涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第二十六章:身代わりの代償

「……え?」

 

キョン(俺)の目の前で、景色が虹色の閃光に染まった。

俺の中にある「40年間の地獄」に引き寄せられ、鎌のように振り下ろされたカオスヘッダーの触手。それを、俺を突き飛ばしたハルヒが正面から受け止めていた。

 

「……ぁ……、あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

ハルヒの絶叫が、静かな夕暮れの海岸に突き刺さる。

彼女には何の能力もない。カオスヘッダーの侵食を押し返す情報のバリアも、世界を再構築する願望の力も、今の彼女には備わっていない。

ただの、16歳の少女の肉体と精神が、宇宙の悪意に直接曝露(ばくろ)される。

 

「ハルヒ!! やめろ、離せ!! そいつは俺を狙ってるんだ!!」

 

俺は叫び、彼女に手を伸ばそうとした。だが、ハルヒの身体から噴き出した虹色の衝撃波が、俺とムサシを無慈悲に吹き飛ばした。

 

『……適合、……不完全。……だが、……この「熱量」は……何だ……!?』

 

カオスヘッダーの困惑したようなノイズが響く。

ハルヒは、苦痛に顔を歪めながらも、俺を見て、薄く笑った気がした。

前回のループで一緒に怪物になった記憶なんて、彼女にはないはずだ。なのに、彼女の魂は「キョンだけを地獄に行かせない」という一点において、因果を超えて共鳴していた。

 

「……きょん……、……あんた……、……変な顔……して……。……私が、……助けて……あげる……わ……」

 

ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

砂浜が爆発し、巨大な黒い影が立ち上がった。

かつてのループで見た、あの禍々しいカオスウルトラマン。

だが、今回は違う。キョンの「絶望」が混ざっていない分、その身体は不安定に波打ち、ハルヒの「純粋な、しかし巨大すぎる生命力」を制御できずに暴走している。

 

「……ハルヒ……! 嘘だろ……、また、これなのか……っ!」

 

俺は砂を噛み、己の無力さに絶望した。

コスモスを呼べば救えると思った。だが、俺が「知識」という名の呪いを持っていたせいで、カオスヘッダーを呼び寄せ、彼女を依代にしてしまった。

 

「――ムサシ!!」

 

俺の声に応えるように、春野ムサシが砂浜を蹴った。

彼の瞳には、状況への困惑を上回る、強い決意が宿っていた。

 

「……ダメだ、このままでは彼女の心が焼き切れてしまう! コスモォォォォォォォッ!!!」

 

青い光の旋風が巻き起こり、海岸にウルトラマンコスモス(ルナモード)が降臨した。

巨人は、苦しげに咆哮を上げるカオスウルトラマン(ハルヒ)の前に、優しく両手を広げて立ちはだかる。

 

『少女よ、抗うんだ! 君の心は、闇に屈してはいけない!』

 

ムサシの叫びが、コスモスの慈愛の波動となって伝播する。

だが、カオスウルトラマンは、その浄化の光を拒絶するように、漆黒の光弾をコスモスの足元へ叩きつけた。

 

「……っ、あ……ああああああぁぁぁぁっ!!!」

 

巨人の内部で、ハルヒの声が響く。

特殊能力のない彼女の精神が、カオスヘッダーの演算領域を無理やり占拠し、内側から抗っているのだ。

それは、凄まじい精神的負荷を伴う、命を削るような足掻きだった。

 

長門と古泉は、ただの高校生として、砂浜で立ち尽くしていた。

「……キョン君。これは……一体……」

古泉の震える声。長門は、無言のまま、ハルヒの姿を見上げ、その掌を強く握りしめていた。

彼らには何もできない。

だが、キョンには、前回の世界線から引き継いだ「罪」と、そして「解答」への手がかりがあった。

 

 

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