涼宮ハルヒの混沌(カオス)   作:D-ken

7 / 43
第四章:蹂躙と絶望の連鎖(第二部:古泉と朝比奈の視点)

「あ……あぁ……。は、ハルヒさん……?」

 

瓦礫の山となった文芸部室の片隅で、古泉一樹の声が、見たこともないほど惨めに震えていた。

いつもなら、どんな無茶な状況でも「ふふ、面白いですね」と不敵な笑みを絶やさなかった彼だ。だが今、その顔には余裕の欠片も残っていなかった。頬は土汚れと冷や汗で汚れ、端正だった顔立ちは恐怖に引きつり、見るも無残に崩れている。

 

彼は超能力者でも何でもない。ただの、少しばかり弁が立ち、世の中を俯瞰して見ている気になっていた、増長しただけの男子高校生だった。

 

「嘘だろ……。こんなことが、あっていいはずがない……。これは何かの間違いだ……!」

 

古泉はガチガチと歯の根が合わないほど震えながら、後ずさった。

彼の視線の先には、かつて「団長」と呼んでいた少女の成れの果て――カオスウルトラマンの巨大な踵があった。

一歩。巨人が動くたびに、古泉が信じていた「論理的で秩序ある世界」が物理的に粉砕されていく。彼の誇っていた知識も、人脈も、将来の展望も、あの巨大な足の一踏みで、道端のゴミ同然に無価値なものへと変えられたのだ。

 

「ひぅっ……、あ、うわああああああ!!」

 

ついに古泉は耐えきれず、頭を抱えて叫び声を上げた。それはプライドも知性もかなぐり捨てた、死に物狂いの悲鳴だった。

 

その横で、朝比奈みくるさんは、もはや泣くことすらできずにいた。

彼女は床に膝をつき、胎児のように丸まってガタガタと震え続けている。

 

「ハルヒちゃん……、嘘……嘘よ……。どうして……こんなこと……」

 

彼女にとって、ハルヒは怖くて、強引で、でもどこか眩しい存在だった。

だが、今目の前にいるのは、愛すべき団長ではない。

自分たちを見下ろし、嘲笑い、西宮の街を死体の山に変えていく、虹色の狂気を纏った「災厄」そのものだ。

 

みくるさんの脳裏には、昨日まで部室で飲んでいたお茶の香りが、ハルヒの笑い声が、幻のように浮かんでは消えていく。その日常が、あの巨大な爪先が振り下ろされるたびに、真っ黒な絶望に塗りつぶされていく。

 

「いやぁぁぁ! 誰か、誰か助けてください! キョン君……長門さん……おうちに帰りたい……っ、怖い、怖いよぉぉ!!」

 

彼女の叫びは、巨人の足音にかき消された。

未来から来たわけでもない、ただの心優しい女子高生にとって、この「終わりの光景」はあまりにも過酷すぎた。彼女の精神は、ハルヒが放つ殺意と絶望のプレッシャーに耐えられず、真っ白な霧の中に逃げ込むように、意識を混濁させていく。

 

古泉は、そんなみくるさんの肩を掴むことすらできなかった。

彼は自分の保身だけで精一杯だった。指先一つ動かすことができず、ただ目の前の巨大な絶望を見上げ、失禁せんばかりの恐怖に支配され、魂が抜け落ちたような虚ろな目で宙を見つめていた。

 

SOS団。

かつて世界を賑わせるはずだったその集団は、今や崩壊した校舎の影で、ただの「無力な犠牲者」として、自分たちの終わりの時を待つだけの存在に成り下がった。

 

巨人は、そんな彼らの絶望を養分にするかのように、再び西宮の街へと向かって咆哮を上げた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。