涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第三十章:五度目の朝、虚無の定常状態

「キョン! あんた、いつまで寝ぼけてるのよ! 早く部室に行くわよ!」

 

セミの鳴き声。生ぬるい風。

窓から差し込む陽光が、俺(キョン)の机を白く焼いている。

……ああ、五度目だ。

 

俺は、ゆっくりと顔を上げた。

視界の端で、ポニーテールを揺らすハルヒが、いつもと変わらない無邪気な怒鳴り声を上げている。

だが、俺の脳内には、前回のサイクルでムサシさん……コスモスを、俺たちの手で「握り潰した」時の、あの恐ろしいほど確かな手応えが残っていた。

 

(……コスモスさえ、……ダメだったのか)

 

管理会計の論理で言えば、この物語は『無制限の累積赤字』を垂れ流し続けている。

外部の専門家(コスモス)を導入しても、その専門家自体が負債(カオスヘッダー)に飲み込まれ、資本そのものが消滅した。

もはや、俺たち(SOS団)に打てる手は残っていない。

 

「……キョン? あんた、……どうかしたの?」

 

ハルヒが、不審そうに俺の顔を覗き込む。

彼女には記憶がない。

コスモスの光に触れて、俺の絶望の半分を背負うと誓った、あの精神世界の出来事も。

共に巨神となって世界を焼き尽くした、あの狂おしい共犯の記憶も。

 

「……いや。……なんでもない」

 

「ふーん。ならいいけど! さあ、行くわよ! 今日こそは、テレビで噂の『青い巨人』の正体を暴くための作戦会議なんだから!」

 

ハルヒは、意気揚々と教室を出ていく。

その後ろ姿を見つめながら、俺は掌を見つめた。

そこにあるのは、何の変哲もない男子高校生の手だ。

だが、その奥には、数え切れないほどの仲間たちの死と、一人の勇者の消滅、そして四度の終末が、重く、冷たく、積み上がっている。

このままではまた同じ結末の繰り返しが待っている。

 

廊下に出ると、長門有希が本を片手に立っていた。

古泉一樹が、いつもの爽やかな笑顔でこちらに歩いてくる。

二人とも、能力のない「ただの高校生」だ。

コスモスのガジェットを掲げ、自分たちを守ろうとして爆炎に消えた彼らの姿を覚えているのは、この校舎で俺だけだ。

 

(……救いはない。……このままいけば、またあいつ(カオスヘッダー)が来る。そして今度は……コスモスさえも、もう俺たちを助けることができないだろう。)

 

何か変わらなければいけない。そうしなければ俺たちの未来は絶望へ一直線だ。だがただの高校生の俺たちに使える手は使い切った。

 

俺は、絶望することすら忘れた、乾いた瞳で窓の外を見た。

そこには、何も知らない西宮の街が、暴力的なまでの「日常」を謳歌していた。

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