自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第16話 いきなり会うと誰でも驚く

 まさか、関口の志望校が月高だったとは。

 嬉しいのは嬉しいが……かわいい後輩のためを思うなら止めてあげるべきだろう。

 

「いやいや、考え直したほうがいいって」

「どうしてですか? 先輩と一緒の高校に行きたいっていう後輩を応援してくださいよ」

「だって……関口の頭の良さ、俺と一緒ぐらいだったじゃん」

 

 中学時代に関口から頼まれて何度も勉強に付き合う機会があったが、彼女の学力は同時期の俺と同じくらいに見受けられた。

 確かにバカではないし、平均以上の学力はある。だが、天才とまではいかない。

 そんな上の下ぐらいの学力の持ち主だったはずだ。

 つまり、これが何を意味するかというと——

 

「断言するが、関口も高校入ってからめちゃくちゃ大変になる。そのせいで一生にたった3年間しかない高校生活を謳歌できなくなるんだぞ。そんな花の女子高生がそれでもいいのか?」

「……ダイジョウブデス」

「カタコトじゃねぇか」

 

 不安そうに見つめる関口。

 本来、人の志望校に口出しする権利なんて俺にはない。

 どんな学校であろうと、そこを目指して勉強し、受験するのは個人の自由だからだ。

 親ですら子供の意思を完全に無視した口出しはよくないのに、俺が言っていいはずはない。

 

 でも、関口は俺を慕ってくれる唯一の後輩だ。

 そんな可愛い後輩の高校生活だからこそ、勉強に追われるだけでなく、一度きりの青春を楽しんでほしい。

 そう思ってしまうのが、先輩心ってやつだ。

 

 ……が、本人がそれでも、というのであれば仕方ない。

 表情こそ不安や緊張でガッチガチだが、目には強い意志が宿っているように思える。

 なにがなんでも月高へ、と考えているのだろう。

 

「わかった。じゃあ、全力で頑張れ。関口が入ってくるのを待っているからな」

「はいっ、絶対に行きますね! その暁には学校を案内してください!」

「案内か……そこまで案内するような場所はほとんどないけど、いいよ」

「やったー! 絶対ですからね、先輩」

 

 さっきまでの不安を感じさせる目はどこへやら。今度は輝いた目で見つめてくる。

 ころころと表情が変わる。本当に見ていて楽しい後輩だ。これでまた一緒の学校に通えるなら、とても嬉しい。

 ぜひとも受験に協力してあげたい。

 だが……

 

「でも、ごめんな。俺、自分のことで手いっぱいで——」

 

 中学の時みたいに教えてやれない。

 そう言おうとしたところで、思い出す。

 そういえば今日は終業式。夏休みが始まったのだ。

 夏休み中なら時間はたっぷりある。

 由奈との約束はあれど、流石に毎日24時間遊ぶわけでもない。

 

(夏を制すものは受験を制すっていうしな。俺でも力になれるかもしれん)

 

 それに、ここまで慕ってくれているんだ。

 その尊敬に値する行動をしないと先輩の名が廃るってものだろう。

 

「いや、夏休み期間中だけなら教えられるけど、どうだ? また一緒に勉強するか?」

「あ、その点は大丈夫です! 祐奈先輩が教えてくれていますから」

「祐奈!?」

 

 一瞬で断られた。

 しかも、断られた衝撃でつい大きな声が出てしまった。他にお客さんはいないとはいえ、マスターに頭を下げておこう。

 

 にしても、祐奈か……

 確かに頼む相手としては適任だ。俺を合格させた実績もある。祐奈が教えてくれるなら間違いないだろう。

 

 しかし、ここでも負けか。後輩からの頼られ度ですら勝てないのか。

 祐奈を頼るのは絶対に正しいから文句は言えないが……先輩、悲しい。

 

「祐奈先輩とは卒業してからも連絡を取っていたんですよ……はくじょーな誰かさんと違って」

 

 ぎろり、と関口の目線が俺に刺さる。

 

「それはすまん。ただ、関口を忘れていたとかじゃないんだ。あまりにも勉強ついていけなくてだな……」

「祐奈先輩から状況は聞いてましたし、いいですよ……寂しかったけど」

「来年入学したらいっぱい埋め合わせはするからさ、それで許してくれないか?」

「……約束ですからね? 来年も勉強がーなんて言ってたら承知しませんよ?」

 

 ぐいぐいと詰めてくる。ここ数か月がよほど不満だった様子だ。

 

「そういえば、話は少し変わるんですけど……最近、祐奈先輩に何かありました?」

「祐奈に?」

 

 変わったことか……

 最近の祐奈には少し違和感がある。

 非常階段での何かに怯えた震えとか。

 

 しかし、それが何で起きたかは未だにわからない。

 

「俺もちょっと思うところはあるんだが……何があったかまではわからんな」

「そうですか……なんか最近妙に焦っている気がして」

「焦っている? 何にだ?」

「教えてくれませんでした。これは私がしなきゃいけないことだからーとかで」

「そうか……」

 

 やはり、祐奈に何かあるのは間違いない。

 それも、後輩にすら隠し切れないほどの何かが。

 

 一体祐奈は何と戦っているんだ……?

 

 こうして祐奈のことを考えていた時だった。

 

 ——カランコロンッ

 

 喫茶店の扉が開かれる。

 俺たち以外客のいないこの喫茶店にもようやく他の客がやってきたようだ。

 いったい誰が入ってきたのかと見てみると——

 

 周囲を見回している祐奈の姿がそこにあった。

 

 そして、俺たちの視線があっていき……

 

「ひ、ひろくん!? どうしてここに……?」

「祐奈こそ! なんで喫茶店に来たんだ……?」

 

 お互い不意の遭遇に驚くこととなった。

 

「……あ、先輩たちに言うの忘れてた」

 

 小さくポツリと呟いた関口の言葉を俺は聞き逃さなかった。

 ……これはどういうことかな、関口よ。

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