自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第22話 逃げたら後輩がついてきた

「いったい何が起きているんだ……?」

 

 小声でそんなことを呟くタツに俺はどうすることもできない。

 理由は1つ。怖いから。

 誰が好んで明らかに怒ってそうな人を落ち着かせるのか。

 俺は火薬の海に飛び込むほど馬鹿じゃない。

 

「ひろくん、宿題やってる?」

「先輩! お邪魔しまーす!」

 

 俺の部屋で生まれた爆弾の処理に悩んでいると、ちょうどよく祐奈が来た。なぜか関口も一緒だ。

 ノックもなしに勝手に入ってきやがって、といつもなら文句を言うところだが、今日はそんな状況じゃない。よく来てくれた。熱烈に歓迎させてほしい。

 

「あれ、なにこの雰囲気……って朝隈君?」

「どちらさまですか?」

「クラスメイトよ。翼ちゃんの先輩になるかもしれない人」

「わわっ、それは失礼を……」

「良いところに来たな2人とも。お茶でも出してやるから、待っとけ」

 

 三十六計逃げるに如かず。

 どうすることもできないなら、いったん離れるのが吉だ。

 祐奈たちにこの場を押し付け——任せて、俺は部屋を出る。

 

「先輩、待ってください! 私も用意手伝います!」

 

 と、同時に関口がパタパタと追いかけてきた。

 

「え、いいのに。お客さんなんだから」

「嫌ですよ。なんであんな怖い雰囲気の場所に置いていくんですか? ひどいです!」

 

 それは本当にごめん。

 先輩として言い訳のしようがない。

 だったらここは……!

 

「でもさ、関口だって祐奈を置いて行ったよな?」

「……うっ」

「これは……同罪になるんじゃないか?」

「た、確かに……祐奈先輩、ごめんなさい」

 

 同罪作戦、大成功。

 成功したのはいいが……関口の優しさに漬け込むようで少し心が痛い。

 関口の顔が暗くなってしまった。

 

「そういえば、どうして俺の家に来たんだ?」

「勉強会終わりに祐奈先輩が行くっていうからついてきたんですけど……も、もしかして、お邪魔でしたか……?」

 

 しょぼーん、という効果音が出そうなほど落ち込んでしまった。

 遊んでくれない飼い主を見る子犬のような顔で見つめてくる。

 やめてくれ。ただでさえ痛い心に、トドメを刺しに来ないでほしい。

 まるで子犬を捨てたかのような感覚になってしまうから。そんな経験ないのに。

 

「そ、そんなことはないぞ! 大丈夫、大丈夫だから。邪魔だなんて1ミリも思ってないからな!」

「ほんとですか……?」

「当たり前だ! 俺が関口に1回でもひどいことしたか?」

「さっき……」

「……あっ」

 

 そうだった。落ち込む後輩を励まそうと焦った結果、俺の所業を忘れていた。

 

「それは……ごめん、マジで。で、でも! 関口が邪魔なんかじゃないのは本当だからな! そこは信じてほしい」

「わかりました……じゃあ、その証拠として1回何でも言うこと聞いてくださいね?」

「わかったわかった。なんでも言うこと聞くから——今なんて言った?」

「言質、取りましたよ?」

 

 いつの間にか関口はいつも通りのニコニコ笑顔になっている。

 やっぱりその顔が一番似合う……じゃなくて!

 なんかなんでもするって約束させられたんだけど。反転攻勢の威力と速さが尋常じゃない。

 頭の出来は俺と同レベルと侮っていたが関口……なかなかやる後輩だ。

 

「……まぁ、言ってしまったものは仕方ない、か。それで? 何をお願いする気だ?」

「ふっふっふ、そんなの1択しかありませんよ、先輩。それは……」

「……それは?」

「先輩の家の合鍵をもらうことです!」

 

 ビシッとこちらを指さしてくる。

 探偵モノの「犯人はお前だ!」みたいな感じで。

 

「いや、それはだめだろ。普通に考えて」

「何でですか! なんでもって言ったのに!」

「だって、俺以外が関わることだから。親とか」

「で、でも……祐奈先輩が羨ましすぎるんですよー!」

「そりゃ、祐奈は幼馴染だから仕方ないだろ」

 

 幼馴染と中学の後輩、関係性や信頼度での差は歴然。

 もし、どちらかに合鍵を渡さなきゃいけない状況となったとしても、選ばれるのはほぼ確実に幼馴染だろう。俺だってそうするし。

 残酷なことだが、時間という積み重ねたものはそう簡単に逆転できないんだよな。

 

「先輩は見てないからこの気持ちがわかんないんです! 祐奈先輩が当たり前かのようにスッと合鍵を出したあの光景を!」

「それはそうだろ。俺の家によく来るんだし」

「くっ……! 幼馴染め……!」

「まぁ、そういうわけだから合鍵はダメだな。他は何かあるか?」

 

 不満そうに唇を尖らせる関口。アヒルみたいでなんか可愛い。

 少し口角が上がってしまう。

 

「……なに笑っているんですか」

「ごめんごめん、ちょっとね」

「気になりますけど……今回は聞かないでおいてあげます。それに、お願いは決まりましたし」

「おっ、じゃあ何にするか教えてくれ」

「私とお出かけしてください!」

 

 本日2回目となる探偵ポーズ。

 キラリと光る瞳は、今度こそ聞いてもらうという強い意志を感じさせるものだった。

 

「お出かけか……もちろん、来年の海以外で、だよな?」

「当然です! いくら合格した時のご褒美とはいえ、来年なんて待ちきれません。私もどっか行きたいです!」

「となると今年か。受験生を遊びに連れ出すのは気が引けるが……いいよ。なんでもって言った手前、これ以上断るわけにはいかないし遊ぶか」

「やった! あ、でも受験のことは心配しなくていいですよ。祐奈先輩も一緒に来てもらうので」

「それならお出かけ先でも勉強はできるが……いいのか?」

 

 合鍵の代替案とはいえ、わざわざなんでも言うこと聞くというお願いを使ったのだ。

 それに……喫茶店でキスされたこともある。

 本当なら2人で遊びたいはずだろう。

 

「いいんです、それで。先輩の言う通り受験生ですから。受験のことを忘れていいほどの余裕なんてありませんし」

「関口がそれでいいなら俺も構わないんだが……」

「それに、2人きりの楽しみは後に取っておきたいんです。受験勉強しなきゃ、なんて憂鬱なことを考えなくて良い来年に」

「……そうか。じゃあ、祐奈と一緒にどこか行くか」

「はいっ! あ、でも夏休みは全部夏期講習とか祐奈先輩との勉強会とかで予定埋まっているので、秋でお願いしますね!」

 

 屋内なのに太陽があると錯覚させるほどの眩しい笑顔に俺は頷いて答える。

 来年には俺が死んでるかもしれないけどね、なんて無粋なことは言わない。

 これは関口なりのメッセージなんだろう。私と約束しているんだから絶対死なないで、という。

 

 その想いは大事にしないと先輩とは名乗れないよな。

 また1つ、生き延びなきゃいけない理由が増えた。そんな気がした。

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