西宮の空が、一瞬だけ神々しい青い光に包まれた。
燃え盛る街の火を鎮めるかのように、空から緩やかに舞い降りてきたのは、慈愛の戦士――ウルトラマンコスモス(ルナモード)だった。
「……光の、巨人……」
瓦礫に埋もれたキョンが、掠れた声で呟く。
それは、ハルヒがずっと待ち望んでいた「非日常」の象徴だった。だが、今の彼女にとって、その光は目を焼く不快なノイズでしかなかった。
コスモス――春野ムサシは、目の前の異様な光景に言葉を失っていた。
そこにいるのは、ただの「カオスヘッダー」ではない。少女の激しい情念と、肥大化した自己顕示欲が、ウイルスの力を異常なまでに活性化させている。
『……ハルヒ……! 戻るんだ、ハルヒ! 君は、こんなことを望んでるんじゃないはずだ!』
ムサシの叫びが、コスモスの意思を通してカオスウルトラマンへと響く。
コスモスは戦うことを拒み、両手を広げた。慈愛の光――「フルムーンレクト」が、波紋のように巨人の身体を包み込む。狂った精神を鎮め、寄生したカオスヘッダーを分離させるための、優しい救済の光。
しかし。
『……うるさい。うるさいわよ、あんた!!』
カオスウルトラマンの口から、ハルヒの怒声が重なり合って響いた。
虹色のシールドがフルムーンレクトの光を乱反射させ、無慈悲に弾き飛ばす。
『優しくすれば、私が救われると思ってんの!? 私を可哀想な「犠牲者」扱いしないで! 私は、自分の意思でこの力を手に入れたの! 砂粒みたいな日常に戻るくらいなら、私はこのまま世界を壊し尽くす怪物でいいわ!!』
ハルヒの絶望は、慈愛すらも攻撃の糧に変えた。
カオスウルトラマンは漆黒の光弾を至近距離で放ち、無防備なコスモスの胸を撃ち抜いた。
「ぐわぁっ……!」
地面に叩きつけられるコスモス。
彼はすぐさま立ち上がり、激しい戦闘形態であるコロナモードへとチェンジした。炎のような赤い光を纏い、格闘戦を挑む。だが、カオスヘッダーはコスモスの動きを完璧に先読みしていた。
ドカッ! バキィッ!!
鈍い衝撃音が、瓦礫の街に響き渡る。
コスモスのパンチは空を切り、逆にカオスウルトラマンの鋭い拳がコスモスの装甲を切り裂く。
防衛軍の戦車すら寄せ付けなかった巨体のパワーに加え、暴走したハルヒの持つ「予測不能な暴力性」が加わった攻撃は、歴戦の勇者であるコスモスを一方的に蹂躙していった。
「ハ、ハルヒ……やめろ……もうやめてくれ……っ!」
キョンの叫びも、もはや届かない。
カオスウルトラマンは、地に伏したコスモスの首を掴んで持ち上げた。
『あははは! 見てよ、キョン! 有希! みくるちゃん! 古泉くん! 私たちの夢だった「宇宙人」との対面よ! ほら、こんなに惨めに足掻いてる! 面白いわよね!』
巨人の目が、狂喜の色を帯びた紅に染まる。
彼女はコスモスの胸に手を当てると、そこから直接、漆黒のエネルギーを流し込んだ。
「カオスプロミネンス」
凄まじい衝撃波がコスモスの内部を破壊し、その身体を内側から焼き尽くしていく。
ピコン……ピコン……。
静まり返った街に、コスモスのカラータイマーの音が虚しく響く。それは、この世界から「善意」と「希望」が消えゆくカウントダウンだった。
そして、タイマーの光が消えた。
コスモスの身体は粒子となって霧散し、力尽きた春野ムサシが、瓦礫の山へと力なく落下していった。
勝利したのは、ハルヒ。
彼女が望んだ「非日常」は、最強の守護者を斃すという最悪の形で完成した。
カオスウルトラマン(ハルヒ)は、死に絶えた街の中心で、満足げに天を仰いで咆哮した。
その足元には、もはや言葉を失い、精神が完全に崩壊したSOS団のメンバーたちが、ただの肉の塊のように転がっているだけだった。
西宮に、永遠の夜が訪れる。