自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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side:祐奈 終業式

 私は今、朝から通学路を猛ダッシュしている。

 

 遅刻しそうなわけでもないし、なにか急用があるわけでもない。

 それもこれも全部、ひろくんのせいだ。

 

 始まりは朝、ひろくんの家の前からだ。

 

 家から出てきたひろくんは、偶然私と出会ったと思うだろう。

 だが、当然違う。私はひろくんが出てくるのを今か今かと待っていたのだ。

 

 もちろん、近所の人には変な目で見られた。

 近所の老夫妻なんかは警察に電話する寸前だったのか、携帯を片手にこちらの様子をうかがっていたくらいだ。

 それはまずいと思った私が挨拶をすると、不審者を見る目つきが一転。生暖かい目線に変わった。

 ご近所さんたちはみんな私とひろくんが幼馴染ってことを知っているから。

 ……そして多分、私の気持ちも。

 

 だからそのまま、老夫妻は「なるほど、若いっていいわねぇ」と言いながら去っていき、私は警察のお世話にならずに済んだのだ。

 

 ちょっと恥ずかしいけれど……幼馴染バンザイ!

 普通ならストーカーで捕まってしまうが、幼馴染という関係性だけですべてが許されてしまう。

 幼馴染に勝るものはないと断言したっていい。

 

 しかし、ここで歯車が狂った。

 私の想定では、今頃その幼馴染という関係性の素晴らしさに感謝しつつ、一緒に登校しているはずなのに。

 

 想定外その一。

 ひろくんが私でも少し引くレベルの変顔をしていた。

 

 想定外その二。

 変顔をしていた原因は私と過ごす時間が増えるからだった。

 

 想定外その三。

 たくさん遊ぼうと誘ってくれた。

 

 もう限界、キャパオーバーである。

 

 好きな人にこんなことを言ってもらえるのだ。

 嬉しいやら恥ずかしいやらでもうおかしくなりそうだ。というか、もうなっている。

 じゃなきゃ、花の女子高生が公道を全力ダッシュなんてしない。

 

 ひろくん、まだ喋っている途中だったよね。

 失礼な奴だとか思われていないだろうか。

 もしこれで、好感度が減ってしまったら……

 

「いやだなぁ……」

 

 ポツリと呟いた一言は、私が切った風と共に流れ、消えていった。

 

 大きく歴史が変わるから付き合っちゃダメなのはわかっているはずなのに。

 ひろくんからの好感度なんか私の使命には関係ないのに。

 

 それでも、私はひろくんに——好きな人に嫌われたくない。

 

 そう強く思った。

 

 ◇

 

 終業式が終わった。

 

 普段より学校が終わる時間が早いとはいえ、朝、全力ダッシュした私はもうヘトヘトだった。

 遊ぶ気力も残っていない、ということで、友人たちからカラオケに誘われたが、断って帰ることにした。

 一緒に帰りたいなと思ってひろくんの席を見ると、もう帰ったのかもう姿はなかった。

 

 いないなら仕方ない。一人寂しく帰るとするか。

 帰りに何か買うものあるかな、と思ってスマホを見ると後輩からの連絡が1通あった。

 夏休みの勉強を相談したい、とのこと。

 

(そうだった。今日は翼ちゃんと会う約束をしていたんだった)

 

 関口翼。

 ころころ変わる表情が可愛い、私とひろくんの後輩だ。

 

 だけど、そんな後輩の表情はある日から一切変わらなくなった。

 1周目の世界、ひろくんが死んだ忌々しいホワイトデーの日から。

 

 お葬式の時、彼女は無表情だった。

 目は赤く、頬には涙の跡がついていたが……その表情は硬く、鉄仮面のようだったことを覚えている。

 そしてその後、彼女は文字通り消えた。自らの足で、海の底へと。

 

 遺書にはただ一言「先輩がこんな目に遭う世界で生きていたくない」とだけ書かれていた。

 彼女はひろくんにずいぶん懐いていた。

 勉強を見てあげているときも、高校に行ったら先輩とたくさん遊ぶんだっていつも楽しそうに話してくれていた。

 彼女にとってはつらい受験勉強を頑張っていたのは、ひろくんの存在があったからこそなのだ。

 その反動が最悪の結果として表れてしまった。

 

 もちろん1周目と同じように、今も彼女に勉強を教えている。

 ひーひー言いながらも、成績は着実に上がってきた。

 その原動力はやはり、ひろくんなのだろう。

 

 この可愛い後輩の命を散らさないようにも、ひろくんは絶対救わねばならない。

 

(私が頑張らないと……!)

 

 気持ちを新たに教室を出て、外に出た。

 連絡によると、校門前で待っているとのことだった。

 中学生が高校に来るなんて目立ってしょうがない。

 小動物的な可愛さから周囲の注目を集めることには慣れているだろうからそこまで気にしなくてもいいんだけど……早く行ってあげるに越したことはない。

 急いで靴を履き替え、校門へ向かう。

 

 しかし……

 

(あれ? いない……?)

 

 そこに後輩の姿はなかった。

 約束ではここで待ち合わせのはずなのに。

 まだついていないのかな?

 

 ——ピコンッ

 

 と思ったその時、ちょうど連絡がきた。

 

 『喫茶店に行ってますね!』

 

 ……自由な後輩だ。

 そこもまたかわいいところではあるが。

 

 しかし……喫茶店か。

 そういえば、近くに喫茶店ができたって聞いたことあるような気がする。

 近いとはいえ、あまり人通りのない路地裏でやっているものだからクラスメイトの間でも全く話題になっていないけど。

 1周目でも行った記憶がない。

 これはやっぱり、何かが変わってきているということなの……?

 

 少しの不安を抱え、私は喫茶店へと向かった。

 

 そこで待ち受けているものを知らずに。

 

 喫茶店に入ると、コーヒーの良い香りが私を出迎えてくれた。

 お客さんこそ2人しかいないみたいだが……静かで店内の雰囲気もいい。

 人気店じゃないのが不思議な超穴場の喫茶店だ。

 

(へー、このインテリアいいね)

 

 人がいないのをいいことに、店内の装飾品を眺めていた私だが……そこで視線を感じた。

 何かと思ってそちらを注視すると——そこにはひろくんがいた。

 

「ひ、ひろくん!? どうしてここに……?」

「祐奈こそ! なんで喫茶店に来たんだ……?」

 

 ひろくんとはいつだって会いたい。だって好きだから。

 でも、私は朝、ひろくんから逃げた身。

 会うのはさすがにちょっと早すぎるんじゃないかな!

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