涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

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第四章:蹂躙と絶望の連鎖(第一部)

ズズォォォォォン……ッ!!

 

西宮の空を、この世のものとは思えない低い咆哮が震わせた。

それは猛獣の唸り声のようでもあり、金属が軋む不協和音のようでもあった。半径数キロ圏内の建物の窓ガラスが一斉に内側へ弾け飛び、逃げ惑う人々の鼓膜を容赦なく破壊していく。

 

夕闇に包まれつつある街の中心に屹立するのは、身長およそ50メートルに達する異形の巨人――カオスウルトラマン。

その正体が、つい数時間前まで同じ街を歩いていたただの女子高生、涼宮ハルヒであるなどと、誰が想像できるだろうか。

 

巨人が一歩を踏み出すたびに、アスファルトはめくれ上がり、ひしめき合っていた車両はアルミ缶のように踏み潰されていく。

 

『あはは……あはははは! 見て、みんな私を見てる!』

 

カオスウルトラマンの体内で、カオスヘッダーと完全に融合したハルヒの意識は、これまでにない万能感と高揚感に包まれていた。

足元を逃げ惑う人々は、かつて野球場で見た「自分を構成する砂粒」以下の存在に成り下がっていた。彼女が腕を振るうだけで、見慣れた駅前の商業施設がトランプの家のように崩壊し、土煙が舞い上がる。

彼女はもう、退屈な日常に埋没するちっぽけな存在ではない。世界に絶対的な影響を与える「神」そのものだった。

 

一方、その頃。

首都・東京にある防衛省の地下指揮所は、怒号と混乱の渦に飲み込まれていた。

 

「対象は依然として破壊活動を継続! 西宮市中心部の被害は甚大、死傷者数はすでに数千の規模を超えていると推測されます!」

「警察と消防の手に負える状況じゃない! 早く自衛隊を出せ!」

「馬鹿を言え! 相手は正体不明の巨大生物だ。これは『武力攻撃』なのか、それとも鳥獣保護法における『害獣』なのか!? 防衛出動を下令するのか、災害派遣なのか、法的な根拠がまとまっていないんだぞ!」

 

未曾有の事態を前に、国家の意思決定機能は致命的なまでに停滞していた。

現実の法律は、女子高生が宇宙ウイルスに寄生されて巨大なウルトラマンの偽物になることなど想定していない。閣議決定と手続きの応酬が繰り返される間にも、西宮の街は1秒ごとに瓦礫へと変えられていった。

 

ハルヒが巨大化してから、およそ2時間が経過した頃。

ようやく「超法規的措置」という名目で、伊丹の第3師団から10式戦車を中心とする部隊が西宮へと到着した。しかし、それはあまりにも遅すぎる到着だった。

 

「こちら第1小隊、目標を視認。……なんてデカさだ。悪ふざけにも程があるぞ……」

 

燃え盛る街を背景に立つ巨人の威容に、戦車長は思わず息を呑んだ。

だが、彼らもプロフェッショナルである。恐怖を押し殺し、砲塔をあの禍々しい青と赤の身体に向けた。

 

「全車、目標の脚部を狙え! 撃てッ!!」

 

轟音とともに、10式戦車の120ミリ滑腔砲が火を噴いた。

放たれたAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は、音速を超えてカオスウルトラマンの膝関節へと殺到する。いかなる最新鋭の複合装甲をも貫く、人類の英知の結晶。

 

だが――。

ピキィィィンッ! という甲高い硬質音が響いた直後、戦車兵たちは絶望的な光景を目撃することになる。

 

着弾の瞬間、巨人の表面に虹色の波紋のようなエネルギーシールド(カオスバリア)が展開され、徹甲弾は表面に傷一つ、いや、煤一つすらつけることなく弾き返されたのだ。

 

『……うるさいわね。虫がまとわりつかないでよ!』

 

ハルヒの苛立ちに呼応するように、カオスウルトラマンがゆっくりとその右手を戦車隊の方へと向けた。

指先から、黒紫色の禍々しいエネルギー球が凝縮されていく。

 

「退避! 全車退避ィィッ!!」

 

通信機越しの絶叫は、一瞬の閃光と耳を劈く爆発音によって掻き消された。

カオスウルトラマンが放った『カオスプロミネンス』が、一帯の道路ごと戦車隊を消し飛ばしたのだ。

後に残されたのは、ドロドロに溶けた鉄の塊と、焦げたアスファルトの悪臭だけだった。

 

上空から駆けつけたF-2戦闘機のミサイルも、ただの一発も届くことなく、巨人の放つカオススラッシュ(漆黒の三日月型光線)によって空中でゴミのように叩き落とされていく。

 

人類が誇る武力は、一人の少女の「特別になりたい」という中二病の妄想が生み出した暴力の前に、何一つ意味を成さなかった。

西宮の街は今、完全に彼女の足元にひれ伏していた。

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