自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第39話 幼馴染をクリスマスデートに誘ってみる

 期末テストが終わってしまえば、もう学校でやることはない。今日、俺たちは終業式を迎えた。だが、迎えたのは終業式だけではない。今日は年に一度の特別な日でもある。

 

「ツリーを出している店、結構多いね」

「そりゃあな、クリスマスなんだし」

 

 学校へ向かう通学路の途中にある多くの店先にツリーが飾り付けられている。電飾も取り付けられており、夜になったらそれは綺麗な景色が見られるだろう。

 12月25日、クリスマス。プレゼントを待ち望んでいた子供たちがたくさんいる日だ。

 

「……そういえば、なんで学校に行っているんだろ」

 

 ツリーで今日がクリスマス、ということを再認識すると同時に……思う。今日は特別な日だろ? なんで休みじゃないんだ?

 

「なんでって……そりゃ終業式があるからだよ?」

「それはわかっているけどさ……終業式とはいえ、クリスマスに被せなくてもよくないか?」

「気持ちはわかるけど……ひろくん、何か予定あるの? ないでしょ?」

 

 急に隣から圧を感じる。ツリーの話をして和やかな雰囲気だったのに。

 祐奈の顔を見ると、鋭い眼光が俺を突き刺した。心まで貫かれそうな視線に、俺は思わず顔をそらしてしまう。

 

「あるの!? 顔をそらすってことはあるんだ! ひどい!」

「いや、俺たち付き合っているわけじゃ——」

「付き合っているかどうかなんて関係ないよ! 私というものがありながらクリスマスにデートなんて!」

 

 俺の言葉を遮ってまで祐奈はまくしたてる。付き合っていないのにここまで独占欲を発揮するなんて許されるのか?

 ……許されるよな。考えてみれば、俺も祐奈がクリスマスに他の男とデートするっていうのは嫌だし。

 

「誰と行く気なの? ねぇ、教えてよ」

 

 祐奈が身体を押し付けてくる。体重も結構かかっているので非常に歩きにくい。しかし、かわして祐奈を怪我させるわけにもいかない。俺に許されているのは、我慢して歩くことだけだ。いち早くこの状況から脱出するためにも、どうにかして祐奈を落ち着かせないとな。

 

「誤解だって、そんな予定はない」

「じゃあ、終業式で誘う気なんだ。放課後クリスマスデートしようって。……誰を誘うの?」

 

 これはもうだめだ。祐奈の中で俺は確実に誰かとデートすることになっているらしい。俺は祐奈の眼光に怯んだだけなのに。

 ……いや、もしかしたらこの状況……むしろ丁度良いのか?

 

「わかった、言うよ。俺は祐奈を——東川祐奈をデートに誘う」

「東川祐奈……私!? ひろくん、今私をデートに誘ってる!?」

 

 瞬間、物理的にも精神的にも感じていた圧が消え、歩きやすくなる。その代わりに、祐奈はクネクネと踊りながら歩くようになってしまった。そんな変な歩き方でもコケていないのはさすがの運動神経だ。体育祭で転倒寸前から立て直しただけのことはある。

 俺の誘いは突発的に湧き出たものじゃない。今日は特別な日。前から誘おうと思っていたことだった。誘うのが当日になってしまったのは、単に俺の勇気が出なかっただけ。今まで祐奈に誘われてばっかで誘うことをしていなかった弊害がここにきて出てしまったのだ。

 

「で、どうなんだ? 俺は今誘ったつもりなんだけど」

「うーん……デート、なんだもんね。私はどうすれば……」

 

 ん? 様子がおかしいぞ?

 俺は二つ返事で誘いを受けてもらえると考えていた。この1年だけでも、俺たちは海へ行き、キャンプへ行き、勉強会だって俺の家で何度もした。2人の時間は十分積み上げてきたのだ。だから当然今回も、と思っていたのだが……

 

「デート……デート、かぁ……」

 

 祐奈の踊りはまだまだ続く。それどころか激しさを増してきた。その動きでなんでコケていないのか不思議でしょうがない。今がクリスマスの朝でよかった。こんなに変な女子高生がいても、人通りが少ないから周囲の注目はそれほど集まっていない。

 しかし……もしかしたらあのクネクネ踊り、嬉しいからやっているというわけじゃないのかもしれない。それ以外にも何かあるのか?

