ウルトラマンコスモスが消滅したという事実は、日本政府、そして世界を戦慄させた。
もはや「対話」や「救済」の余地はない。内閣総理大臣は、史上初となる「武力攻撃事態」を認定し、自衛隊に対して「防衛出動」を下令した。
西宮市は、実質的な放棄区域となった。
「こちら、市ヶ谷の中央指揮所。全部隊へ通達。目標は依然として西宮市街地を蹂躙中。コスモスの消滅を確認。これよりフェーズ・オメガへ移行する。……目標を『敵性巨大生命体』と断定し、殲滅せよ。手段は問わない」
その冷徹な指令とともに、日本全土から集結した精鋭部隊が動き出した。
地上では、富士教導団の特科連隊が、西宮を見下ろす山々に155mmりゅう弾砲やMLRS(多連装ロケットシステム)を展開。その数は、演習でも見たことがない規模に達していた。
そして、海上。
大阪湾には、在日米海軍の第7艦隊と、海上自衛隊の護衛艦群が並んでいた。
「トマホーク、発射準備(Ready to fire)。目標、カオスウルトラマンの重心部。……全弾、撃て(All batteries, fire)!!」
米軍のイージス艦から、次々と漆黒の矢が空へと放たれた。トマホーク巡航ミサイルが、噴煙を上げて西宮の空を切り裂く。同時に、嘉手納や横須賀、そしてグアムから発進したF-35ステルス戦闘機の編隊が、上空から精密誘導爆弾「JDAM」を投下した。
『……あはは! きれい! 流れ星みたい!』
瓦礫の上に座り込むカオスウルトラマン(ハルヒ)は、空を埋め尽くす火の雨を見上げて、無邪気な少女のように笑った。
ズドォォォォォンッ!!
ズガァァァァァァァンッ!!
数え切れないほどのミサイルと砲弾が、巨人の身体を包み込んだ。爆発の衝撃で、周辺のビルは粉塵となり、西宮の夜空は太陽が現れたかのような光に飲み込まれた。
かつてのSOS団の拠点だった北高の校舎も、もはや形を留めていない。
「……やったか?」
遠方の観測所にいた自衛官が、双眼鏡を握りしめて呟いた。
だが、爆煙が晴れた先に見えたのは、傷一つ負っていない、虹色のバリアに守られた絶望の姿だった。
『……でも、もう飽きちゃった。少しは私を驚かせてよ!』
ハルヒが立ち上がると同時に、その全身からカオスヘッダーの光が溢れ出した。
彼女は受けた攻撃の熱量を、そのまま自分のエネルギーへと変換していたのだ。人類が火力を集中させればさせるほど、カオスウルトラマンは強く、凶暴にアップデートされていく。
カオスウルトラマンは、天に向かって両腕を突き出した。
その指先から放たれたのは、漆黒の追尾光弾。
「なっ……ミサイルを……迎撃しているのか!?」
空中で複雑な軌道を描く光弾は、人類の誇る最新鋭戦闘機を次々と捉えた。回避行動すら許されず、F-35は空中でオレンジ色の花火となって散っていく。
さらに、カオスウルトラマンは地面に右手を叩きつけた。
ズズズ……ッ!!
地面を伝う漆黒の衝撃波が、山々に陣取っていた自衛隊の特科部隊を襲う。10式戦車も、最新の自走砲も、地割れに飲み込まれ、あるいはエネルギーの奔流によって跡形もなく消し飛ばされた。
人類が誇る「飽和攻撃」は、一人の少女の「飽きた」という一言で、無意味な鉄屑の山へと変えられた。
「嘘だろ……。これだけの攻撃を耐えて、なお出力が上がっている……」
市ヶ谷の指揮室では、モニターに映し出される壊滅的な被害報告に、将官たちが腰を抜かしていた。米軍もまた、日本本土へのさらなる増援と、最終手段としての戦術核の使用すら検討し始めていた。
だが、ハルヒ(カオスウルトラマン)は、そんな人類の苦悩など一切気に留めていなかった。
彼女の目は、さらなる「面白いもの」を求めて、震えるSOS団の生き残り――瓦礫の中で泥にまみれたキョンたちの姿を探していた。
「見てて、キョン。これから、もっとすごい『非日常』を見せてあげるから」
カオスウルトラマンの笑い声は、今や西宮全域、いや、日本中のラジオやテレビのノイズを突き抜けて響き渡っていた。