放課後の部室。西日に照らされた部室は、いつもと変わらない退屈な空気に満ちていた。
長門は本を読み、朝比奈さんはお茶を淹れ、古泉はチェス盤を眺めている。
そして、ハルヒはホワイトボードに次の「不思議なこと探し」の計画を書きなぐっていた。
「……ハルヒ。ちょっと、手を止めてくれ」
俺(キョン)の声は、自分でも驚くほど低く、静かだった。
部室の空気が一変する。長門が顔を上げ、古泉の指が止まる。ハルヒは、怪訝そうにポニーテールを揺らして振り返った。
「何よ、キョン。改まって。……掃除当番を代われっていうなら、承知しないわよ?」
「……俺は、お前が好きだ。」
「…………は?」
ハルヒの手から、マーカーが床に落ちた。
古泉が目を見開き、朝比奈さんはお盆をガタガタと震わせた。
だが、俺は止めなかった。これは感情の爆発ではない。四度の終末を経て導き出された、『論理的帰結』だ。
「冗談じゃないし、中二病の妄想でもない。……ハルヒ、これから俺が言うことを、一言も漏らさず聞け。これは、俺たちがこれから迎える『確定した未来』の話だ。」
俺は、彼女の目を見据えて一歩歩み寄った。
「これからこの街に、虹色の光が降ってくる。そいつはカオスヘッダーと言って、お前の願望や俺の絶望を喰らって、俺たちを怪物に変え、この世界を三度……いや、四度滅ぼしてきた。」
「……キョン、あんた……何を……」
「黙って聞け。……俺は、そのループを四回繰り返した。俺がお前を突き放しても、二人で怪物になっても、ウルトラマンに助けを求めても、結局は全部失敗した。……俺は、一人の地下室で40年、お前が死ぬのを待っていたこともある。」
俺は、自分の脳内に刻まれた凄惨な記憶を整理しながら、彼女に突きつけた。
「これまでの失敗は全て『埋没原価(サンクコスト)』だ。俺たちは過去の損失に囚われて、心中を選ぶべきじゃない。……ハルヒ、俺は決めた。今度は、何が起きてもお前から逃げない。お前を怪物にさせないし、俺も一人で泥を被ったりしない。」
「カオスヘッダーが来たら、俺と一緒にそいつを飲み込むんだ。……怪物になるなら、二人でなろう。そして、その異形(ちから)を、俺たちの『日常』を守るための固定資産として使い潰してやる。……お前が望む非日常の全てを、俺が隣で全部受け止めてやるから」
「……キョン……。あんた、……本気なの?」
「ああ。五度目の正直だ。……俺は、お前と共に生きる未来しか、もういらない」
ハルヒの目から、一筋の涙が零れた。
彼女には記憶がない。だが、俺が発する圧倒的な情報の質量と、40年分の情念の重さが、彼女の魂を激しく揺さぶっていた。
彼女は、俺の胸ぐらを強く掴み返し、震える声で笑った。
「……ふん。……最高に痛い告白ね。……でも、……いいわ。……あんたがそこまで言うなら、……私が、あんたのその『地獄の記憶』ごと、全部上書きしてあげるわよ!!」
その瞬間、窓の外の空が、虹色にひび割れた。
カオスヘッダーとの五度目の接触。
だが、今度の俺たちの胸にあるのは、絶望でも逃避でもなかった。