自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第42話 運命の定め

「ねぇ! 私たちの家の方向ってこっちだよね! 見えるかなぁ?」

 

 祐奈がぴょんぴょん跳ねながら展望台を回る。精神は誰よりも大人のはずだが、この絶景は子供心を取り戻せるほど彼女に刺さったらしい。誘ってよかったし、調べた甲斐があった。ここまで喜んでくれると、俺も一緒に飛び跳ねてみたくなる。

 

 ……やめておこう。ちょっと想像したが、あまりにもナシな光景だった。祐奈みたいな美少女がぴょんぴょん飛び跳ねる姿が可愛くて魅力的なのであって、俺みたいな男が飛び跳ねたところで何も起きやしないのだ。それどころか、周囲から変な人と思われるかもしれない。

 

「見えるかもな。でも、暗くてどこだかわからないけど……」

「それでもいいよ! それに、あの光のどこかに私たちの家があるって思う方がロマンチックじゃない?」

「……なるほど。見えないほうが逆に興奮するみたいなものか」

 

 人間とは隠されたものにロマンを感じる生き物だ。例えば、徳川埋蔵金。あるかもしれない、という想いだけで、人は突き動かされてしまう。

 他にも身近なものでいうと、女性の下着もそうだ。本来、パンツやブラジャーなんてただの布切れに過ぎない。布に興奮するなんておかしい。だが、世の男子はすべからくこの布が見えた瞬間興奮してしまう。その理由は、この布が神秘を隠しているものだから。見えるはずのない中身、というロマンを感じ、ドキドキしてしまうのだ。

 

「……なんか、ひろくんさー……変なこと考えてない?」

 

 ロマンが持つ力に想いを馳せていると、ジト目をした祐奈からツッコミが入った。ジト目可愛い……じゃなくて、だ。どうしてバレた? まさか、心が読めるのか?

 

「今、心が読めるのか、とか思っているでしょ」

「なっ、なんでそれを……。まさか、本当に……?」

「ふっふっふ……隠していたけど実は——……とかないから。女の子なら普通にわかるよ」

 

 普通にわかる……? 訳が分からない。言葉にも出していないのに。それが普通にできるなら、女の子は全員エスパーってことじゃないか。

 

「あのね、ひろくん。女の子は黙っているだけで、男の人の視線とか何か変なこと考えていそうだなとか……色々気付いているからね?」

「……え、マジ? じゃあ、俺の今までも……」

「ひろくんの今まで? うーん……あ、ひろくんは私の匂い好きだよね。匂いフェチってほどじゃないにしても、近づいたらいつも呼吸するたびにうっとりしてるし」

 

 最悪最悪最悪最悪っ……! 俺、うっとりしていたのか!? 無意識すぎて全然気付かなかった。

 あぁ、終わったな……穴があったら入りたい。ここは穴とは程遠い展望台だけど。それでも、今すぐに穴を掘って埋まりたい。

 

「一応聞くけどさ、展望台って、どっかに穴ある?」

「全部見たわけじゃないけど、絶対ないよ。危なすぎるし。それに、もしあったとしても私が行かせない」

「じゃあ、この恥ずかしすぎる思いはどうすればいいんだ?」

「知らない。これからは反省して、変なことを考えずに生きればいいんじゃない?」

 

 それは無理だ。俺は男子高校生だぞ? 無欲で生きるなんてできるわけがない。いつだって煩悩だらけなんだから。もし一切無欲な男子高校生がいるのであれば、その子には神主や住職になることを強くオススメしたい。

 

「……今後も祐奈のジト目を見る機会はたくさんありそうだな」

「あれ、直さないんだ。まぁ、ひろくんにだったら私は別にいいんだけど」

「え、それはどういう意味——」

「あ、お土産屋さんだ! ちょっと見てくるね!」

 

 なんかとんでもないことを言ってたぞ。俺にだったらそういう目で見られてもいいってことか!? これはどっちだ? 俺のことが好きだからなのか、幼馴染としてそばで見てきて慣れてしまっているからなのか。

 

 走る祐奈の後ろ姿を見ても何もわからない。耳は赤いが……そもそも彼女の耳はこのデート中ずっと赤い。だから、何の判断材料にもならないのだ。

 

(にしても、本当にいい景色だな……)

 

 気持ちを落ち着かせるため、祐奈を追わず、展望台の窓から外を眺める。星空と夜景、それにイルミネーション。どれも性質が違う明かりだが、どうしてだろうか。それぞれの光が景色として溶け込み、一体感を放っている。

 それだけに、あれだけ広い街がまるでミニチュアのようにも感じられた。ゆっくりと流れる車のライトがその感覚を増長させる。あれも、本当は速く走っているはずなのに。……これも、視点の違いという奴だろうか。

 

「祐奈、なにかいいものでもあったか?」

 

 夜景に満足した俺は、祐奈を探しにお土産屋さんへと向かった。すると、祐奈は真剣な表情でそこにいた。目線の先には……星のペアキーホルダー?

