西宮の海岸に、かつてない規模の虹色の光柱が立ち昇った。
空から降り注いだカオスヘッダーは、キョンの「地獄の記憶」とハルヒの「強烈な情念」という最高の餌食を同時に手に入れたと確信し、二人を巨大な光の繭の中に飲み込んだ。
だが、カオスヘッダーの演算は、キョンの放った言葉によって既に狂い始めていた。
(――拒絶するな、ハルヒ。全部飲み込んで、俺たちの血肉にするんだ!)
繭の内部。キョンとハルヒは、互いの魂が溶け合い、情報の奔流に流されそうになりながらも、決してその手を離さなかった。
キョンの脳裏を掠める40年間の暗闇、仲間の死、ウルトラマンの敗北。
それら全ての「負の資産」を、ハルヒの「あんたを独りにしない」という強烈な『愛(資本)』が、次々と塗り替えていく。
「……あはは! 凄いわね、キョン! あんたの絶望、案外、歯ごたえがあるじゃない!!」
「……ふん。……笑ってる場合か。……ハルヒ、今だ……!!」
二人の意志が、カオスヘッダーの支配を内側から食い破ろうとしたその時、天空から青い慈愛の光が突き刺さった。
『――二人とも、その想いを離さないで!!』
春野ムサシが変身した、ウルトラマンコスモス(エクリプスモード)が降臨する。
前回のサイクルで敗北したムサシ。だが、今の彼には、キョンが命懸けで伝えた「未来の予兆」が届いていた。
コスモスは、暴走する虹色の繭を優しく包み込むように着地すると、その両手から黄金の浄化波動「コスミューム光線」を放った。
それは破壊の光ではない。
キョンとハルヒの『愛』という名の結束(バリア)を保護しながら、その隙間に巣食うカオスヘッダーの「悪意」だけを分離し、宇宙へと還すための『慈愛と勇気の光』だった。
カオスヘッダーという闇をコスモスの光へと譲渡し、キョンとハルヒは『絆』という名の資産を保持したまま、新しい日常として再スタートを切る。
「……が、あ、あああああぁぁぁぁっ!!!」
繭が激しく震え、漆黒の霧が二人から剥がれ落ちていく。
カオスヘッダーは、キョンの40年の恨みを食らおうとしたが、そこにハルヒの「未来への希望」が混ざったことで、情報の毒に当てられ、自ら分離を選ばざるを得なくなった。
「「――俺たちの日常を、返せぇぇぇぇぇ!!!」」
二人の叫びがコスモスの光と共鳴し、虹色の繭は眩いばかりの純白の光を放って弾け飛んだ。
俺は砂浜に仰向けに倒れていた。
隣には、同じように砂まみれになったハルヒが、荒い息をつきながら、それでも満足げに空を仰いでいた。
「……勝った、のか?」
「当たり前でしょ。誰だと思ってるのよ。……SOS団の、団長よ」
ハルヒが、泥だらけの手で俺の手を握った。
その手の熱さは、前回のサイクルで怪物になった時のそれではない。ただの、16歳の少女の、確かな体温だった。
「キョン。あんたの言ってた40年とか、ループとか……正直、まだ半分も信じてないわよ」
「……だろうな。俺でも信じられん」
「でも。……あんたが私を好きだって言ったことと、私が、あんたを絶対に離さないって決めたこと。……それだけは、何回やり直しても変わらない『事実』にしてあげるわ」
ハルヒが、いつもの不敵な笑顔で俺を見た。
俺の胸の奥に残っていた「地獄の記憶」が、その笑顔に触れて、ようやく静かな、ただの「過去の記録」へと変わっていくのを感じた。
背後から、長門や古泉、朝比奈さんの声が聞こえてくる。
能力のない、ただの高校生としての彼らが、泣きそうな顔でこちらへ駆けてくる。
俺たちは、ついに手に入れたのだ。
コスモスさえも救えなかった絶望を、二人で飲み込み、消化し、新しい日常として生きていく。
五度目の正直、だった。