自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第12話 幼馴染の涙を止めたい

 拝啓、誰か助けてくれる人。

 

 暑い季節になりましたね。元気ですか?

 

 さて、俺は今緊急事態に陥っています。

 天使の真似をするというボケをしたら、幼馴染は一切笑わず、顔面蒼白になってしまいました。

 どうしたらいいですか?

 っていうか助けてください、頼むから。

 

 心の中で、助けを求める手紙を書くほど、俺は今混乱している。

 

 そりゃそうだろう。天使の真似をしただけで顔面蒼白になってしまったんだから。

 さっきまで抱き合っていたのは何だったんだよってくらいの感情の急降下だ。

 

 どう対処すればいいんだ。

 どうすれば、いつもの祐奈に戻ってくれるんだ。

 

 ちゃんと考えなくてはいけないが……そんな悠長に考えている暇はない。

 祐奈は今にも泣きだしそうだからだ。

 

「ゆ、祐奈……?」

「……グスッ」

 

 本当にまずい。ついに泣き声まで出始めた。時間がない!

 徐々に目に涙がたまっていく祐奈を見ながら頭をフル回転させる。

 

 追い詰められた俺が出した答えは——

 

「えっとだな……あれ、天使の物まねじゃなくって、鳥の物まねなんだ」

 

 ——苦しすぎる取り繕いであった。

 

 もしかすると、天使の物まねが下手すぎて気に食わなかったのかもしれない。天使のわっかもないし。

 あまりのクオリティの低さにこんなつまらない奴と幼馴染だという事実にさっきまでの雰囲気を壊すほど絶望し、泣きそうになっているのだろう。

 

 だから、天使ではなく鳥ということにしておけば、天使のわっかがなくてもいいので人を絶望させるほどの低クオリティと思われることはない……はずだ。

 

 何言ってんのという声が聞こえるが、気のせいだろう。

 というか、気のせいってことにさせてくれ。そうじゃないとメンタルが持たん。

 俺だってこの言い訳が意味不明すぎるのはわかっているんだから。

 

 でも、俺にはこれしか思いつかなかった。何とか通ってくれ……!

 受験の時よりも強い想いで俺は願う。

 

 果たして俺の願いは——

 

「ふふっ」

「あ、笑った」

 

 ——通じた。

 

 涙をぬぐいながらではあるが、祐奈が笑ってくれた。

 やっぱり、彼女に泣き顔は似合わない。

 こうして笑っていたほうが何倍も可愛い。

 

「ありがとう。私、ちょっと深く考えすぎていたのかも」

「まぁ、何を考えているのかは知らんが……俺だって天使になるつもりはないからな」

「……! そうだよね。ひろくんは生きるよね」

「そりゃそうだろ——って、またかよ!」

 

 祐奈がまた俺に抱き着いてくる。

 こんなに抱き着くのが好きな奴だったっけ……?

 

 それに……なぜか震えている。

 今は夏。寒さで震えるなんてことはない。

 そして、俺のモノマネは完全に滑った。笑顔になってくれたとはいえ、爆笑で震えているわけがない。

 

 意味の分からない祐奈に少し戸惑ったが……

 幼馴染だからだろうか、こちらからも抱き返してあげていくうちに気付いた。

 

 この震えは——怯えだ。

 

 あの祐奈が怯えている。

 ここにはお化けとか怖い存在がいるわけでもないのに。

 

 祐奈、お前は一体何を怖がっているんだ……?

 

「まぁ、でもとりあえず夏休みは一緒に遊んでもらうからね」

「えっ?」

 

 と、考えていたのも束の間、急に夏休み遊ぶ宣言が飛び出してきた。

 ポイントは、「遊ぼうね」という誘いではなく、「遊ぶからね」という宣言だというところだ。

 何が何でも遊ぶ、という強い意思を感じる。

 

「え、じゃないの。遊ぶから。わかった?」

 

 ほら、こうして逃がさまいと詰めてきているし……ってどんどん近づいてくる!

 近いって! さっきまでのことを思い出しちゃうから離れてくれ!

 

 まるでキスでもされるのかと思うくらいの接近に戸惑ってしまう。

 だけど、俺を責めないでほしい。こんな美少女に接近されたら誰だって混乱する。

 

 というかむしろ褒めるべきだ。

 俺じゃなきゃどさくさに紛れてキスしてもおかしくないぞ。

 この幼馴染には男に対する警戒心というものがないのだろうか。

 

「わかったよ、遊ぶって」

「絶対だよ?」

「絶対遊ぶから、ちょっと離れよう」

 

 狼にならないよう必死に耐えた俺の言葉を聞き、祐奈がゆっくりと離れていく。

 その表情には少し不機嫌さが混じっている。

 しぶしぶ離れてやった、といったところだろうか。

 

「俺だって祐奈とは遊びたいなって思っていたんだ。だからそんな顔をするな」

「本当!? ひろくん!」

 

 三度抱き着こうとする祐奈をなんとか制しながら、俺は考える。

 

「なにするのさ!」

 

 ……とりあえず、軽く無視をしながら。

 

(今日の祐奈はおかしい)

 

 朝と昼、この短い時間に何度も変なことが起きている。

 

 見つめあったり、ハグしたり——

 

 今までの俺たちならあまり考えられなかった行為だ。

 

 先ほどの怯えだってそう。

 ただおふざけをしただけなのに、俺たちにとっては何でもない普段通りの日常のはずなのに……

 

 それに、この遊びの誘い。

 祐奈はここまで俺を強引に誘うような幼馴染ではなかったはずだ。

 俺が遊びに誘えばすぐに乗ってくれるが、彼女の方から誘われることはほとんどなかった。

 

 恋愛作戦の実行中だし、祐奈をもっと知るためにも遊びに行くこと自体は大歓迎だ。

 

 しかし、なにか、これまでとはなにかが違うと思えてならないのだ。

 

 いや、でも漫画喫茶代わりに俺の部屋を勝手に使っているんだから元々そういう幼馴染なのか……?

 にしたって……わからん。

 

「ひろくん、何考えているの?」

「ん? 祐奈のこと」

「……ならいいや」

 

 考えても答えは出ない。

 そもそも、これは人の心の問題だ。答えなどないのだろう。

 

 しかし、俺の心はかすかな違和感を覚えていた。

 

 その違和感を明らかにするためにも、夏休みに入るまでの数日間、俺は祐奈のことをさらに知らないとな。

 決意を新たに、俺は祐奈と2人で非常階段を後にした。

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