 

「え!? あー……、うん。大丈夫。私も満足したし、そろそろ帰ろっか」

「でも、それは……」

「いいの。私にはまだ早いから」

 

 キーホルダーにまだ早いとかあるのか? 絶景ポイントとはいえ、ここは誰でも登れるタワーの展望台。そこのお土産屋さんのものだから、そんな格式高いものでもないのに。

 

「ほら、行こ。あまり遅くなっちゃうと親に心配されちゃうし」

「あれ、でも、しょう——」

「……しょう? どうしたの?」

「あ、いや、なんでもない。生姜とか買って帰りたいって話をしたかっただけ。うん」

 

 あっぶねぇ……勝負下着はどうするの、なんてバカみたいな言葉が出かけた。デートに誘ったとき、勝負下着の話をされたことがまだ頭にこびりついている。きっと、さっき下着のロマンを考えてしまったのもそれのせいだ。そうに違いない。

 エレベーターに乗り、今度は降っていく。さらば、絶景よ。またいつか会おうな。

 

「確かに! 冷え性にも効くし、生姜を使ったものは食べておきたいよね」

「そうだろ? じゃあ、買って帰ろうか」

「そうだね、買って帰ろう。今日はさすがに無理だけど、明日にでも何か作ってあげるね。それと——」

 

 料理の話でごまかしきれた、と思った瞬間のことだった。祐奈が俺の顔をわしづかみにしてきた。手は柔らかいけど、小さいせいでフィットはせず、ちょっと痛い。

 

「女の子は気付く、って話をさっきしたよね? それと……勝負下着のこと、忘れてなかったんだ。今この場で忘れさせてあげてもいいよ?」

「ご、ごめん……でも、気になっちゃって……」

「……ひろくんだから言うけどさ、着てはいるよ? 着てはいるけど、使うわけないでしょ。私たち、恋人同士でもないんだし」

「そっか……そうだよな、恋人じゃないしな」

 

 恋人、というワードにドキリとする。その言葉は俺の決意が叶った先にあるものだからだ。しかし、この先手は痛いな。そういう目的でしてきた、と思われてしまってもおかしくない。

 でも、もう決心したんだ。退路だって断った。やるしかない。

 

「いやー、綺麗だったね! 久しぶりにこんなにはしゃいじゃったな」

「本当にな。俺も見たことがないくらいのはしゃぎっぷりだったぞ」

「そ、そう言われるとちょっと恥ずかしいね……」

 

 地上についたエレベーターを降り、2人で駅のほうへ向かう。そこにあったのは、先ほどまで見ていたミニチュアのような景色ではない。いつも通りの世界の姿だ。

 いつも通りじゃないことがあるとすれば、隣に照れ笑いをしている祐奈がいるってことくらいなもの。今日は知らなかった表情がいっぱい見れて良かった。普段の遊びとは違う、デートだからこそ見られた顔。写真には取っていないけど、一生忘れることはないだろう。

 

 俺たちは歩みを進め、横断歩道を渡って、ついに駅前のベンチまで辿り着いた。……さて、行動開始の時間だ。

 

「あ、ちょっと待って。展望台に忘れ物した」

「え? じゃあ、私も一緒に——」

「いいよ、そこで座ってて。すぐ戻ってくるから」

 

 俺はダッシュで展望台に戻る。忘れ物? もちろん嘘だ。目的はただ一つ、祐奈が見ていたキーホルダーを買うためだ。

 

 タワーに再入場した俺は、手早く星のペアキーホルダーを買って降りる。この間わずか数分。職員の人、びっくりしただろうな。急に走ってきたと思ったら、数分後に走って出ていくんだから。怪異か何かと間違えられても文句は言えない。タワー爆速周回妖怪なんているのかわからないけど。

 

(待っていろよ、祐奈。このサプライズで……)

 

 いや、待てよ。女の子が見ていたものを買いました、なんてよくある話過ぎないか? 特に、今日の俺は失態が多かった。このマイナスをプラスに変え、決意を成功させるためにはもっとサプライズが必要だ。

 

(走りながらとかは……アリか?)

 

 少なくとも、インパクトは凄そうだ。よし、これに決めた。この衝撃で俺の失態を吹き飛ばしてやろう。

 

 俺は走って祐奈の待つベンチへと向かう。ちょうどよく横断歩道の信号が青に変わった。いいぞ、途中で止まってしまうと、インパクトが激減するからな。

 

 俺は全速力で横断歩道を突き進む。車道の車の光がスポットライトのように俺を包み込んだ。

 

「祐奈! 俺は祐奈のことが好きだ! 俺と付き合っ————————」

「ひろくんっ——!」

 

 瞬間、世界が加速する。目の前にいたはずの祐奈が一瞬にして消え去った。祐奈だけではない。ベンチも街路の木々も、その瞬間に消えていった。

 遅れて、俺の体に衝撃が走る。鈍く鋭い衝撃が。身体のあらゆるところに広がっていく。

 宙に浮く感覚もした。エレベーターで感じたものとは比にならない、正真正銘の飛んだ感覚。そして、若干の浮遊を終えた俺はあるべき場所——地面へと叩き落される。

 

(俺は……轢かれた……?)

 

 かろうじて開いている目から、走り去っていく車が見えた。どうやら、俺を助ける気はないらしい。かといって、俺が助けを呼べるかと言ったらそれは無理だ。さっきから祐奈の名前を叫ぼうとしても、声が出ない。まぁ、祐奈の精神は誰よりも成熟している。救急車とか助けをすぐに呼んでくれるはず。

 けれども、助けが来たところで、助かるかなんてわからない。ピクリとも体が動かせないせいで怪我の状況がわからないし、そもそも身体の感覚がない。

 

(これが、運命か……)

 

 聞いた話だと、来年のホワイトデーだったはずなんだけどな。これは俺が決意したからか? それとも、祐奈の行動で運命が悪い方向に変わった?

 ……どっちでもいいか。定められた運命は変更不可能。それがこの世界の摂理なのだろう。遅かれ早かれ、俺は死ぬ運命だった。ただ、それだけのことだ。誰かのせい、なんてことはない。

 

 あぁ、もう、限界だ。ごめんな、祐奈。せっかくのクリスマスデートだったのに。俺は目を閉じ、意識を無へと手放した。

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