 

「なぁ、祐奈。俺たちっていっぱい遊んだよな? それでもクリスマスはだめなのか?」

「だって、それは遊びだよ? デートじゃないからさ……」

「……デートみたいなものじゃなかったか?」

 

 特に海は2人きりだった。確かにデートという言葉は使われていないが……誰がどう見てもデートだろう。

 一体、ここまでデートという言葉に固執するのはなんでなんだ? あるとすれば未来関係の話だが……俺が死ぬってことはもう何ヵ月も前に伝えられているのだ。これ以上何かあるってことはないだろう。だから、これは祐奈自身の問題に違いない。

 なら、俺がすべきことは1つ。

 

「祐奈、いいだろ? いままで散々俺を連れ出したんだ。今日ぐらい付き合ってくれよ」

 

 少し強引にでも誘うことだった。クリスマスデートはクリスマスじゃないと意味がない。断るのに罪悪感を抱かせるような言い方になって悪いとは思っているが、ここは攻めさせてもらう。

 

「……わかった。そうだよね、たまにはひろくんのお願いも聞かないといけないもんね」

 

 やはり、効き目はあった。なんだかんだ言って優しい祐奈は、この攻めを防ぎきることはできない。ついにデートの約束を取り付けることに成功した。

 後、ついでに祐奈のクネクネ踊りも収まった。あまり見られていないとはいえ、隣を歩き続けるのはちょっと勇気が必要だったから助かる。

 

「決まりだな。じゃあ放課後——」

「でも、放課後は嫌。帰って着替えてからにして」

 

 待ち合わせ場所を決めようとしたところで物言いが入った。放課後そのままはダメなのか? 確かに制服のままだと補導されるリスクもあるが……冬休みに突入したとはいえ、さすがにそんな遅くまでデートするつもりはない。軽くイルミネーションを見て回って、ご飯を食べるだけの予定なのに。

 

「わかった……けど、なにかあるのか?」

「私、女の子だよ? デート前には準備が必要に決まっているじゃん!」

「そ、そうだよな。ごめん……」

 

 軽く怒られてしまった。

 けれど、準備なんて必要ないように思えてしまう。今日もいつも通りかわいいし。

 よし、聞いてみるか。今後のデートの参考になるかもしれん。

 

「ちなみに、何を準備するんだ?」

「そんなの決まってるよ! 爪を整えたりとか、かわいい服を選んだりとか。後は勝負下——……って、何言わせているの! 変態!」

「俺、聞いただけ……っ!」

 

 祐奈は立ち止まり、少し後ろから渾身のタックルを繰り出してきた。スピードもついていないし、体重も軽いから全く痛くはないが、それでも衝撃で前に数歩飛ばされる。

 

「——もう、最悪! 絶対忘れてよね!」

 

 その俺を追い抜かすようにして祐奈が走り出した。ただ、恥ずかしさで悶えているせいか、そこまで速くない。

 あ、結局待ち合わせとか決めてないな。

 

「祐奈! どこ集合にする?」

「駅前! 18時! 待ってるから!」

 

 単語だけの返事を残して祐奈は行ってしまった。追いかけたら追いつくだろうが、俺はデリカシーを持ち合わせた人間。今はそっとしておいてあげたほうがいいってちゃんとわかっている。それに、デートの誘いと待ち合わせ場所の決定という目的は達成したしな。追いかける理由がない。

 しかし、18時スタートか。昼過ぎに終業式が終わるとして、少し時間が空くな。この時間に何をしようか。

 俺も勝負下着を……なんてな。そんな特別な下着なんか持ち合わせていない。変にこの件をいじると次は普通に叩かれそうだし、イルミネーションスポットの下調べでもして時間を潰すか。

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