俺(キョン)が、そしてハルヒが、二人がかりで食らい尽くし、その光を汚してしまった英雄の姿だ。

 

「これよ! 私が探していたのは、こういう『意味のわからない、でも凄いもの』なのよ!!」

 

ハルヒがテレビを指差して、意気揚々と宣言する。

彼女には何の能力もない。宇宙人である長門も、未来人である朝比奈さんも、超能力者である古泉も……この世界には存在しない。

ただ、テレビの向こう側には、本物の「宇宙の光」がいる。

 

「いい? ニュースで時々見るってことは、彼ら……TEAM EYESの春野ムサシって隊員は、日本のどこかに実在してるってことよ! 長門、ネットで彼の足取りを追いなさい! 古泉、あんたの家の伝手(つて)を使って、彼の居場所を特定するのよ!」

 

「……了解。Google検索、継続中」

長門は、いつものように無機質な顔でノートパソコンを叩いている。だが、そこに情報の操作や改竄の痕跡はない。ただの、タイピングが異常に速いだけの女子高生の姿だ。

 

「やれやれ。うちの親の知り合いに、防衛軍関係者がいるか調べてみますよ。……でも涼宮さん、あまり期待しないでくださいね。ウルトラマンは雲の上の存在ですから」

古泉も、困ったような笑顔を浮かべている。彼もまた、閉鎖空間を操る力など持たない、ただの「顔が広いお坊ちゃん」に過ぎなかった。

 

俺は、部室の隅で冷めたお茶を飲みながら、彼らを見つめていた。

(……これでいい)

管理会計の論理で言えば、リスクの外部転嫁だ。

俺が怪物になれば世界は終わる。ハルヒが願えば混沌が来る。

なら、カオスヘッダーという『致命的な損失(損失コスト)』が発生する前に、コスモスという『外部の専門家(ガーディアン)』をこの西宮に招き入れる。

それが、俺の40年間の地獄と三度の終末から導き出した、唯一の生存戦略だった。

 

「……キョン? あんた、何難しい顔してんのよ。……ほら、行くわよ!」

 

「……ああ。どこへだ?」

 

「決まってるでしょ! 彼の『気配』がするって、私の直感が言ってるの! 西宮の海岸よ!」

 

西宮の海岸。夕暮れの砂浜。

ハルヒに引き摺られるようにしてやってきたそこには、一人の青年が海を見つめて立っていた。

青い「TEAM EYES」の隊員服。

穏やかな、それでいて芯の強さを感じさせる横顔。

 

春野ムサシ。

 

「――あ! 見つけた! 逃がさないわよ、宇宙人の依代さん!!」

 

ハルヒが砂を蹴って、ムサシの元へ突っ込んでいく。

ムサシは驚いたように振り返り、そして、駆けてくる少女と、その後ろで呆然と立ち尽くす俺を見た。

 

「……君たちは……?」

 

ムサシの声は、穏やかだった。

だが、俺と目が合った瞬間、彼の表情が微かに、しかし鋭く強張った。

ムサシの中にいるコスモスの感覚が、俺という存在から漏れ出す、到底一人の人間が抱えられるはずのない『濃密な絶望の澱(おり)』を察知したのだ。

 

「……君は……一体、何を背負っているんだ……?」

 

ムサシが、ハルヒの呼びかけを無視し、俺に向かって一歩踏み出した。

俺は、思わず後退りした。

二度目のループで彼を屠り、三度目のループで彼を喰らった、その「罪」の記憶が、俺の脳内で悲鳴を上げる。

 

『……少年、……君は……、……以前……、どこかで……?』

 

ムサシの瞳の奥で、コスモスの意志が、あり得ないはずの既視感(デジャヴ)に混乱している。

この世界線の彼は、俺に会ったことはない。

だが、俺の魂にこびり付いた「混沌」の色が、光の巨人にとっての最大級の警告(アラート)を発していた。

 

「……助けて、くれ。……ムサシ」

 

俺は、絞り出すような声で言った。

ハルヒや長門たちが、きょとんとして俺を見ている。

 

「今すぐ、……この街に、……カオスヘッダーが来る。……俺を、……俺の中にある絶望を、……あいつが狙ってるんだ……!!」

 

その言葉が終わるより先に、空が、虹色にひび割れた。

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